予定
「みーやのー!移動教室だってー!」
「……は?」
突然、愁が俺の隣に来て話しかけてきた。
というか、移動教室?何それ?全く聞いてないんだけど。
「は?じゃないだろー。ホームルームで先生言ってたじゃん。一時間目は変更で、多目的室集合だって」
多目的室?まじかよ、全く聞いてなかった。というか、愁と行って大丈夫なんだろうか。天海が怒る気がするんだけど……。
「まーくん」
「わぁっ!あっ、天海……」
いつの間にか、天海が隣に来ていた。俺は怒られてしまうことを覚悟し、ぎゅっと強く目を瞑った。
けれど、天海は俺の予想を裏切った。
「何してるの、まーくん。愁くん達と一緒に行くんでしょ」
天海は全く怒らず、さらに愁達と一緒に、とまで言った。
ん?達?
そう思い、愁の隣を見てみると、もう一人の男子がいた。耳にイヤホンをして音楽を聴いている。そして、これまた愁に劣らずイケメンである。むかつく。
「あ、宮野にはまだ言ってなかったな。こいつは俺の親友の神藤蓮だ。これから仲良くしてやってくれ」
愁がそう言うと、神藤は軽く頭を下げた。
なるほど、神藤は愁と違って無口なんだな。まぁ、悪く言えば愛想がないということだ。俺としては結構助かる。正直、テンションが高い奴は少し苦手だ。
「よろしくな、神藤」
俺がそう言うと、愁が俺に身を乗り出してきた。
「やっぱり俺以外には名字呼びだ!」
「そ、それが何だよ」
「何か特別な感じがする!」
「あ、そう……」
愁はなぜかテンションが上がっているようだった。
初めから思ってたが、こいつは変な奴だ。俺なんかに話しかけてくるし、名前で呼ばれていることなんかに喜んでいるし。俺はただ、呼びやすいから愁って呼んでるだけなんだけどな。
ああでも、それを言ったら天海の方が変だな。俺と一緒に住みたい、だもんな。本当に天海は何を考えているのか分からない奴だ。だからこそ、余計に怖いと思う。
「宮野ー!そろそろ行かないと遅刻するぞー」
愁が廊下から俺を呼んでいる。いつの間にか授業まで残り三分くらいになっていた。
「あ、ああ……ごめん」
俺は立ち上がって、愁達の方へ行った。
その時、天海が愁達の後ろから俺の方を睨んでいるのが一瞬見えた気がしたが、気のせいだろうと思うことにした。
一時間目は、学年集会だった。
高校三年生は最後の追い込みをする時期だ。最後まで諦めずに将来に向けて頑張りなさい、とかそういう話だった。
俺は元々絵を描くことが好きだったから、美術大学にでも行こうかと思っている。だから、大体将来のことは決まっていたし、そのための勉強も一応やっている。
そのため、俺は先生の話をほぼ聞き流していた。聞かなくても別に大丈夫だろうと思っていたから。
俺は早く高校生活を終えて自分だけの生活がしたい。誰にも縛られないで、自分のしたいことだけをする生活。学校なんていう牢獄から抜け出して、俺は自由になる。そのためなら、あと少しの学校生活も頑張れるような気がしていた。
気がついたときには、もう授業は終わっていて、みんな教室へ帰るところだった。
「宮野ー!帰ろうぜー!」
愁は相変わらずハイテンションだった。なんだか、俺の不良友達に似てるなぁと思った。
俺は愁達と一緒に多目的室を出て教室へと戻っていった。やっぱり、天海の視線を感じる気がする。けれど、気のせいということにしておこう。一々気にしていても仕方がない。
「今日さー、宮野って放課後空いてる?」
学校が終わった後、愁が質問してきた。俺と遊ぼうとか思ったのだろうか。
そう思うと、少し嬉しかった。
「いや、ごめん。俺、火・水・木・金・土とバイト入ってるんだ。バイトが終わってからは、不良友達と遊ぶ予定が……」
「マジで?宮野バイトやってんの?どこで?」
「えっと、近くのコンビニで……」
俺がそう答えると、愁は目を輝かせて身を乗り出してきた。
「なぁ!俺も一緒に行っていいか!?ついでに何か買うし!」
「えっ?いや、俺は別に構わないけど……それに絶対買わなきゃいけない訳でも……」
「マジで!?行っていいのか!?」
愁はより一層目を輝かせていた。
そんな愁を見ていると、こっちまで嬉しい気持ちになってくる。ただバイトに行くだけなのに、いつもよりもバイトが楽しみに思えてしまう。
「……俺はこのまま直接バイトに行くんだけど、愁も一緒に来るか?」
「おう!ならさっそく一緒に帰……」
「話は聞かせてもらったよ!!」
突然、何かのマンガやアニメのセリフっぽいことを言いながら、隣に天海が現れた。恐らく、俺と愁の話を全て聞いていたのだろう。朝からずっと俺のことを見ていたし。
天海はビシッと、愁を指でさした。
「まーくんと二人きりになろうったって、そうはさせないからね!私もまーくんのバイトのところに行くもん!」
そう言って、天海はほっぺたを膨らませた。あざとい……けど結構可愛い。
愁は困ったような表情で笑った。
「別に、そうゆうつもりはなかったんだけど……。天海さんも来るってことでいいんだよね?」
「ん……まぁ、そういうこと」
一緒に行きたいなら普通に言えばいいのに。天海には少し妄想癖があるのかもしれない。愁は別に俺と放課後に喋りたかっただけだろうし、全くそんなことは考えていなかったはずだ。それなのに、勝手に自分の中だけで決めつけてしまうのはどうかと思う。
「あ、そうだ!蓮も誘っていいか?あいつ、多分放課後はいつも暇だったと思うんだよ」
神藤か。確かに、一緒に来てくれたら神藤のことも知れるチャンスかもしれないな。まだ神藤のことは友達とは言えないレベルだろうし、この機会に仲良くなれたらいいな。
「ああ、いいよ。誘おう」
「よっしゃ!じゃあ誘ってくる!」
そう言うと、愁は神藤の席へと走っていった。
なんか、今日愁と出会ってから自分の周りが騒がしくなったような気がする。これは悪い意味ではなく、言い意味で、だ。
……いや、愁じゃないのかもしれない。昨日天海と出会ってから、俺の周りが変わり始めているのかもしれない。大体、同じ学校の友達が出来るだなんて考えたこともなかった。俺はきっと、天海を助けて正解だったのだろう。天海にとっても、俺にとっても。
「蓮行けるってー!そういうわけでさっそく行こうぜ宮野のコンビニ!」
「そうだな。俺のコンビニじゃないけどな」
「さりげないツッコミをありがとう!」
ハイテンションの愁が帰ってきた。神藤を隣に連れて。
神藤も来てくれるのか。出来れば、俺は神藤と話してみたいな。愁のことは何となく分かったし、天海も一緒に住んでるんだしすぐに分かるだろう。となれば、一番機会が少ないのは神藤だけだ。
「……まーくん、私、蓮くんとも二人きりにさせないからね。まーくんに友達なんていらないんだから。私だけで十分なんだから。特に愁くんとなんて絶対に仲良くさせないからね。絶対に」
「あ、天海……」
相変わらず天海はそのことばかりを気にしているみたいだ。それに、何で愁には特に、なんだろう。普通に言い奴だと思うんだけどな。
やっぱり天海のこともよく分からないな。天海の場合は、知れば知るほど分からなくなりそうだけど。
そうして、俺と天海と愁と神藤の四人は、俺のバイト先であるコンビニへと向かったのだった。