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第1話:遺言部へようこそ 〜青春の誤爆と、届かなかった声〜

はじめまして。

本作は「少し不思議で、少し切ない“遺言”を巡る物語」です。


最初は軽めですが、徐々に雰囲気が変わっていきます。

気軽に読んでいただけたら嬉しいです。


私立聖蘭学園、旧校舎。


その最奥――

昼間でも薄暗い廊下の突き当たりに、「遺言部」の部室はある。


今日も、扉は不吉な音を立てて開いた。


「う、うわああああああああん!!

青春の誤爆!! それは魂の自爆だよぉぉぉ!!」


開口一番、絶叫。


そして――湿度、急上昇。


「……また始まった」


副部長の冷泉凛は、本から目も上げずに呟いた。


部室の中央。

机に突っ伏して号泣しているのは、この部の部長――一ノ瀬涙。


IQ180を誇る天才だが、感情の制御は壊滅的。

他人の不幸に共鳴しすぎて、自分のこと以上に泣く男だ。


「もう無理です……死にたいです……」


震える声で言ったのは、依頼人の一年生・佐藤くん。


「一ノ瀬先輩……僕の遺言、預かってくれますか……」


原因はシンプルだ。


――ラブレターの誤爆。


想いを込めて書いた手紙を、

うっかり“憧れの先輩”ではなく、“教頭の下駄箱”に投函。


人生終了案件である。


「ああああああわかるよ佐藤くん!!」


一ノ瀬が顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだ。


「明日の数学の時間! 教頭が眼鏡の奥から君を見つめる!!

その視線は断罪! 君の心は崩壊! 学園生活は沈没だぁぁ!!」


「やめてくださいぃぃ!!」


地獄の未来予想図を全力で描く部長。


「……うるさい」


パタン、と本が閉じられた。


冷泉凛が、ゆっくり顔を上げる。


「結論から言うわ」


その一言で、部屋が静まった。


「その手紙、読まれてない」


「……え?」


佐藤くんが固まる。


「教頭は重度の老眼よ。眼鏡がなければ何も見えない。

あなたの字はミミズレベル。判読不能」


淡々とした口調で、冷泉は続ける。


「さっき職員室のゴミ箱に捨てられてたわ。

“学食の要望書”だと思われたみたいね」


「……」


「……えぇぇぇ!?」


佐藤くん、復活。


顔色が一気に人間に戻る。


「事件は未発生。以上。帰っていいわよ」


「ありがとうございます!!」


彼は深々と頭を下げ、全力で部室を飛び出していった。


残されたのは――


「うぅ……青春が……」


まだ泣いてる一ノ瀬。


「湿度が高い。カビるわよ」


冷泉はため息をついた。


しかし、その時。


――ギィ………


再び、扉が開く。


「……あら、ここでいいのかしら」


入ってきたのは、生徒ではなかった。


上品な服を着た、ひとりの老婆。


場違いなほど穏やかな笑みを浮かべている。


「落とし物を……預かってくださると聞いて」


「……ここは“心の落とし物”専門で――」


冷泉が説明しかけた、その時。


「……待って」


一ノ瀬が、珍しく真剣な声で遮った。


彼の視線は、老婆の持つ一冊の紙に釘付けになっていた。


古びた――出席簿のコピー。


「おばあさん。名前は?」


「山根……だったかしら」


彼女は少し考えてから、微笑む。


「昔、ここで先生をしていたのよ」


記憶が、ところどころ曖昧だった。


話を聞くと、彼女はアルツハイマーを患っているらしい。


そして依頼内容は――


「タイムカプセルを……探してほしいの」


二十数年前。


生徒たちと埋めた、約束の箱。


「二十年後に、みんなで開けましょうって……」


震える手で、出席簿を握る。


「でも、場所が思い出せないの。

あの子たちが……待っているのに……」


その言葉に、一ノ瀬の目が揺れた。


――そして数日後。


調査の末に辿り着いたのは、元クラスメイトの男・大迫。


だが、返ってきたのはあまりにも現実的な答えだった。


「タイムカプセル? とっくに掘り返したぞ」


「十年前の同窓会でな。もう中身も全部持ち帰ってる」


「……」


完全な“解決済み”。


冷泉は静かに結論を出す。


「記憶の混線ね。もう終わった話よ」


だが――


「違う」


帰り道。


歩道橋の上で、一ノ瀬が立ち止まった。


そして、膝をつく。


「……これは、終わってない」


彼の手には、あの出席簿。


震える指で、一箇所を指す。


「ここを見てくれ」


ひとつの名前。


――成瀬健一。


「この子だけ、何も書かれていない」


進路も、卒業日も。


そして――


紙を光に透かすと、その周囲だけ歪んでいた。


「……涙の跡だ」


ぽつりと、一ノ瀬が言う。


「山根先生が探してるのは、あの箱じゃない」


夕日が、彼の顔を赤く染める。


「――あの日、入れられなかった“遺言”だ」


冷泉の表情が、初めてわずかに揺れた。


「……その子、何があったの?」


一ノ瀬は答えない。


ただ、名簿を強く握りしめる。


「……成瀬健一は、どこへ消えた?」


旧校舎の影が、ゆっくりと伸びていく。


そして――


遺言部の、本当の仕事が始まる。


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