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「一人でいると随分部屋が広く感じるよ」
王は朝、着替えを持ってきた兵に声をかけた。
王妃が出て行って四日が経っていた。時たま王妃はこの部屋に本を取りにくることがあった。その際に二人は二言三言言葉を交わすきりであった。
彼は別に彼女が出て行っても寂しいとは思わなかったが、嫌でも部屋のがらんとした広さは目についた。牢獄。そんな言葉がぴったり合う気がして、昨夜、彼は寝台に横たわりながら考えた。宮殿という牢獄の方が今となっては恋しく懐かしい。
皆、今どうしているだろうか。
ウィステリアと、そして自分と彼女を引き離そうとしていた廷臣達の姿が瞼に浮かんだ。
思わず彼は感情を昂ぶらせた。眠りたかった。全て忘れて昏々とした眠りにつきたかった、自分の罪に向き合うことから逃げたかったのだ。
いや、自分のしたことは罪なのだろうか?愛する女と暮らしたいと思う、それは罪なのだろうか。自分が王家に生まれたから、それは罪として人々の目に映ったのではないか?
せめて自分が王とならず「王の弟」のままであったならば、これほど迄の非難を受けなかったのかもしれない。
兄は大事な世継ぎであった。
いずれ王になる身として兄は朝から晩まで厳格な規則に則った生活を送らされた為か、子供の頃からどこか大人びていた。兄は「善き王太子」として育たざるを得なかったのだ。
そんな兄に比べて、姉の方は両親の大事な手駒であった。別に愛されていなかったわけではないのだが、いずれは他国に嫁ぐ身として、幼い頃から割り切った教育をされていたように記憶している。
姉の教育は姉の為というよりも、姉の嫁ぎ先の為にされていたようなものだった。
あちらで余所者としてではなく、大事な家族の一員として愛されるように。そして、家の名を汚さないように。それを念頭にして育てられた姉は、どこか自分にも兄にも他人行儀な面があったように思う。
それに引き換え、自分は両親の大事な王子様だった。何をしても、何もしなくても許された。
あの頃、自分は幸福だと信じ切っていたが、それは大人になった今でも胸を張って断言できるだろうか?自分達三人はそれぞれに不幸な子供ではなかったか?
王は苦しさに襲われて、ただひたすら目を閉じた。眠気はなかなか来てくれず、彼は何度か起き上がり、頭を抱えて苦しんだ。
やっとのことで朝が来たとき、彼の顔は蒼白で髪は乱れていた。元々王は色白で、彼の灰色の髪はその肌の白さと瞳の黒さを引き立てていた。それが今や病人のような雰囲気を醸し出しており、着替えを持ってきた革命軍の兵士を怯えさせる程だった。
彼自身、動揺を隠せなかった。彼はとびきり美しいというわけではなかったが、それでも「整ったお顔と優雅なカールのかかった御髪」は繰り返し肖像画に描かれ、国中の娘の憧れを得ていた。
それが彼自身の密かな自慢でもあった。その髪が今や絡まってくしゃくしゃになっていた。
「御加減が悪いのですか、あの、王妃様にいらしていただきましょうか」
着替えを落としそうになっている兵士に王は出来るだけ平静を装いながら頼んだ。
「いや、いや、少し昨日は寒くて寝付けなかっただけだよ。君、熱いコーヒーを持ってきてくれたまえ」
そして彼は着替えを受け取り、鏡を出来るだけ見ないようにしながらボタンを留めた。




