転生したら手遅れでした
なんとなくやりたくなった。オチはありません。
シンデレラは魔女に助けられて王子様に出会う事ができました。
じゃあ、魔女のいない娘は誰が助けてくれるのでしょう?
『幸せになりたいわ。そうね、シンデレラみたいに』
☆
ピンチだ。と久々に思った。
自慢にもならないがこの世界に生まれ落ちて18年、数え切れないピンチには会って来たと思う
しかし、特に貞操の危機とも呼べるピンチに出会ったのはこれが初めてだった。
「名はなんという?」
低音の美声。
これが醜男なら『残念ですが縁はココマデッ!』とか叫んで逃げても良かったのであろうが、まさかの雲の上の存在の上の超イケメン様の命令口調に逆らえるほど私は耐性があるわけではなかった。
「…ま、マリアと申します…」
「ほう?」
美しい名だな、と呟く貴方の方がよっぽど美しいです陛下!!
っていうかなんで王様ここにいるの!? ここが側室の部屋だからですねわかります!
わかりますけど数えるほどしか通ってきていなかった王様とはち合わせるとかホント聞いてない、聞いてないから!!
イケメンの面白がる顔に耐えきれない。
ずさあ! と音が出そうなくらい頭を下げると、私は目線を外す。不敬罪とかマジ言ってられないキラキラすぎるんだよ王様! 頼むからこれ以上見ないでくれご主人さまの側室の目線が痛すぎる!
「恐れながら陛下、わたくしは一介の侍女なれば」
「ああ、能書きはいらん。面を上げろ」
「…」
瞬 殺 か よ!
って言うか空気読んで陛下マジ陛下!
側室の部屋で侍女の名前聞くとかそれお手付きフラグですよね!? 慎んでお断りさせていただきますので帰れ!
命令とは反対に頭を床に擦り合わせるように頭を下げ、絶対に面なんぞあげねーぞ! と決心する。
陛下のきまぐれで失業とか本当に笑えないからね!
聞かなかった事にしたい。
大体この側室様に慣れるのに2年です、2年かかったんですよ!?
超! 我儘だけどせっかくの父様が斡旋してくれた働きどころだったからね! ようやくお茶を入れても『ふん、ようやく美味しいもの入れれるようになったじゃないのこの役立たず』とかアンタどこのツンデレ? と言いたげな彼女が折れ始めてくれた矢先だと言うのに。
こんなフラグは折る。
だから空気読んで帰って下さい陛下。
平身低頭、動かない私の上に振ってきたのは溜息一つ。
「…そこまで怯えるな。何も取って食うわけじゃあるまいに」
食われる気しかしません。
むしろ食われる気しかしません。
「…」
「…」
いいから見なかったことにして帰って下さい。
ホントに。
なんで目線あっちゃったかなあ、男と目線合わせる事だけは絶対に避けていたと言うのに。
「…私が声をかけてしまった時点で手おくれだと思うのだがな…」
「…」
大丈夫!
あんたが帰ったら速攻でお暇するから! むしろ速攻で首切られる前にこっちから逃げさせていただきます!
なんだかんだいって育ててくれた両親は優しいからねッ!
「…また来る」
陛下は側室に声をそうかけると退室された。
残ったのは側室と、その側室の侍女連中と、私。
「…マリア…?」
「なんでしょうお方様」
その声が、表情が恐ろしい。
「何故陛下がこんなちんちくりん…に…ッ?」
「呪いです」
「は?」
「呪いなので! 実家に帰らせていただきます3年間お世話になりましたッ!!!」
こうして私は、王城を後にした。
☆
魔女の助けがない娘には、神様が声をかけました。
『僕の世界で幸せにならない?』
娘は答えました。
『幸せになりたいわ』
神様は頷くと、小さな小さな魂にこうささやきました。
『じゃあ出血大サービスでもっと幸せにしてあげるからね♪』
それがさまざまな危険フラグと知ったのは。
既に転生した後だったと言う。
(さすがに王様と結婚はやりすぎだよ神様…)
そう思いながら平凡をこよなく愛す娘は、今日も平凡を求めて奔走する。
意地わるな継母はかわいらしい実母に。
きついお姉様方は末妹を可愛がる優しい姉に。
けれど美しい末姫は、引く手あまての結婚には見向きもしない。なぜなら幸せが結婚とは思っていないから。
でも最後の結末が、王族とのハッピーエンドと言うのは変わらないらしい。
これは平凡娘が望んだ幸せが、シンデレラの幸せと同じだと勘違いされたお話。
きっと続きません。
この後の展開は3ルートぐらい思い浮かびますけど