話の通じる魔王秘書
異世界に召喚、ただし魔王。
「これ、5冊下さい」
「お、おう。
一応聞こうか」
「?」
「お嬢さん、大人だよな?」
「はい、大人です」
「…すごいな」
「はあ」
街を歩きながら、少女はため息を吐き、肩を下げる。
「大人、ね。私が、大人」
ははは、壊れたように笑う。
(まだ17歳なんだが!?)
と突っ込むが、ふと、考える。
(この世界の大人って、どういう意味だ?)
成人、じゃなく、18歳以上でもない、『大人』。
考えてはいけない、そう自分に言い聞かせる。考えたらダメなやつだ。
「さて」
周りを確認すると、
「帰るか。頼まれたのは買ったし」
「お待ちしておりました」
「ありがとう。じゃあ、帰ろうか」
「わかりました、秘書様」
馬車に乗り、ユラユラとする。
その馬車は、ヒトには見えない。
自分と、『それ』が触れているものは、見えない。そして、『それ』は馬に乗り、操っている。馬といっても、少女の知る馬とはかけはなれた姿をしているのだが。
「自分がわからなくなる」
少女は呟く。
手を見て、安心する。自分はヒトだと。
異世界に召喚された、17歳の少女。
ただし、召喚したのは王様ではない。魔法使いでも。
魔物の国の、魔王が召喚した。
『全ての国のものと会話をすることができる』という、いわゆるチート能力つきで。
英語、韓国語、日本語。そのようなもので、その異世界にも様々な言語がある。彼女に、それは関係ない。彼女の言葉は翻訳なしで、自然と相手に伝わる。そう、自然と。
『魔王の秘書』
与えられた彼女の役目。
馬車で揺れながら、ラジオを聴く。
元の世界の、ラジオ。
「異世界に来た」と、両親、友達、先生に言ったが「嘘を吐くな」と返され、『つながり』は切られた。SNSに投稿しても「AI?」て言われるだけだろう。
だから、ラジオで。ラジオのアプリで。
『まだ元の世界に帰れるかもしれない』
希望をなくさないためにも、元の世界のラジオを聴く。
「こんなものを買わせる奴に一生仕える?
ハッ」
隣の『それら』を見る。
大人じゃないと買えない『それら』を。
そして、
「おおっ! 帰って来たか、お嬢さん」
魔王は笑顔で両手を広げる。
「長旅ご苦労様。食事はあるぞ、今日は肉だ。生肉はダメらしいから焼いたぞ!」
秘書は強く『それら』を握り締める。
「さあ、くれるんだ。
エロ本を!」
「こんなもん買わせんなや!」
「叩きつけるとは。やれやれ、お腹が減っているんだな。
人間共がどのようなものに欲情し致すか、気になるのでな」
魔王は、床に叩きつけられた『それら』つまり『エロ本』を微笑みながら拾う。
角が2本ある以外はヒトと同じ。
美青年、角がなければ、たいそうヒトたちにも人気が出ただろう。
「ありがとう」
頭を撫で、去っていく。
魔王の部屋に行くのだろう。エロ本を持って。
「こんな所で死ねるかー!」
魔王秘書は叫んだ。
ありがとうございました。




