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王家の崩壊  作者: 千歳
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近衛隊でもウィステリアは嫌われ者だった。

近衛隊に入ることが許されるのは三代以上続いた貴族の子弟のみであるという条件があったので、誇り高い貴族の血を引く兵士達は卑しい出の彼女を敵とみなした。



成りあがりの下品さはどのような高価な衣服を纏っても隠せない。例え、王妃様よりも王妃気取りで宮殿を闊歩していても。彼等はそうよく噂したものであった。


いや、彼等だけでなく市井の人々も噂していた。シャールは時々普段着に着替えて町の飲み屋に出かけることがあった。すると周りの客がこう言っていたものだ。王家の敵は外国より国内の反逆者より、あのお妾夫人だよ。近衛隊はあれをさっさと切り捨てないと駄目だと何故気付かない?


シャールは正直驚いた。平民の娘が王の寵愛を受けるというのは一つの成功譚であり、支持と憧れを集めているのではないかと予想していたからだ。しかし違った。


彼女は平民の希望の星ではな、く一族の希望の星に過ぎなかったからだ。


むしろ、彼女がいかにもその生まれの卑しさを恥じながら、王妃に遠慮をしながら王に献身的に尽くしていたとすれば民衆は彼女を熱狂的に支持しただろう。


娘達は彼女の髪形を、化粧を、服装を真似て街を闊歩しただろう。そうなると王妃も貴族達も危機感を一層強めていたはずだ。その点についてはあの女の愚かさは有り難い面もあった。


実は彼自身も生まれの卑しさという点に置いて、彼女に同情していた時があった。

彼自身は古い家柄の貴族であるとはいえ、領地と家は王宮から遠く離れた田舎にあった。普通であれば、生まれた地で一生を終えていたことだろう。


しかし、彼は幼い頃から勉強が好きで、知的好奇心が豊かであった。時には父の蔵書を片っ端から読んでやろうと試み、また有る時は四つ上の兄が使っている教科書をこっそり読んで問題を解いたりもした。


また、何より体が丈夫で健康そのものだった。これは彼の兄が同じくらい勉学においては優れていたが、病気がちであったことと対照的であった。


貴族の家でも子供が五人生まれればその内の二人は成人前に亡くなっていた時代である。


跡継ぎたる男児が健康で丈夫だというのは極めて重要なことであった。その為に彼の両親は彼を手元に置いておきたがった。


長男に何かあった際の代用品になるからだ。しかし、彼の叔父が彼には都市での教育を受けさせるべきだと主張した。優秀な彼をこんな田舎に一生閉じ込めておくのは国家にしても大きな損失になると説得したのだ。

 

彼自身も都市での教育を希望し、両親に懇願したが、なかなか首を縦には振って貰えなかった。叔父と二人がかりで幾度も頼み込み、そうしてようやく一年と五カ月後に許しを貰い、叔父に手を引かれて首都まではるばるやってきたのである。

 

それから彼は王立上級陸軍士官学校に入った。この士官学校は他にも幾つかある士官学校と区別する為に上級という言葉が上に載せられていた。


上級とついている理由はごく単純で、入学者を貴族の子弟に限定していたからだ。

ただし、近衛隊にある三代以上という条件はなく、新興貴族でも入学は可能だった。


彼は其処で軍政学や戦史を学ぶ一方で、外国語や哲学等の教養科目も同時に学んだ。


日々の訓練や演習をこなしながら、外国語を訳したり、自国の歴史について書かれた本を読んで論文を提出したりするのは本当に大変だった。眠気と疲労と闘いながら一日一日を過ごしていた。


時には級友から、田舎貴族だということで馬鹿にされることもあった。その度に彼は言い返し、時には取っ組み合いになることもあった。懲罰房にぶち込まれたことも二三度あったが、その場合は相手も同じ罰を受けていたので彼は学校を見直した。


入学条件は公平ではないが、入学した生徒達は公平に扱われた。即ち、シャールのような田舎貴族も王家と血縁関係のある名門貴族も分け隔てなく接せられたのである。


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