雑談
「好きな場所に座っていてくれ。ジュースとお菓子持ってくるから」
そう言うと、愁は部屋から出て一階へ降りて行った。
部屋の真ん中にある円いのテーブルの周りには、座布団が丁度四つ敷いてあった。俺の右に天海が座り、その天海の右に神藤が座る。愁と天海は正面になってしまうのか。心配だなぁ。
「……何か、愁くんの部屋って普通だね。漫画とかフィギュアとかあったら、からかってやろうと思ったのに。参考書とか、問題集とかばっかり。つまんないの」
天海は不満そうに部屋を見回していた。
つまり、愁は別にオタクじゃないということだな。まぁ、オタクにも見えないし。でも確かに、勉強系ばっかりだな。もう少し好きなものとか置いていてもいいのに。
そんなことを思っていると、イヤホンを片方外して、神藤が静かに口を開いた。
「愁はお兄さんに追いつくためにいつも必死だからな。家ではずっと勉強しているらしい」
「ず、ずっと!?疲れないのか……?」
「さぁ……でも、愁はそう言ってた」
「す、すごいな……。俺なんか、帰ったら服を洗濯機に入れて回して、飯食って風呂入って、洗濯物を干して寝てるわ」
「わーっ!まーくんかっこいい!まさに主夫ってやつだね!」
天海はそう言って目を輝かせていた。別にかっこよくはないだろう。
「……宮野は、もしかして一人暮らしなのか?」
そう言って、神藤は目を丸くしていた。そこに天海が横から口を出した。
「違うよー!今は二人暮らしだもん!ねー、まーくん♪」
天海はそう言って、俺の腕に頬をすりすりさせた。
「あ、天海……くすぐったいんだけど……」
その時、愁が戻ってきた。それと同時に、天海も俺の腕から顔を離した。
手には、ジュースが入っているコップ四つとお菓子を乗せているお盆を持っていた。
「おまたせー!もう後十五分くらいしかないし、早く話そうぜ宮野!」
「ああ。悪いな、ジュースとか持ってきてもらっちゃって」
「いいって、そういうのは!俺が持ってきたかったんだから」
そう言いながら、愁はテーブルにお盆を置いた。そして座布団の上に座ると、俺に向き直った。
「……俺さぁ、宮野にいっぱい言いたかったことがあるんだよ」
愁が珍しく真面目な表情になった。何故だろう、少し緊張する。
「な、何?」
「宮野さ、不良とか言うわりに、その辺の奴らよりも良い奴じゃん?」
「当たり前でしょ。私のまーくんをその辺の奴らと一緒にしないで!」
そう言って、天海は愁を睨んだ。
別に、俺は良い奴じゃないと思うけど。すぐキレたりするし。
「俺さ、たまに帰りとかに宮野を見かけてたんだけど」
「なっ、まさかストーカー……!?」
それはお前だ、天海。
「電車ではお婆さんに席を譲ってたし、他にも困っている人を助けてたりしてた」
愁はもう、天海を無視することにしたようだった。
っていうか、そんなとこ見られてたんだな。ちょっとだけ恥ずかしい。
「だから、何で宮野は不良になったんだろうって、すごく疑問に思うんだよ。ピアスとか煙草なんて、絶対に止めた方がいいと思う」
「あー、確かにそれには同感だね。私もまーくんにはピアスとか煙草とかは止めてほしいかな……」
愁と天海はそう言って悲しそうな表情をする。
そんなこと言われても、もう煙草は止められないと思う。ピアスは……少し考えてみてもいいけど。いや、無理だな。あいつが許してくれないだろうし。
「悪い、多分止めることはできないと思う。止められるなら、多分それが一番良いんだろうけど」
「そうか……。別にいいんだ。宮野がいいなら、それで」
愁はそう言って悲しそうな顔をする。
そんな風に言われたら、申し訳なく思ってしまう。煙草とかピアスは俺が自分からしたことだから、俺が悪いのに。愁や天海が心配するようなことではないと思う。
「あ、そうそう。俺、神藤にずっと聞きたかったことが……」
俺がそう言うと、神藤は呆れたように言った。
「音楽をずっと聞いてること、だろ」
「えっ、何で分かったんだ?」
「大体いつも同じ質問されるんだよ。まぁ、気になるのも分かるんだけどさ」
神藤は深いため息を吐く。
本当によく聞かれるみたいだな。何だか少し申し訳ない気持ちになってしまう。
「俺は、音楽を聴いていないと落ち着かないんだよ。何か、そういう病気らしい」
「病気!?で、でも、それでちゃんと人の話とか聞き取れるのか……?」
「大体は。でも、たまに聞き取れないときはある。けど、そこまで困ることはない」
「そ、そうか……。それなら良かった」
「……後、五分だけど。宮野、行かなくていいのか」
神藤が部屋の時計を見ながら言う。
「あ、ああ、そうだな。そろそろ行こうかな」
俺はそう言いながら立ち上がった。それを見て、愁は残念そうに俺を見上げながら言った。
「マジか、もう行くのか。じゃあ、また明日、だな」
「ああ、じゃあな愁、神藤。天海は先に家に帰っていてくれ」
「はーい!ご飯作って待ってるね♪」
「いや、作らなくていい。むしろ作らないでくれ」
「むーっ!じゃあ掃除とかしとくもんっ」
そう言いながら、天海はあざとくほっぺたを膨らませた。
悔しいけど、可愛かった。
「ああ、そうしてくれ」
俺はそれだけ言って、愁の部屋を後にした。