嘘を暴くネックレス
「頭が固い上に魔法をロクに使えないお前にはうんざりだ! 王家の嫁にはふさわしくない。よって、お前とは婚約破棄し、代わりにパメラ・シャンボンを妻に迎えることとする!」
魔法で彩られた国の第一王子、エミリアン・ドルーは目の前にいる公爵令嬢を見下すように言った。
エミリアンの目線の先には、首を傾げたサラ・シュバリエが立っている。
「あら、わたくしが魔法を使えないなんて昔から分かっていたことではありませんか。それを理由に婚約破棄だなんて今更すぎますわ。エミリアン様、あなたには他の意図があるのではなくて?」
サラはそう言うと、目線をエミリアンから彼の横に立っている新興貴族のパメラ・デシャンへと移した。
パメラは勝ち誇ったような顔で、自分の腕をエミリアンの腕へと絡める。
エミリアンが婚約破棄を言い出したのは、私からパメラへと乗り換えるため——サラはそう理解していた。
サラはこの国の貴族としては珍しく、魔法が使えない。魔法を操るほどの魔力を持っていないのだ。
けれど、過去に魔力に乏しい令嬢が王家に嫁いだ例はいくつかある。また、シュバリエ家は伝統と財力が充分にあり、さらにサラの祖母は王族の血を引いている。王家に娘を嫁がせるのに申し分ない家柄だった。
よって、王家もシュバリエ家も、またサラ本人でさえも、サラに魔力が乏しいことを問題視する者はいなかった——今日までは。
「サラ、お前は魔法が使えないにも関わらず、それを使えるようになるために努力することもなかった。実に怠惰だ。それに比べ、ここにいるパメラはどうだ? 素晴らしい魔法の使い手だ! 君こそ俺が真実の愛を捧げるにふさわしい。さあパメラ、このパーティに集まった人々に、君の力を見せてやれ」
エミリアンがそう言うと、パメラは一歩前へと踏み出した。
会場の人々の視線が、一気に彼女へと注がれる。
にっこりと微笑んだパメラが右手を上へかざすと同時に、まばゆいほどの光と、柔らかな風が会場内を駆け巡った。
キラキラとして心地よい風は客人たちの間を縫うように駆けていくと、やがて天井に昇り、最後はパッと花火が上がるようにまばゆい光を放って散った。
その光の欠片は客人たちの元へキラキラと舞い降りる。
それを見た人々は口元をほころばせ、その光をうっとりと眺めた。
「どうだ、見たか? これがパメラの風魔法と光魔法だ。彼女は異なる属性の魔法を同時に操ることができるのだ」
それを聞いた会場からは「ほう……」と感心するような声がいくつも上がる。
客はもちろん、宰相をはじめ国の重鎮たちもパメラの有能さに目を見張っている。
確かに、パメラの魔法を操る実力は申し分ない。
貴族としてもトップレベルであるし、それを王家が欲しがるのも当然であった。
ただサラだけは、どうしても腑に落ちないという顔でエミリアンをじっとりと見つめていた。
「パメラ様の実力は分かりました。でも、わたくしはどうしても納得がいきません。どうしてパメラ様ほどの実力のある方が、今まで貴族の中で話題に上らなかったのでしょうか?」
「それはパメラが新興貴族だからであろう。新興貴族ゆえ、横のつながりが薄かったのだ。王家としても彼女ほどの逸材に気づくのが遅れたのは非常に残念だった。俺達は、もっと早く出会うべきだった」
そう言い切ったエミリアンはパメラと熱のこもった視線を交わす。
サラは小さくため息をついてエミリアンを見た。
「なるほど。ところでエミリアン様、パメラ様の首についているネックレスは、私にプレゼントしてくださる予定の物ではありませんか?」
サラはパメラの首元に目をやった。
パメラの首元にはこの国では珍しい、チョーカー型のネックレスがキラキラと光を放っている。
レースのように複雑に編まれたチェーンの真ん中に、燃えるような赤色の宝石が輝く。
サラはエミリアンの返事を待たず、再び口を開く。
「エミリアン様がわたくしの誕生日に欲しいものがあるかとお聞きになったから、私は隣国で流行しているそのネックレスを所望したのです。中央に赤い宝石が位置していることからも、私がお願いしたもので間違いありません。どうしてそれをパメラ様がつけているのです?」
するとエミリアンはフンと鼻で笑った。
「婚約破棄されるお前には過分なものだからに決まっているだろう! この素晴らしいジュエリーは、俺にふさわしい女性の首元でこそ輝くのだ。サラ、お前にふさわしい訳がないだろう?」
エミリアンとパメラはあざ笑うように口元を歪めた。
それにつられて、会場にいる他の客たちからも嘲笑のような笑い声が聞こえてくる。
宰相ら国の重鎮だけは、物事を正しく見極めようと冷静な表情をしていた。しかし、王と王妃が病に伏せってこの場にいない今、エミリアンを諌めることができる人物はいない。
場の空気は完全にエミリアンとパメラのものだった。
——この瞬間までは。
その空気を壊したのは、次のサラの一言だった。
「あら、パメラ様に相応しいですって? それは『嘘を暴くネックレス』ですのに、本当に彼女に相応しいのですか?」
「君は何を言っているのだ?」
エミリアンはスッと目を細め、口元を歪めた。
「だから、そのネックレスは身につけている者の嘘を暴くのです。その証拠に、パメラ様の首元はすでに赤く腫れてきているでしょう?」
エミリアンがバッとパメラの方を向くと同時に、会場じゅうの視線がパメラの首元へと集まった。
彼女の首元はサラが指摘した通り、確かに赤みを帯びている。
「い、言いがかりはやめろ! たまたまに決まっているだろう!? そう、パメラは今日、元々肌の調子が悪かったに違いない。なぁ、そうだろう?」
エミリアンが尋ねると、パメラは「もちろんですわ!」と答えた。
ただ、その口元が少し引き攣っていたことを、サラは見逃さなかった。
「あらあら、パメラ様の口元が引き攣っていらっしゃいますわ。やはり、彼女はご自身が嘘つきであるという自覚があるのでは? 嘘つきはエミリアン様の婚約者に相応しくありませんわね」
「サラ、いい加減にしろ! 婚約を破棄されたからと言って、妙な言いがかりをつけるのは——」
「だって、パメラ様は気づいていらっしゃいますよね? そのネックレス自体が熱を持っていることに」
サラの言葉を聞いたパメラの顔が、今度は誰にでも分かるほどに盛大に引き攣った。
エミリアンの顔にも動揺が走る。
「そ、そうなのか? パメラ」
「あ……いえ……そんな、まさか! そんなことありません。全てサラ様の言いがかりですわ!」
パメラが明らかに引き攣った笑顔で答えた。
その時、赤い宝石の指輪に彩られたサラの指が、パメラを指さした。
「嘘を重ねてはいけませんわ、パメラ様。ほら、そのネックレスは嘘を暴くために、嘘つきの身を焦がすのですから!」
サラがそう言い終わらないうちに、パメラが「ぎゃ!」と声をあげた。
ネックレスの中央の宝石から、まるで意思を持ったように小さな炎が這い出たのだ。
その炎はあっという間にパメラのドレスの胸元に燃え移った。
「だから言いましたでしょう? そのネックレスは身につけた者の嘘を暴くと。ご自身の嘘をここでつまびらかにすれば、炎はあなたの身まで焦がすことはないでしょう」
サラはそう助言したが、パメラはそれが聞こえたのか聞こえていないのか、ドレスの胸元を手で払いながら叫ぶように「たすけて!」と繰り返すばかりだ。
「それか、エミリアン様が“真実の愛”とやらで助けて差し上げては?」
サラが首を傾げる。その口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。
「おい、誰か、水魔法を使える者はいないか!? 早くパメラのドレスについた火を消すんだ!」
エミリアンが声をあげると、周囲から数名がパメラのもとへと駆け寄った。
これで鎮火するだろう——と皆が思った時、火を消そうと駆け付けた水魔法の使い手が信じがたい言葉を発した。
「火が消えません! エミリアン様、どうすれば!?」
「火が消えないだと!?」
会場の人々は息を飲むもの、口を手で覆うもの、目を背けるものなど様々だった。
「どうして火が消えないのだ! 真面目にやれ!」
「真剣にやっております! しかし、3人がかりで魔法をかけても、パメラ様のドレスからは火が消えないのです!!」
パメラのドレスはついに胸から腹のあたりまで炎が広がっている。
パメラの髪も肌も、周囲の床も水浸しなのに、彼女のドレスだけは水を寄せ付けないようだ。
「熱い、熱い、熱い!! たすけてぇッ!! せめてこのネックレスだけでも……ッ!」
パメラは首を掻きむしるようにして、もだえ苦しむ。
ネックレスが巻かれた彼女の首は、すでに赤黒くただれている。
パメラは最初に火がついた時、すぐに首の後ろに手を回しネックレスを外そうとしたが、どういう訳か外れなかったのだ。
パメラのドレスを鎮火することを諦めた水魔法の使い手たちは、パメラのネックレスを外す作戦に切り替えた。
しかし、ネックレスの背部の金具は非常に複雑な造りになっており、彼らでは外すことができない。
おまけに熱く熱されたチェーンに触れたせいで、彼らの指先も赤く腫れあがってしまった。
パメラの悲鳴が響く中、エミリアンが苛立った声を上げた。
「サラ! 貴様、パメラに何をした!?」
「わたくしは何も」
サラは涼しい顔で答える。
「嘘だ! 貴様、魔法が使えないというのは嘘だったんだろう!? 嘘で俺達を油断させ、パメラを焼き殺そうとしているんだろう!?」
「そんな訳ありませんわ。貴族において、魔法が使えないというのは明らかに不利です。わざわざ自分に不利になるように能力を偽るだなんてありえません。逆……は、どうかわかりませんけれど」
サラが不敵に微笑んだのを見て、エミリアンの顔が一瞬固まった。
「ぎゃ、逆……?」
「ええ、そうです。この国の貴族で魔法が使えないと偽る者はいないでしょうが、その逆はどうでしょう。魔法が使えないのに、使えると偽って王子に近づくような令嬢がいたとしたら……」
「サラ、貴様は何が言いたいのだ!? パメラのことを貶めたいのか? パメラが風と光の属性の魔法を使ったのは、君もその目で見ただろう!」
エミリアンが声を荒げて抗議すると、周囲の人間もそれに同調するように頷いた。
サラはそれらを無視し、パメラまであと数歩、というところまで歩み寄った。
「パメラ様」
サラが声をかけると、パメラは今にも泣きそうな目でサラを見た。
「何度も申し上げますが、パメラ様が身に着けていらっしゃるのは『嘘を暴くネックレス』ですわ。あなた様が嘘をつきつづける限り、その炎は消えません。早く本当のことを言わないと、このまま焼け死にますわよ」
「……ほ、ほ、本当のことを言えば、私は助かるの!?」
「もちろんですわ」
すると何度か呼吸を繰り返したあと、パメラは嗚咽を漏らしながら懺悔を始めた。
「わ、私は……エミリアン様をはじめ、こ、この会場じゅうの人を騙していました。私は複数の属性を同時に使える魔法の使い手などではありません」
パメラの突然の告白に、会場がどよめく。
「パメラ様、それで終わりではないでしょう?」
サラの冷たい視線がパメラを貫く。
パメラは観念したようにポツポツと話し始めた。
「うう……あああ……そもそも、私は魔法が使える訳ではないのです……ドレスの下に仕込んだ魔石によって、あたかも魔法を操っているように見せかけていただけなのですっ……」
「な、なんだって!?」
エミリアンはわなわなと口を震わせる。
魔法が使えないことを理由にサラとの婚約を破棄したにも関わらず、新たに妻に迎えようとした女も魔法が使えなかったのだ。しかも、パメラが自身の能力を大勢の前で偽ったおかげで、エミリアンの顔には盛大に泥が塗られたことになる。
「ふ、ふざ、ふざけるな……貴様……王族をたばかるなど——」
エミリアンの言葉に被せるように、今度はサラが口を開いた。
「自身の能力を偽って王族に取り入るなど、重罪です。衛兵、すぐにパメラ様を捉えるのです! 服の下に魔石を仕込んでいるそうじゃありませんか、反撃される前に、さあ早く!」
サラの毅然とした言い方に、衛兵たちはハッとしてパメラへと駆け寄る。
パメラの服を焦がしていた炎はいつの間にか鎮火していたが、それでもパメラにはもう立ち上がる気力は残っていなかった。
パメラはその場に崩れ落ちるようにして座り込むと、綺麗に結った髪を掻きむしるようにして唸っている。
それは痛みに悶えているというより、王族の婚約者としての身分からの転落と、これから自分を待ち受ける罰に苦悩しているようだった。
衛兵に両脇を固められて地下牢へと連行されるパメラの背中を見つめながら、エミリアンは小さく震えていた。
新しい婚約者が能力を偽っていたこと、そのせいで彼女が怪しげなネックレスに身を焼かれそうになったこと、パーティがめちゃくちゃになってしまったこと……エミリアンは頭の中が整理しきれず、ただ震えるしかできなかった。
エミリアンもまた、パメラの事態に収拾をつけるほどの魔法能力は持ち合わせていなかった。
「サラ……お前はどうしてあんな気味の悪いネックレスを自分の誕生日に欲しがったのだ? 俺はただ、隣国の珍しいデザインが気に入ったのかと……あんなおかしなものだと分かっていたら、パメラに身につけさせなかったのに」
「わたくしへの当てつけとしてパメラ様にプレゼントしたつもりが、彼女は大やけどですものね。お気の毒ですわ」
サラが意地悪く目を細める。
「私があれを欲しがったのは、エミリアン様のおっしゃる通りです。この国では見かけないデザインが気に入ったんですの。噂で聞いていた『嘘を暴くネックレス』だなんて、ネックレスを売るためのただの売り文句といいますか、迷信のようなものだと思っておりました。けれど、パメラ様の首が赤く腫れているのを見て、もしやと思ったのです」
サラはパメラが連れ去られて以降、ずっと微笑を崩していない。
エミリアンはその表情から、サラが何を考えているのか読み取れなかった。
「サラ、その……すまなかった」
王子は引き攣った笑みを浮かべた。それを見たサラは「何が?」と言いたいのをぐっと飲み込んだ。
この男は「すまなかった」の一言で全てを有耶無耶にしようとしているのだ。
サラに婚約破棄を言い出したことも、サラへのプレゼントを当てつけのようにパメラに身に着けさせたことも、パーティをめちゃくちゃにしたことも。
サラはこの王子の浅はかさを全て理解した上で、ニッコリと微笑んだ。
「わたくしは何も気にしておりませんわ。エミリアン様はパメラ様に騙された、いわば被害者ですもの。わたくしとの婚約破棄も一時の気の迷い……そうでしょう?」
サラの聞き分けの良さに、エミリアンは勢いを取り戻す。
「そ、そうだ! もちろんだ! お、俺はあのパメラに騙されていた。いや、洗脳されていたのかもしれない。サラがそばにいてくれて助かった。やはり俺の婚約者はお前しかいない」
「エミリアン様が正気に戻ってくださって嬉しいですわ」
サラはそう言うと、ふわりとドレスの裾を翻し、エミリアンに背を向けた。
「サラ、どこへ行く?」
「少し、お花を摘みに行ってまいりますわ」
◇
人気のない城のバルコニーに、ふたつの人影があった。
ひとつはサラ。もうひとつはこの国の若き宰相マエル・ボードリー。マエルはパーティ会場の端で一部始終を見ていた。
マエルは前髪をサラリと払うと、声を潜めて言った。
「一時はどうなることかと思いましたが、丸く収まりましたね。パーティが始まる前に、サラ様が『わたくし、婚約破棄をされると思いますの』とおっしゃった時にはまさかと思いましたが。それにパメラ様が例のネックレスを身につけるだろうという予想も当たりましたね。サラ様の先を見通すお力……いえ、情報収集能力には恐れ入ります」
マエルはうやうやしく頭を下げた。
サラはそれを受けてクスリと笑う。
「それに、わたくしのハッタリ、なかなかのものでしたでしょう? 嘘を暴くネックレスなど、そんなもの、あるはずありませんのに! それに最初にパメラ様の首が赤くなっていたのは、きっとかぶれただけでしょうね。それなのにわたくしの嘘を本気になさるなんて!」
サラは笑いを堪えきれず肩を震わせた。
「ああ、ネックレス自体が熱を持っていたのは本当ですわ。私がそうなるように、炎や温度を調整しましたの」
「なるほど。あの機転の利かせ方、さすがサラ様です。あなたこそ未来の王妃にふさわしい」
マエルが言うと、サラはにっこりと頷いた。
「ところでマエル様、わたくしのネックレスは回収してくださったのかしら」
「ええ、パメラ様が地下牢に連行される時に回収いたしました。異国のジュエリーだけあって、金具が複雑で外すのに苦労しましたよ。つけるのは簡単で外すのが難しいとのことですが、サラ様から事前に金具の仕組みについて聞いてなければ、私も外せなかったでしょう」
マエルは月明りできらめくネックレスをサラに手渡しながら言った。
「それで、これが隣国で新たに開発されたという……」
「ええ、魔石をジュエリーに加工する技術ですわ。そしてマエル様もお気づきかもしれませんが、これは炎の魔石ですの。私がいま指にはめている魔石リングに反応し、炎を放出することができるのです」
「ほお、これはこれは。魔石自体、この国ではかなり珍しいですが、さらにそれを加工したジュエリーまで存在するとは。隣国の技術力は私の予想を遥かに上回るようです」
サラが指を振ると、ネックレスの赤い魔石から炎がチラチラと這い出した。
「これがあれば、魔法の使えない私のような者でも、その属性を持たない者でも、誰でも魔法が操れるという代物です」
「そしてこれは——そのうち軍用化されるでしょうな」
マエルの指摘に、サラは微笑みで肯定する。
「もう隣国では軍用化の実験が始まっていますわ。これがあれば魔法が使えない平民が魔法兵として戦争に参加することができ、今後は国家間のバランスが大きく変わることでしょう」
「我が国でもこれを取り入れると?」
「そうせざるを得ないでしょうね。パメラ様が隠し持っていた魔石も、おそらく隣国から入手したものでしょう。さすがに魔石をジュエリーに仕立てる技術が確立されているとは彼女も知らなかったようですけど。知っていたら、もっと上手く魔法を使うフリをできたでしょうに」
「サラ様はこれからどうするおつもりで?」
マエルがまっすぐにサラを見る。
その目は、サラという人物が今後自分が仕えるに相応しいか見定めている。
「私はこの国の王妃になります。どんな手を使っても。またわたくしの邪魔をする者が現れたら排除するまでですわ。ああ、この魔石加工技術を軍事力に応用するだとか、そういった難しいことは宰相のマエル様にお任せしますわ。病で伏せっていらっしゃる王様と王妃さまも、新たな技術が国にもたらされることをお喜びになるでしょうね」
マエルは「ひとつだけお聞きしてもよろしいですか」と言って、真剣な眼差しでサラを見た。
「どうしてパーティの前も、今も、私なんかにサラ様のお考えを明らかにされたのですか?」
「だって、マエル様ほどこの国を欲している人はいないでしょう?」
サラは冷たい笑みを浮かべた。
「エミリアン様を傀儡にしてでも、この国の全てを手に入れるおつもりでしょう? もしくはクーデターでもお考えかしら? どの道わたくしと気が合いそうだと思ったのです。わたくしは、わたくしの身分だけ保証してくださればマエル様がどうしようが、エミリアン様がどうなろうが気にしませんわ」
「エミリアン様を傀儡にするなど、人聞きの悪い。ましてや、クーデターなど」
そう言った言葉とは裏腹に、マエルは嬉しそうに微笑んだ。
サラも微笑み返す。
「ともにこの国の頂点となりましょう。私たち二人なら大丈夫。ああ、勘違いしないでくださいまし。あくまでビジネス的なパートナーで、という意味ですわ。何も心配しなくて大丈夫です。嘘を暴くネックレスなど、どこにも存在しないのですから。私たちの思惑も、誰も知り得ませんわ」




