表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/93

86話 運命の余白──占いは未来を縛らない

森に、完全な静けさが戻った。


火の匂いは消え、

焦げた空気も、歪んだ魔力も、もう残っていない。


あるのは、夜に向かう前の、少し冷えた風だけだった。


「……終わった、のかな」


レイリンが、慎重に周囲を見回す。


「今のところはな」

俺はそう答えながら、剣を収めた。


リズは少し離れた場所に立ち、

黄金の球体を両手で包むようにして、静かに目を閉じている。


呼吸は落ち着いている。

だが、さっきまでの張り詰めた気配は、まだ完全には抜けきっていなかった。


「……リズ」


俺が声をかけると、

彼女はゆっくりと目を開けた。


「はい」


その表情は、いつもの穏やかなものだった。

まるで、さっきの“裁定”が嘘だったかのように。


「もう、危険は?」

「今夜は、大丈夫でしょう」


彼女は空を見上げる。


木々の隙間から、星が一つ、また一つと覗いている。


「流れは、少しだけ整いました」

「少しだけ?」

「ええ」


リズは微笑んだ。


「未来は、完全には整えられませんから」


その言い方は、どこか優しく、

同時に、突き放すようでもあった。


レイリンが、ためらいがちに尋ねる。


「……さっきの魔物たち。

 あれって、私たちが選んだから、出てきた未来なんですよね?」


リズは否定しなかった。


「はい」

「じゃあ……もし別の選択をしてたら?」


少しの沈黙。


「別の“痛み”が、待っていました」


レイリンは唇を噛んだ。


「……どっちにしても、無傷じゃいられない?」

「生きる、ということは、そういうものです」


リズの声は静かだった。


「占いは、それを避けさせるものではありません」

「じゃあ、何のためにある?」


俺が聞く。


彼女は、黄金の球体を見つめながら答えた。


「――選ぶためです」


その言葉は、強くはなかった。

だが、揺るぎもなかった。


「何も知らずに進むのと、

 知ったうえで進むのとでは……」


彼女は、少しだけ言葉を探した。


「後悔の質が、変わります」


なるほど、と思った。


未来を変える魔法じゃない。

未来と向き合う覚悟を、問う力。


それが、リズ・プリムの占いなんだ。


「……なあ、リズ」

「はい」


「もし俺たちが、忠告を全部無視してたら?」

「今頃、ここにはいなかったでしょうね」


即答だった。


「生きてない、って意味で?」

「それもありますし」


彼女は穏やかに続けた。


「生きていても、

 “選べない状態”になっていたかもしれません」


背筋が、少し冷えた。


それは死より、厄介だ。


「だから私は、怒らないようにしています」

「……さっきは?」

「例外です」


小さく笑う。


「どうしても、止めなければならないときも、ありますから」


レイリンが、ぽつりと呟いた。


「……優しいですね」

「いいえ」


リズは首を振った。


「私は、優しくありません。

 ただ……諦めが悪いだけです」


その言葉に、俺は彼女の背負っているものを感じた。


きっと彼女は、

選ばなかった未来も、

選べなかった未来も、

いくつも見てきたのだろう。


だからこそ、

“余白”を残す。


「もう、行くの?」

俺が聞くと、


「ええ。

 これ以上一緒にいると、

 また流れが偏りますから」


占い師らしい理由だった。


別れ際、リズは一歩近づき、

俺とレイリンを見た。


「今日は……良い選択でした」

「さっきは“最悪の可能性”って言ってなかったか?」

「それを、避けられたという意味です」


彼女は微笑んだ。


「これから先も、

 同じように選べるとは限りませんが」


黄金の球体が、柔らかく光る。


「次に会うときは……」

「また、面倒な未来?」

「いいえ」


少しだけ、いたずらっぽく。


「“良い運”が巡る日でしょう」


レイリンが笑った。


「それ、信じていいんですか?」

「信じすぎない程度に」


それが、彼女なりの誠実さだった。


リズは踵を返し、

森の奥へと歩き出す。


羽毛が風に揺れ、

やがて、その姿は木々に溶けていった。


しばらく、俺たちは黙って立っていた。


「……ロン」

「ん?」

「占い、どう思った?」


俺は少し考えてから答えた。


「信じるかどうかじゃない」

「じゃあ?」

「……無視しない、くらいが丁度いい」


レイリンは、くすっと笑った。


「それ、リズさんに聞かれたら、褒められるかもね」


夜の風が、静かに吹いた。


星は、もうはっきり見えている。


未来は、まだ決まっていない。

だが、

選ぶ責任は、確かに俺たちの手の中にある。


――リズ・プリム。


穏やかな占い師。

そして、運命と距離を保つことを知る人。


彼女が残したのは、

答えではなく、

“余白”だった。


その余白を、どう使うか。


それを決めるのは――

占い師ではなく、

歩き続ける俺たち自身だ。


火の社の方角で、

小さな灯が、ひとつ揺れた。


まるで、

「また選べ」と言っているように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ