中国の闇の金融システム
2008年のリーマンショックの直後、中国は「内需拡大による経済成長促進」のため4兆元(約60兆円)の大規模な景気対策事業を敢行し、世界中から高い評価を得ました。世界金融危機をアメリカを中心とする「グローバル資本主義の終わり」だと囃し立てた人たちは、国家が市場を管理する"赤い資本主義"の方が優れているとして、これを(アメリカ中心のワシントンコンセンサスと並べて)北京コンセンサスと呼びました。
その中国で、金融市場の混乱が続いています。いったいなにが起きているのでしょう。
10年前の予想の中で大きく外れたのが金利でした。高度経済成長のさなかの中国のインフレ率は落ち着きつつあるものの、3%前後と日本より遥かに高い水準を保っています。その一方で物価上昇率を反映するはずの預金金利はずっと2%前後で、インフレ率が5%を超えた2011年でも3.5%までしか上がりませんでした。
これは、日本のゼロ金利を考えれば遥かにマシだといえるかもしれません。しかし、物価が上がっているのにそれに見合う金利がもらえないのなら貯金することは損になります。しかし、依然として金利は低いままです。
なぜこのようなことが起きるかというと、中国では政府が銀行の金利を決めており、銀行間で競争が起きないようにしているからです。銀行は、低金利でお金を集め、政府が定めた貸し出し金利で確実に利益を得る事ができます。日本も護送船団方式と批判された過去がありますが、それを遥かに上回る過保護ぶりです(競争相手が参入できないようにするどころか、利益を国家が確定しているのだから)。
こうした金利政策は、預金者の犠牲の上で成り立っています。そのため、放っておくと「銀行預金しても損をするだけ」ということで預金者はいなくなってしまいます。しかし、その一方で銀行は預金金利を引き上げて顧客を勧誘する事が認められていません。中国の銀行は、政府に過剰に守られているように見えて、実際にはこのままでは経営が成り立たなくなってしまうのです。
そこで、預金とは別に資金調達する方法として影の銀行が登場する事になります。
中国のシャドーバンキングは、もともと政府の認可を受けていない闇銀行として始まりました。貸出金利が決められているということは、銀行にとってリスクに見合った金利を設定できないという事なので、確実な回収が見込める大企業や国営企業に融資が偏り、ハイリスクなベンチャー企業や中小企業は金融システムから排除されてしまっていました。
そこでニーズが生まれました。
民間から銀行預金よりも高い金利でお金を預かり、こうしたハイリスクな企業に高利で融資するビジネスが急速に拡大したのです。一時その存在は、表の銀行システムを脅かすまでになりました。当然のように厳しい取締りにあいほとんどが消滅してしまいましたが、闇銀行が担ってきた融資システムは、市場に必要不可欠なものでした。
それでどうなったかというと、あろうことか、表の銀行が闇銀行を取り込んでしまったのです。
闇銀行が一掃された時期と、「理財商品」と呼ばれるものが中国の銀行で販売され始めた時期はほぼ同じです。「理財商品」の仕組みは、闇銀行と同じで高い金利でお金を集め(5~10%)、それを中小企業に融資するのです。
この理財商品には、誰がリスクを負っているのかわからないという大きな問題があります。通常、ファンドや債券であれば損失は購入者が負う事になります。ところが、理財商品の多くは「元本保証」として販売されています。
この問題を簡潔に3点でまとめると
1.理財商品のリスクは、元本保証であるとされているので、これが本当ならば、リスクはそれを組成した信託会社が負うことになる。
2.しかし、信託会社にはリスクを引き受けるだけのお金がないので、信託会社は金融機関の子会社であることが多いから、結局は販売した金融機関の責任が問われる。
3.しかし、中国の金融機関は政府の管轄化にあり最終的には地方政府がリスクを負っていることになる。そして、地方政府の財源は、勿論税金。
このようにして、理財商品は誰にとっても都合のいいようにリスクの引き受け手をあいまいにしたまま販売されている極めて特殊な金融商品となりました。そんな理財商品の残高が、中国の銀行業務監督管理委員会によれば2013年3月末時点で130兆円もあるといわれています。これは中国のGDPの16%、人民元預金残高の12%に匹敵します。
さらに、米金融大手JPモルガンのアナリストは「影の銀行」の融資残高は中国のGDPの7割に当たる36兆元(約583兆円)にものぼるとも試算しています。こちらのほうが実態に即しているとすればとてつもない金額になります。
そうした中、中国の短期金利が1日で7%から過去最高の13%台に跳ね上がるという異常事態が起こりました。これは、中国の金融当局が、膨張する"闇の金融システム"を制御しようと資金供給を絞ったためとされています。その後、金融市場の動揺を受けて資金供給が再開されたようですが、そうなれば"官製闇銀行"はふたたび膨張を始める事になります。
返せないリスクの高い借金が、国民全体を巻き込んだ形で膨れ上がっているのです。
中国の金融当局は今、"闇の金融システム"を破綻させずに縮小するという綱渡りのような金融政策に取り組んでいます。これは「人類史上最大」といわれる中国の不動産バブルを直撃する事になるでしょう。なぜなら、この問題の核心は、地方政府の不動産開発事業と結びついているという点にあるからです。
ここからは、問題の核心についてご説明致しましょう。この話の前提としてある中国の高い経済成長。それは、中国の急速な都市化によって生み出されているのです。
【中国経済の錬金術】
社会主義国である中国では、土地は公有制で、文化大革命が終わって人民公社が解体されたあとは、土地を農民に分配するのではなく、村などの地方自治体が所有する事になりました。
農民は、村から使用権を借りて農業を行っているだけなので、中国の土地には固定資産税がかけられません(そのため、固定資産税の引き上げで地価の高騰を抑えるという常套手段が中国では使えない)。
そんななかで、経済成長にともなって急速な都市化が始まりました。中国ではこの30年間に4億人の人口移動が起きたとされています。人口が増えると、当然、彼らが暮らすための住宅が必要になります。
中国都市部の平均的な世帯人数を3人とすると、4億人を受け入れるのに必要な住宅の数は1.3億戸です。これに公園、道路、商業用地などを加味すると、中国の都市部の面積は400万ヘクタール増加する必要がありました。中国では都市化にともない、九州よりもひと回り大きな土地が宅地へと開発されたのです。
農地を宅地に換えるには、農民に対する補償が必要になります。ですが、農民が持っているのは使用権だけなので、これまでは数年分の年収が支払われるだけでした。農民の収入を年間5000元とすると、土地を手放す代償として彼らが手にするのは3万元(約48万円)か、高くても5万元(約80万円)程度です(最近は土地収用の相場もかなり上がったそうです)。
中国の平均的な農家は5000平米程度の農地を耕しています。その補償金を5万元とすると、地方政府が土地を取得するコストは1平米あたりわずか10元、日本円にして約160円になります。
こうしてタダ同然で手にした土地を、地方政府はいくらで販売したのでしょう。
中国政府の2010年の自己資本は24.4兆元だったそうです。2009年から10年にかけて、中国の都市人口は2470万人増加しています。そこから概算すると、都市化にともなって24.7万ヘクタール(24.7億平米)が農地から宅地に転換されたことになり、これを1平米あたり1万元で売れば地方政府に24.7兆元が入ってきて、自己資金の額と平仄が合います。中国の地方政府は1平米あたり10元で仕入れた土地を1000倍の1万元で販売することで巨額の利益を生み出したのでした。
これが、いわゆる「中国の“錬金術”」の正体なのでした。これは、多くの専門家の一致の見解となっています。
中国の総人口13億人のうち、都市部の居住者は6.7億人と半数を超えました。周知のように都市と農村には深刻な経済格差があり、富裕層や中産階級は都市部に集中しています。
中国の富裕層の数は2000万人と推計されています。富裕層の下には、一家に1台は自家用車を持てるくらいの中産階級がいます。2010年末の中国の自動車の保有台数は3443万台で、世帯人数を2.87人とすると、中産階級の推計人口は1億人になります。
中国の都市人口が6.7億人で、2000万人が富裕層、1億人が中産階級なので、残る4.5億人が貧しい生活をしていることになります。そのなかでも農民戸籍のまま都市に居住する2.4億人は建設現場などで働く最底辺労働者で、身分格差がなくならないかぎり社会的地位の上昇は期待できません。残る3.1億人は、都市戸籍を持ちながらも中産階級になれない予備軍で、彼らは「明日は今日より豊かになれる」と思えるかぎり社会体制を転覆しようとは考えないでしょう。
公式統計では中国の平均所得は都市部でも年間2万元(約32万円)で、上海でも年間3万6000元(約58万円)です。これでは住宅ローンを組んでマイホームやマイカーを買い、結婚して子どもを育てるのは不可能ですが、苦しいながらもそれがなんとか成り立っているのは、「裏マネーが社会階層の中流くらいまで流れてきているから」です。そう考えると、中国社会は意外に安定しています。
“錬金術”によって生まれた裏マネーは、経済だけでなく、中国社会そのものを支えているのです。
中国の地方政府は巨大な不動産開発会社で、農民から収奪した土地を整地し、道路や空港、高速鉄道の駅をつくり、マンションや商業施設、公園などを建設して土地の付加価値を上げようとします。そのためには巨額の建設資金が必要で、不動産の売却益は「自己資金」となって土地開発に投じられることになります。こうした裏マネーの循環によって、中国各地で地価が上昇してきました。
ところが最近になって、こうしたマネーの流れに異変が生じるようになりました。ひとつは農民の権利意識が強くなったことで、それによって以前のようにタダ同然で土地を手に入れることができなくなったこと。もうひとつは、不動産価格の上昇が鈍ってきたことです。
仕入れ値が高くなり、販売価格が頭打ちなのだから、当然利益は減っていきます。ですが、建設投資を止めてしまえばただのゴーストタウンになるだけですので、なんとしても資金調達して不動産開発を進めなければなりません。
中国政府は財政規律を維持するため地方政府の債券発行を認めていません。また中央銀行も、金融機関の不動産融資を規制しはじめています。その結果、地方政府は、「融資平台」と呼ばれる投資会社を設立し、高利の理財商品によって資金を集めるほかなくなりました。
「影の銀行」の実態を取材した日経新聞(2013年7月5日朝刊)によると、江蘇省常州市の「天誉都市花園」では、事業費6億元(96億円)を年11%の予想利回りを掲げた理財商品で調達したといいます。予定していた価格でマンションなどが販売できなければこの巨額の投資は焦げつくことになりますが、そのリスクを最終的に誰が負うかは曖昧なままです。
問題は、こうした無謀な事業が中国の「すべての」地方で行なわれていることです。こうして"人類史上最大の不動産バブル"が始まろうとしているのでした。
(2013年8月2日記述)
中国でバブル崩壊が発生すれば、世界経済は間違いなく打撃を受けます。台風がくることがわかっていて扉を開けっ放しにすることは愚行と言ってよいでしょう。私たちは来たる金融危機に備えねばなりません。
8月に入り、日本の電力会社は揃って値上げを発表しました。これは、悪い人たちが甘い汁を吸うために私達の暮らしを苦しめようとしているからなのでしょうか。
そんなわけがないということは当然のようにわかります。当面の費用に関しては救世主であった原発が止められたのですから、いくらコスト削減に精を出しても費用がかかります。
そこに、原料価格高騰などが押し寄せれば・・・・・・。
嫌というほど私たちはその悲報を聞かされ続けました。今後もその悲報が繰り返されるでしょう。リーマンショック直後は、投機マネーが一時的に原油・天然ガスから退き価格が安くなりました。そのため「超」短期的にみればバブル崩壊後の原料価格は下がるでしょう。
しかし、それは電気価格にはありがたくともデフレ脱却を試みるアベノミクスには向かい風です。景気回復が見込めなければ、結局、相対的に電気料金は高く、日本は苦しむ事になります。
2012年末の衆議院選挙の際に、維新の会の石原共同代表がオイルショック時にアルミ産業が大打撃を被った事を例に挙げ急進的な原発停止に苦言を呈した事は記憶に新しいです。
日本・世界経済が様々な問題を抱えていることは周知の事実です。しかし、その実態はあまり知られていません。どことなく危ない、そんなイメージでしょう。そして焦燥感に駆られ、何もかも危なく見えてきて、何もかもが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまう。そんな不都合な現実に我々は苦しめられているのではないでしょうか。一種の被害妄想に。
被害妄想は、被害の実態を把握する事で解決できます。ですので、世の中にはどんな問題があるのか知ることが大事です。
では今度は、ある数字を並べていくので、それがどんな問題について述べているのかを当ててみて下さい。経済ばかりを述べていても飽きてしまうので色んな問題を扱っていきたいと思います。