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王家の崩壊  作者: 千歳
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 次の日、昨日起こった事の顛末を聞いて一番怒りを露わにしたのはロッド公、つまり王妃の兄であるセリルであった。

 「可哀想に、メイディ。全くお前には何の落ち度もありゃしないのに……」


 セリルは王妃を抱いて髪を撫でさすってやりながら王君への不満を零した。監視兵が付いていることなどお構いなしだ。


ロッド夫人も王妃を慰めた。王妃は黙って兄の腕にしがみ付いていた。ソレイユ夫人も王妃に優しい言葉をかけた。


 「お兄様、私、怖いわ。陛下と一緒にいると気が休まらない。せめて今日だけでもお兄様と休みたい」

 王妃は兄にせがんだ。ソレイユ夫人もロッド夫人もそれに賛同した。


王妃の不安を取り除く為には気のおけない身内との時間が必要だというのだ。


兄は思案を巡らせたあとに、それよりもまず自分が王と話すことが先決だと話した。今回のことは黙ってはいられないので自分が直々に話してくる、と。


王妃や妻の意見も聞かず、セリルは王の部屋へと向かった。王妃は溜息を吐くとソレイユ夫人の肩にもたれた。


セリルは快活で人当たりの良い青年だが、聞かん気で我を通す一面も持っている。王妃は兄のそんな所を熟知していたので、王と話しても無駄だと訴えに追いかけはしなかった。

 

「今回の事は陛下から謝っていただきたいですね」


「それはわかっている」


「大体、あの子が何をしたと言うのですか?八つ当たりはお止めになった方がよろしい」


ずけずけとものを言うセリルに、王は苛々とさせられた。

子供の喧嘩に親が仲裁にきたような気分がした。流石の彼も、昨日のことは自分が悪いと思っていた。

それなのに何だというのだ、どいつもこいつも。彼は悔しかった。


 「それから、あの子は部屋に帰りたくないと言っております。私といたいと……申し上げにくいが昨日のことは相当な恐怖を植えつけられたようでね」


「好きにさせてやるがいいさ」


「でも、それはあまり良くないと思うのですよ。貴方とあの子は一度きちんと話し合うべきだと思うのです。嗚呼、勿論妹に落ち度はないことをお忘れなく。もし今度手を上げたら私も黙っちゃいませんよ」


セリルはそういって彼にくるりと背を向けた。この義兄の言葉は彼を一層苛々とさせ、王妃には癇癪を起こさせた。


 「話なんてしたってあの人には無駄よ。私の全てが気にいらないのだから。お兄様も知っているでしょう?酷いわよ」


王妃はソレイユ夫人にしがみつきながら叫んだ。

ソレイユ夫人は彼女を宥めていたが、彼女の気分は収まらず、とうとう泣きだしてしまった。


しかし、セリルは意見を変えなかった。


王妃の泣き声と叫び声を聞いてシャールがやってきた。シャールもセリルの意見には反対した。王には話し合いなど通じない、と。

今度はソレイユ夫人が口を開いた。彼女はセリルの言う通り、双方話し合ってみるべきだと言う。



「貴方は王の王妃様に対する仕打ちを御存知ないから、そんなことが言えるのです」

シャールが反論した。

昨日の出来事を思い返すと、腸が煮えくり返るようであった。


「では、貴方はこのまま王妃様に我慢し続けろというの?その方が残酷よ。一度王妃様もきちんと自分の気持ちを伝えるべきだわ」



それに関しては夫人が正しかった。

広い宮殿で暮らしていたときのことならいざ知らず、今やこの小さな屋敷に囚われている身である。


嫌でも毎日顔を合わせる。関係の修復をしておくに越したことはなかろう。結局シャールもセリルの意見を支持した。王妃はしゃくりあげながら自室に戻った。


 驚いたのは王の方であった。顔を合わせるなり、王妃に詰め寄られた。

 「馬鹿、馬鹿!貴方は何もかもぶち壊しにするのだわ!」


王も彼女と結婚してそれなりに長くはあるから、何度かは泣いたり怒ったりする姿を見てきたが、ここまでのものは久々だった。

たじろいだ王に王妃は満足げな顔を見せて続けた。


「貴方は本当に自分勝手ね。意地悪で、ひねくれていて、人を見下している。自分以外は馬鹿だとでも思っているんでしょう。ええ、ええ、こっちも貴方さえいなければ此処の暮らしだってそう悪くと思うもの」


「昨日の事は悪かったと思っている。あれは本当に俺が悪かった。でも、其処まで言う必要があるのか?」


「今迄自分がしてきたことを省みたら?私は正妻よ、王妃よ。だから公妾くらい許さねばと今迄耐えて来たわ。でももう良いの。貴方がいなくても、お姉さまやセリルやシャールがいてさえくれればそれで良いの」


「もう王妃ではなくなるからそれで良いというのか?皆が無事でいられると思っているのか?」


「貴方が国政を省みなかったからでしょう」


王妃は嫌みな迄に冷静さを取り戻していて王と対照的だった。経済問題や内政改革の失敗から今回の騒動が起こったのであれば、一分の理がなくとも廷臣達は王君を庇ったかもしれない。


国を思い、変えようとして起こった失敗であれば、忠誠を誓って残る人間も大勢いただろう。

だが、今回の事は違う。彼の妾が起こした騒動だ。彼とその妾が馬鹿だったのだ、それだけだ。


王は苛立ち、王妃をにらみつけた。


彼は自分が悪い時には素直に謝り、言動を改めなければいけないという教えを受けてこなかった。彼は王子として、兄である王太子と違い、ただ愛すべき子供として育てられてきた。何でも思い通りになる環境は子供にとって良いものではない。


それが今回の過ちの引き金をゆるゆると引いていたのである。

 

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