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王家の崩壊  作者: 千歳
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「お前は俺を必要としていたのだと思いこんでいた。そしてその思い込みに寄りかかっていたのかもしれない」


そう言った時、彼は妻の目を見ることが出来なかった。

自分が妻を必要としている理由を告げるのに流石の彼も罪悪感に押しつぶされそうになったからだ。


「まず最初に、ウィステリアに惹かれたのは、彼女が俺ともお前とも違って自由だったからだ」


ウィステリアは平民出身と蔑まれても、卑しい成り上がりだと嫉妬と憎しみを受けようと、それをものともせず、生まれながらの貴族に囲まれた宮殿でも堂々とした振る舞いを見せた。


更に自らの最大の武器である美貌をもって最後は罵ってきた相手を惨めにさせてしまうか、時には魅了してしまう、そんな彼女に惹かれた。


一方でエッジワース伯は我儘に振る舞いつつも、実は自分に自信がなく、いつもどこか人の顔色を窺っていた。


兄への劣等感もぬぐえず、またそれを跳ね返すための優れた才能もない自分は彼女の魅力に抗うことが出来なかった。


そして何より彼女の自由さに惹かれた。彼女はもし相手を嫌いになれば、それがどんな地位をもったものであれ、気まぐれに他へ行ってしまうだろう。


その為には正常な判断をなくして彼女の願いを叶えてやらねばならない。彼女の前では愚かな一人の男でいられる。


一方、自分の妻はわずかな希望の為に絶望を与えられてもなお僅かばかりあった甘い日々に縋り、それがまた来る日を夢想している。


それが彼は気に入らなかった。


ウィステリアと違って家という鎖に縛られた彼女にそれを言ってもどうしようもないことはわかっていても、何故それを易々と受け入れ、自分に縋ろうとするのだ、と。


しかし、彼は自分の奢りに気づかされた。自分が愛を与えても、彼女が幸福とは限らない。


妻は運命に対して恭順の意を示していたのではなく、運命の中で挑戦的に幸福を模索していて、自分との思い出はその手掛かりの一つに過ぎなかったことを。


ウィステリアを溺れるように愛せるのは彼女がいたからなのだ。結局、自分は失わないものがあると高をくくっていたのだ。


「ウィステリアに去られてもお前がいると、だから……」


「私は二番目の女じゃないわ。正妻よ。そんな風に必要とされても迷惑だわ」


確かにエッジワース伯妃は夫に必要とされたかった。


そこに幸福の糸口を見つけられるかもしれないと考えていたからだ。しかし、こんな形で必要とされたかったわけではない。

彼女の身体から熱が奪われていった。


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