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カレー

 少女が準備を済ませた後、すぐに俺達は俺の家に向かった。俺の体には何も異常はなかったらしく、あるとすれば、軽い擦り傷くらいのもんだった。

 あと、少女の家はお金持ちで、少女はお嬢様だったらしい。少女の家は中も外も完璧な城だった。普通の一軒家が何百件も入りそうなほど大きな敷地だったし。


 そして今、俺達は俺の家の前にいる。


「わーっ!やっぱり、まーくんの家って大きいね!外はいつも見てたけど、中は入ったことなかったから楽しみだなぁ!」


「そうか……。もう七時だし、お腹空いたな。俺が飯作るよ」


「えっ、いいよ!私が作るよ!まーくんはトクニナニモって言う食べ物が好きなんでしょ?大丈夫、私頑張って作るよ!」


「だから違うってば!何だよトクニナニモって!」


「何言ってるの?まーくんが言ったんでしょ。トクニナニモが好きって」


「言ってねーし、いい加減トクニナニモから離れろよ!」


「えっ、違うの?じゃあ、まーくんの好きな物って何?」


「カレーだよ!」


「カレー?あのザ・庶民って感じの食べ物?」


「庶民とか言うな!カレーのおいしさなめんなよ!」


「まぁ、確かに不味くはないけど……。私、そこまでおいしいとは思わないな……」


「も、もういいから早く入ろうぜ!」


 この子と喋ってるとすっごく疲れるんだけど!あれか、一般人と金持ちの差ってことか!いや、そういうことでもないか……。ただこの子、世間知らずっぽいな。あ、そういえばまだ名前聞いてない……。


 そんなことを思いながらも、俺は家の中に入っていった。

 少女は家に入った瞬間、家の中を見回して目をキラキラと輝かせていた。


「広ーい!まーくんってもしかしてお金持ちなの?」


「お前に言われたくねぇよ……。それより、俺まだお前の名前とか聞いてないんだけど」


「えっ、私の名前知らないの?」


「うっ……い、いいから教えろって」


「もう、仕方ないなぁ!えっと、私はまーくんと同じ舞原まいはら高校に通ってる三年の天海あまみ美岬みさきだよ。趣味はまーくんを観察することと、まーくんについての日記を書くことと、まーくんについて調べることかな!」


 そう言って、天海(今覚えた)はにこっと笑った。

 趣味がいろいろとおかしかったけど、まぁそこはスルーしよう。一々突っ込んでてもきりがないだろうし。


「あ、俺は……」


宮野みやのしん!私と同じC組で、学校に友達がいなくて、いつもバイトのない日は他校の不良友達とコンビニの前でたむろってて、家で一人暮らしをしていた将来私のダーリンになる人!」


 天海は笑顔でドヤ顔をした。

 うわー、良い所ねぇーっ!言い返すことも何もないから困るよなぁ。


「……って、ちょっと最後!俺別に天海と結婚とかしないから!」


「結婚!?何か現実味があるねその言い方!」


「いやだから……まず付き合ってもないし……」


「え?何で?一緒に暮らすなんて付き合ってることよりもランク上なのに」


「俺は暮らしたくて暮らすわけじゃない!天海が勝手に……!」


「あと、その天海って呼び方!知り合いレベルっぽいから“みっちゃん”って呼んで?」


「嫌だよ!何だよ“みっちゃん”って!それに“まーくん”って呼び方も!俺の名前に“ま”なんて一つもないんだぞ!」


「そっ、それは……まっ、まーくんはまーくんだもん!まーくん以外の呼び方なんて考えられないんだもん!」


「答えになってねぇじゃねぇか!……もういいや、とりあえず飯食わなきゃ死ぬ……」


「あっ、じゃあ作ってあげるね!カレーが良いんだよね、まーくんは」


「うん……もう何でもいい……」


「分かった!ちょっと待っててね!」


 そういうと、天海は廊下を走りながらリビングへと入っていった。


 あ、廊下は走ると危ない……けど転ばなかったな。よくこの廊下であいつ転んでたからなぁ。俺も何度か転んだことあるけど。滑りやすいんだろうな、この廊下。


 俺がリビングに入ると、天海はすでに晩ご飯の準備に取りかかっていた。

 

 何か妙に不安だな。お嬢様ってご飯とか作ったことあんのか?……気になるしちょっと見てみよう。不味いもん食べたくないし。


 そう思って、俺はこっそりと後ろから天海の手元を見てみた。何やら野菜を切っているようだ。ジャガイモの皮をむいているのか……って、ちょっと!?


「何やってんだよ!」


「うわぁっ!びっくりしたぁ~……。何?まーくん」


「何じゃねぇよ!ジャガイモは皮だけむくもんだろ!」


「え?何言ってるの?ちゃんと皮をむいてるじゃない」


「それもう実がなくなっちゃってるじゃん!」


「え?あらら、ホントだ。むき過ぎちゃったみたい」


 そう言って、天海はジャガイモ……だったものを見つめた。もうジャガイモがほぼなくなってしまっている。良かった、見に来て。


「後はもう俺がやるから。天海は皿とスプーンの用意をしといて」


「うん……まーくん女子力高いね」


「いや、天海が料理できないだけだから。カレーくらい誰でも作れるだろ」


「そうかなぁ……」


「そうだよ!いいから早く皿とスプーン用意しろって!」


「はぁーい」


 天海はやる気なさそうに返事をすると、皿とスプーンをテーブルの上に並べていった。


 今日はジャガイモ少なめか。あと半分しかないし。他の野菜はまだ切ってなかったみたいだな、良かった。……って、これカレールーじゃなくて板チョコじゃねぇか!しかもミルクチョコだし!天海こえぇ、そんなものと間違えないでくれよ……。


「……私、まーくんより女子力ないのに女でごめんね。もう性別逆になればいいのにね」


 後ろで天海が何か呟いている。

 というか、性別逆にしてどうするつもりなんだ。誰得だよそれ。


「私、まーくんにどうやってお礼すればいいんだろう……」


「……」


「……あっ、裁縫だったら出来るかも!ね、まーくん!」


「いや、知らないけど……。後で試しにやってみたら?」


「うん!」


 元気よく返事をして、天海はテレビを見始めた。あ、それ俺がいつも見てるお笑い番組……。いいなぁ、俺も見たいなぁ……。


 ―――――――――――――――――――――――


 それから数十分経って、カレーが出来上がった。


「あ、出来たの?良いにおいだねっ。まぁまぁおいしそうかも」


 おい、作らせておいてまぁまぁって何だよ。普通においしそうって言えよ。お世辞でもいいから。


 俺と天海はテーブルに向かい合わせで座った。

 久しぶりだな、家で二人以上で食べるの。うん、でも悪くはない。


「私がせーのっていうね。せーのっ」


「「いただきます」」


 ぱくっ。


 ……うん、いつも通りの味だな。母さんの味に到達するにはもっといろいろ工夫しないと。

 天海はカレーをスプーンですくって、口に入れた。


「……あ、おいしい。まーくんのカレーおいしいね」


「それはどうも」


「私、学校でしか食べたことなかったから、あんまりおいしくないと思ってたよ」


「学校のも普通においしいよ」


「そうかな。でも、このカレーの方がおいしいと思う」


「……そう」


「……もっと喜んでもいいのよ?」


「わーい、ありがとー」


 俺は思いっきり棒読みでそう言った。


「……私に褒められても、嬉しくない?」


「そういうわけじゃないよ。まだ俺の目指してる味にはなってないからさ」


「料理人になりたいの?」


「そういうのじゃないって」


「えーっ、じゃあ分かんないよー」


「別に分からなくていいよ。俺が気にしてるだけだから」


 母さんの味がもう一度食べたいから……なんて言えるはずがない。こんなことをするくらいなら、カレーの作り方を聞けるうちに聞いておけばよかったのにな。いなくなってからじゃ遅いのにな……。


「ふーん、そう。じゃあ気にしない。……あ、私裁縫がしたい!」


「ああ、食べ終わってからな」


「やったーっ!」


 そう言って、天海は両手をあげてバンザイをした。


「あっ、そんなことしたらカレーがこぼれるだろ」


「あ、そっか。……何かまーくんお母さんみたいだね」


「うるさい。いいから早く食べろ」


「はーい」


 天海は返事をして、またカレーを食べ始めたのだった。

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