消えていく自分
本題に入る前に、こんな話をご存知でしょうか。村上龍の小説『ラブ&ポップ』のなかに、ぐっと胸のつまるような場面があります。
トパーズの指輪を盛り場の宝石売場で見つけ、痛切に欲しくなって、援助交際を決意する場面です。
『今日中に手に入れよう』と決めた。
大切だと思ったことが、寝て起きて、テレビを見て、ラジオを聞いて、雑誌をめくって、誰かと話をしているうちに本当に簡単に消えてしまう。
去年の夏『アンネの日記』のドキュメンタリーをNHKの衛星放送で見て、恐くて、でも感動して、泣いた。
次の日の午前中「バイト」のため『JJ』を見ていたら心が既にツルンとしているのに自分で気付いた。
『アンネの日記』のドキュメンタリーを見終わってベッドに入るまでは、いつかオランダに行ってみようとか、だから女の子の生理のことを昔の人はアンネっていうのかとか、自由に外を歩けるって本当は大変なことなんだとか、いろいろ考えて心がグシャグシャだった。
それが翌日には完全に平穏になって、シャンプーできれいに洗い流したみたいに心がツルンとして「あの時は何かおかしかったんだ」と自分の中で「何かが、済んだ」ような感じになってしまっているのが不思議でイヤだった。
今日中に買わないと、明日には必ず、驚きや感動を忘れてしまう。きのうはわたし、ちょっと異常だったなで済まして、買ったばかりの水着を実際につけて脱毛の範囲を確認したりしている自分がはっきりと想像できた。
インペリアル・トパーズは十二万八千円だ。
『ラブ&ポップ』村上龍
時が去りゆく
物が消えていく……
そんな寂しい時代。
「自分」を残しておくのは
自分にしかできないのに、自分にはとても難しいことだ。
感動して「やろう!」と思うのに
その気持ちを持続させることなんて、そう簡単にできやしない。
そしていつも、必ず後悔する自分がいた……。
そんな時に
出会ったお話
この話に出会って
僕の人生は変わった
世界は何も変わっていない
僕も変われていない
現状は何も変わっていない
でも
変わろうと思えた
これが変わることなんだと思った。