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王家の崩壊  作者: 千歳
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 それに、ソレイユ夫人と王妃の少女時代の延長のような友情の間に彼女が溶け込める隙はなかった。彼女の遠慮と彼女達の戸惑いが溝を生んでいた。


三人の女性は決して憎み合っている訳ではなかったが、間には明らかにぎくしゃくした関係があった。


王妃とソレイユ夫人の間にも溝がないことはなかった。


いや、それは王妃が一方的に感じていた疎外感かもしれない。


ソレイユ夫人とロッド夫人には愛する対象がいて、そして愛されている。


殊に故人の愛は誰にも侵せないものだ。


優しい日々は苦難の道を進むときも糧になるだろう。しかし王妃にはそれがない。


舞踏会で一緒に踊った青年貴族達、王妃の前を緊張した面持ちで進む士官達。

それらの美しい人々を王妃はまるで愛玩動物のように、コレクションのように大事に並べたことはあったけれどもまだ本当の恋も愛も知らないのだ。

 

王妃はそれを考える度に何度自分が劣等な人間だと思いつめたことだろう。


いや、自分を責めることさえ自己陶酔の甘えでないかと何度苦しんだことだろう。

しかし今、それを王妃は断ち切らねばならなかった。何が何でも王室とロッド家の威光を取り戻さねばならない。


私は、私は優しく愛される女への憧れと執着を捨てて立ち上がらねば。きっとそれが私の最初で最後の政だわ。王妃はソレイユ夫人の腕から離れると近衛隊長の方を見て言った。


「これから、頼みましたよ」



その日から王妃はソレイユ夫人の部屋で暮らし始めた。王は何も言ってはこなかった。


厄介払いが出来たと思っているのかもしれない。


彼の関心が常にウィステリアに向いていたのは皆嫌という程知っており、腹立たしく思っていたものだが、今や彼女の消息は此処に連れてこられた全員の関心となっていた。


近衛隊長は彼女が恐らく自分達と同じく軟禁、もしくは監禁状態にあるのではと睨んでいた。


それに対してセリルの方はもう彼女はこの世にはいないだろうと予測していた。


彼女は、彼女の一門は長い間貴族だけでなく民衆の憎悪の対象でもあった。王君があの女を宮廷にお披露目したその日からずっと。その日を境にウィステリアは王室の御用職人の座をたちまち自分の縁者達に独占させてしまったから。 


 菓子職人一つにしてもその職人から材料や調理器具の流通まで一門の者に行わせた為に今迄王宮で働いていた人間達は失職するか安い賃金での再雇用を余儀なくされた。


王妃も流石にこれについては激昂した。


そして王にあの女の愚行を止めるように再三廷臣達と申し入れたが、彼は聞き入れなかった。


王妃は仕方なく今迄働いていた職人たちを王妃個人の名で雇いなおした。また、貴族達にも彼等の作った商品の方を購入するように推奨した。それが彼女に出来ることの限界だった。


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