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王家の崩壊  作者: 千歳
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6

ソレイユ夫人と王妃の信頼と友情は、日を増す毎に深まっていった。そしてそれは、あの女に対する同盟でもあった。


貴族の血の誇りにかけて、あの女は許さない。そういった意志の現れでもあり、王宮の人間の大部分はその同盟を支持した。


国民もまた王妃に深い同情を示した。王妃は取り立てて慈悲深い性格でも倹約家というわけでもなかったが、非難されるほど冷淡でも奢侈でもなかった。

何不自由なく育ち、貴族としての特権を享受する彼女にとっての慈善は寄付や孤児院や病院を訪問すること、孤児や貧困に苦しむ家庭の子供の為の学校の設立に関わったこと、そのくらいであった。


しかし、それは彼女だけではなくほとんどの人間が自分から遠い不幸に心を真に寄せられるかと言えば否であり、それ故に彼女は平凡な人間であり、悪人ではなかったと言って良い。


宮仕えの人間に対しても、無邪気な我儘で困らせることはあっても威張り散らすようなことはしなかった。


それに対して「あの女」はまるで自分が主人かのように臣下の者達に対しても振る舞ったのでますます王妃は好意的に見られた。


けばけばしい色のドレスを着て我が物顔で闊歩する女より、どこか愛らしい少女の面影を残しながらも上品な装いを好んだ王妃の方が王宮に相応しいと大多数の者は判断したのである。


勿論、王妃にも欠点はあった。嫁入り前の教育を境に随分と成長したとはいえ、相変わらず我儘で自分が気にいった人間は独占したがった。


また、気まぐれな面があり、突然に夜会を開く一方で、あるときは本の続きを読みたいからと出たがらず、廷臣達が手を焼いたこともあった。


それでも彼女の良い意味でも悪い意味でも、甘やかされた性格と振る舞いは王宮に華を添え、其処にいる人々の心を愉快にさせた。それは「あの女」が王宮に受け入れられなかったのと対照的であった。


「あの女」は名をウィステリアといった。豊かな商人の家の娘で平民の出であった。


彼女は美しく野心家で、好きなことは贅沢と殿方に愛されること、といった具合であった。


彼女はその美貌、美しく波打つ濃いブラウンの髪と大きな青い瞳を武器に身分の高い男達を次々と虜にしていった。背は高く、胸は豊かでいつもそれを引き立てる衣装を身にまとっていた。


また、彼女は成り上がるために美しいだけでなく教養も身につけており、洗練された優雅な物腰と会話の持ち主でもあった。


そんなウィステリアと王が出会ったのは大晦日の宮廷夜会だった。通常ならば宮廷夜会に出席出来るのは王侯貴族のみだがこの日に限っては「選ばれた平民」が出席することが許されていたのである。


選ばれる基準は二つあった。一つは国家に恩恵をもたらしたもの。

これは武功を立てた軍人や、国家に役立つ画期的な発明をした技術者や、高名な学者が選ばれた。


二つ目は国家に対して恩義に報いたもの。これはつまりは王宮に莫大な寄付もしくは物品を献上した者である。


ウィステリアの父は無論後者の行いをして招かれた人間であった。


そうして招待状を手にした彼は自慢の娘を連れて行った。


彼女がどこかの貴族の目に留まることを期待して同伴させたのだ。

勝気な彼女は、貴族の娘達を余所目にシャンパンゴールドのタフタ地のドレスを着て優雅に宮廷の大広間で舞ってみせた。


豪華なホワイト・ダイヤモンドのイヤリングを揺らしながら少し歯を見せて笑う彼女に青年達は夢中になった。


当時は第二王子だった王もその姿に心を奪われた。


宮廷の教師に習うようなステップではなく自由にいきいきと踊る彼女には、周りの貴族の娘達が持ってないものを持っていた。枠に囚われない奔放さと勝気な華やかさ。


周りの制止を振り切って第二王子は彼女にダンスの相手を申し出ていた。当時存命していた彼の父親は激昂した。


王太子は不安げに成り行きを見守り、王太子妃はこれから何が起こるのかを予感していた。ソレイユ夫人は最初から王が骨の髄までこの女に入れ込むであろうことを見抜いていたのだった。



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