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椎名代理店  作者: 奇文屋
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「ふぅ……」

 やっと着いた…… 

私の宝と邪魔やけど無いと困るモノ物が入った重たいボストンバッグをドサッと置く。

う〜ん、と体を伸ばすとポキポキと骨が鳴る。

「さて……」

 ……アイツは何処に

ケータイを取り出し、重大な事に気付いた。

「あ! メモリ一つ!? ウソ!? マジで!?」

 とりあえず伝えたい事をまとめる。

「……よし」

 まとまった言葉を胸に電話を掛ける。


「よ。眼鏡。暇潰し?」

「うるさい。眼鏡って言うな」

 レストに入ると、いつも通りの会話。

「空いてるトコに座ってて」

 俺だけがこんな扱いなのか? 常連だからか?

……考えても分かるわけは無かった。

 コーヒーを飲みながらぼんやりとしている。

「暇そうだね」

 目の前に衣里が座っている。

「そうでも無いけど。何でコーヒーを持ってきた?」

「ん? 私の」

「仕事しろよ」

「今暇だし」

 漫画を読み始める衣里。

チラッと店長を見るが同じ様に新聞を読んでいた。

いい感じに緊張感が抜けいてる良い店だ。


 漫画を読んでクスクス笑っている衣里。

新聞のクロスワードを真剣に考えているレストの店長。

ぼんやりと通りを眺めている俺。

「お」

「ケータイ切っとけよ」

 ジロッ睨む衣里。

「ケータイダメだったか?」

 睨まれて外に出る俺。

出る直前にもレスト店長にも睨まれていた。


 着信は……画面には懐かしい名前。

「珍し。……もしもし」

「あ、あんな今……」

 切れた……。

「何だったんだ?」

 こっちから掛けて見るが繋がらない。


 マジで限界やったんか……

どうしよ〜? ここまでの電車賃でもう金は無いぞ?

「うわ〜どうしよ……」

 ぺたり、とバッグに座りこんで考える。

「お」

 目に見えたのはこの街の地図。

「あれで……」

 一縷の望みを地図に賭ける。


「誰から?」

 店に戻り、衣里が漫画から目を放さずに聞いてくる。

「ん、姉ちゃん」

 ガバッと顔を上げる衣里とレストの店長。

「マジで!? お姉さんいたの?」

「ウソだとしたらしょーもないだろ」

「今何処にいるんだ? 迎えに行ったら?」

「行きたいんだけど。何処から掛けてきたのか……」

「駅じゃないのか? こっちに来たからお前に掛けてきたんじゃないのか」

 なるほど。

「こっちから掛けたら?」

「掛けたけど繋がらない」

「何で?」

「こっちが聞きたいよ」

 ケータイの画面に映っている姉ちゃんの番号を見つめる。何してんだよ。まったく。


 希望は脆くも崩れ去った。

書かれているのは観光名所だけ。

考えて見ればあたり前の事やんな。

「くそ〜」

 浅はかな自分が腹立たしい。

……待てよ。見間違いかもしれん。よし。とりあえず眼鏡を拭こ。

 ……待てよ。確か。

……何とか通りがどうとか言ってた様な。

えーっと……ノ……ノ……ノ。

 頭の隅っこにある言葉に近い名前を探す。

「ここっ!!!」

 ノーティス通り。

確かこんな名前だった筈。

ここから行くには……指で地図上を歩く。それを頭で覚える。

「……よし!」

 何度も繰り返し完全に覚えた。

「行くか」

 朝の駅前。両手に重いバッグを抱えて歩いて行く一人の少女。その胸には希望を抱えていた。

……小説ならこんな感じかな。

「……」

 現実はニタニタと笑う私を避けていくサラリーマンの冷ややかな視線だった。


「へ〜。アンタって『関西』出身だったの?」

「知らなかったな。言葉とかこっちの言葉だから」

「まぁ、特別言う事でも無いかなって」

「ね、ね」

 衣里のキラキラした目。

この目は何かを企んでいる目だ。直感でそう感じた。

「ちゃうちゃうちゃうんちゃう? って言って」

 悪意が無いのがムカつく!

「じゃ、姉ちゃん迎えに行ってきます」

「あっ! ちょっと!」

 そんな衣里を無視してレストを出る。


またしても希望は脆くも崩れ去った。

「ここ……どこ?」

 おかしいな。あんだけ確認したのに。

いつの間にかコンクリートジャングルに迷い込んでいた。

 いや、地元にもコレ位のビルはある。恐がる事はない。

自分を奮い立たせる。

「よし」

 何が「よし」なのか自分でも分からんが、グッと手を握る。


 といあえず駅に来たがウチの姉ちゃんは……見当たらない。

「何処に行ったんだ」

 少し駅周辺をうろついて見るがやっぱり見当たらない。


「あれ?」

 着いた先は明らかに児童公園。

何処で間違えた? 

 道を聞こうにも誰も通らない。

そう考えてもう一つ気付いた。

「あいつの家……何処や?」

 ノーティス通りは駅の観光案内に載るほどの大きな通り。

いくらなんでもそんなトコには住んで無いやろ〜な〜。

しかし、それは身内を過小評価しているとも考えられんか?

いやいや万が一と言う事もありえる。

 それよりここは何処?

え? 私もしかして……嘘。そんな事無いやろ……え、でも。この状況は間違い無いような。

……迷子?


「何処に行ったんだ?」

 駅前からノーティス通りを歩いて行く。

随分前にノーティス通りから路地に入った所にある代理屋で働いている事を話した事を思いだした。

無論『椎名代理店』の事だ。

「しかし……何処に行ったんだ」

 姉ちゃんの行きそうな所に行ってみるか。


「おや?」

 ここは何処?

「うーん。どうしよ」

 誰かにケータイ借りるか?

でも、番号を思い出せなんしな〜。

「充電器借りるにしても」

 持ち歩いて無いやろな〜。

「その前に」

 人の通る場所に行かんとな〜。


「姉ちゃんの好きそうな場所なのに」

 いない。

俺はあまり来た事は無いがゲームショップに到着。

店内も探してみるがいなかった。

「……腹減ったな」

 時間は十二時手前。

食い逃げとかは止めてくれよ。


「腹減った」

 時間は、手でお腹を擦る。この感じは十二時……の筈。

しかし、手持ちが無い。

 さっき見た児童公園よりはゆったりとした公園のベンチにて空腹を耐える私。

千歳! 私はここにいる!!

 テレパシーを送ってみる。

届く事を神に祈る。


 姉ちゃんを探して歩き続ける。

何処に行ったのか? つーかケータイ使えないなら駅でじっとしてればいいのに。

向こう見ずな行動力は相変わらずだな。

 しかし、一体何の用で来たんだ?

何か合ったのか?

 ……ここで考えても分かる訳無いよな。


 残念ながらテレパシーが届かなかった様だ。

「どうしたものか」

 ベンチに座り、次なるを手を考える。

時間は午後三時。

「あ〜。腹減った」

 思考回路の占有率はどうやって連絡を入れるかよりも、空腹を満たす事を優先していた。


「あれ、眼鏡? お姉さんは」

「まだ見つかってない」

「……え? あれから」

 衣里が時計を見る。

午後四時。姉ちゃんからの電話が午前九時前。

「えっと……」

 過ぎた時間を指折り数える衣里。

「七時間か。お金もそんなに持ってないんでしょ」

「連絡して来ないって事はそうかも」

 空腹で倒れてたりしないだろうな。

「私も手伝おうか?」

「時間があるのなら頼む」

「夕飯オゴリで」

 にこやかに微笑む衣里。

しかし、人手が欲しいのも事実。

「了解。それで頼む」

「じゃ、夏子さんも呼ぼう」

「え」

「え。じゃないでしょ。言ってないの?」

「言ってない。と言うか考えもしなかったし」

「ダメね〜。あ。もしもし。今、千歳のお姉さんを探してるんですよ。……はい、千歳の。それで、連絡がつかなくって……はい、今探してるんですよ。……で、これから私も手伝う事に……そうなんですよ、頼りないですから。で、夏子さんも……そんな事言わないで下さいよ」

 漫画でも読んでいるのだろう。嫌がっている声が聞こえてきそうだ。

「見つかったら千歳が夕飯奢ってくれるって言うから。千歳」

「何?」

「夏子さんも手伝ってくれるって」

「頼むって言っといて」

「千歳がお願いしますって。……はい、はい。そう言っときます。じゃ、また後で」

 衣里がケータイを切ると、

「夏子さんが店に来いって」

「店? どっち?」

 『椎名代理店』と『レスト』

店と言えばこの二つが候補になる。

この場合は代理店の方だろう。

「はい。それじゃ、後で」

 電話を切る衣里。

「しかし、あっさりと手伝ってくれた事に不安を感じるのは何でだ」

「あはは、お腹でも空いてたんじゃない」

「何にしても手伝ってくれるのならいいや」

 二人でノーティス通りを歩いて行く。

 

 代理店に着いた。中には、

「よ」

 店長と、

「はは、何でここにいるの?」

 ラーメンを食べながら振り返って俺を見ているその顔は、

「……千歳。久しぶり」

 口に入っている麺を飲み込み、そう言ってまたラーメンを食べ始める。

「あ。千早が千歳の姉ちゃんなの?」

 コクコクと頷きながらもラーメンを食っている。

「じゃ、これ」

 手渡された伝票。

「よろしく」

「あ、私のは」

「じゃ、も一回出前を取るか」

 店長が電話を掛けようとすると、

「あ、私チャーハンと野菜炒め」

「まだ食うのかよ」


「で、何しに来たの?」

「ん?」

 満腹感に包まれて目を閉じ掛けている我が姉。

「おい。聞いてるか?」

「うん聞いてる。何しに来たかって?」

「そう」

 頭を掻いて、

「ん〜。私もこっちに住もうかなて」

「ふーん。そっちはいいの?」

「ちゃんと師匠達に言ってきた」

「部屋は決まったの?」

 俺を指差している。

「俺の部屋?」

 親指と人差し指でマルを作る。

「ま、いいけど」

「あれ? 師匠ってなんの? 親じゃないの?」

 お茶を啜りながら『師匠』に引っかかった店長。

「言うてないの?」

「何、何?」

 衣里も興味を持ってきた。

「言ってませんでしたか? 親死んだって」

 ……あれ? 出来るだけ明るく言ったつもりだったんだけど。

店長と衣里の動きが止まる。

「アホ。もうちょっと空気読め、なんで死んだやねん。いないって言うやろフツー」

 意味的には変わらないだろ。どっちも。

「明るく言ったつもりだったんだけど」

 俺達姉弟と店長達の間の温度差が違い過ぎる。

「まぁ……その」

 店長が口ごもる。

「と、とりあえず今日は帰りますんで、また明日!」

 姉ちゃんが満面の笑みで雰囲気を和らげようとする。が、

「……あぁ。明日」

 不発に終わった。


「お前の所為やぞ!」

「俺の所為か!」

「他に誰がいる! 私が楽しく飯を食ってたのに!」

 何でキレてんの? 迷子になってたくせに!

「ホンマに……お前は〜」

 訳分からんが、とりあえず、

「ゴメン」

「何でも謝ったら許されると思うなよ!」

「じゃあどうしたらいいんだよ!」

「自分で考えろ!」

 うわ〜。何言っても無駄だよ。

部屋に着くまで、懇々と『場の空気の読み方』を説明されたがよく分からなかった。


「意外に広いな〜」

 部屋に着いてから大家に連絡して姉が同居する事を連絡。

あっさりとOKしてくれた大家さんに感謝を伝えて、電話越しで姉を紹介した。

 その後さっさと風呂に入る姉。

「は〜。気持ち良かった〜」

 まったく……この姉は〜。

「おい。手に持っているのは何だ」

「ん? パジャマ」

「何で手に持っている?」

「風呂上りで暑いから」

「パジャマは着る物だと思うんだけど」

 と言うより常識だ。

「喉渇いたな〜」

「無視すんな」

「あっつ〜」

「……」

 嫁入り前なのに…姉の将来に一抹の不安を感じる。

「ん? お前も飲むか?」

「……うん」

 コップを二つ持ってくる。

二つのコップにお茶を注いで、当然の様に、

「あっ!」

 テレビのチャンネルが変えられる。

「ちょ……ニュース見てたのに」

「明日の朝見ろ。もうちょっと詳しくやってるから」

「今……見たいんや!」

「お。関西弁に戻ったな〜」

「……こっちじゃ珍しがられるから使わないんだ」

「故郷の誇りを忘れるな」

「そう思ってるのは姉ちゃんだけだろ。それに言葉一つで誇りも無いだろ」

「言葉を舐めんなよ? 意外に大事な事やぞ」

「意外って何だよ」

「それは……お前……」

 コントローラーを握り考える姉ちゃん。

「お前がニュースを見てたのはあのアナウンサーが目的か?」

 全く違う切り口から攻めてきた。

「か、関係ないやろ!!」

 思いがけない攻撃に声が上ずった。

「何慌ててるのかな〜。千歳君」

 それを見逃さない姉ちゃん。

「べ、別に何も慌てて……」

「何て名前やったかな〜。確か……『細見咲』やったか?」

 一瞬で顔が熱くなるのが分かる。

「ふふーん。分かりやすいな〜」

「何が?」

「べっつに〜。早よ風呂行け」

 この場に居てもからかわれるだけなので風呂場へと戦略的撤退。

くそ……何なんだ。この恥ずかしさは……。子供じゃあるまいし……

 しかしこれで向こうにあらゆる事の主導権が行ってしまった様な気がする。

風呂から上がり、ゲームに夢中になっている姉ちゃんを他所にベッドに潜り込む。

「……」

 妙な気恥ずかしさとゲーム音に抱かれて眠りに着く……


事が出来ずに朝になった……

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