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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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83話 雀の涙──小さな運がもたらす大きな違い

火の社を後にして、俺たちは丘を下った。


夕暮れが近づき、空は橙から紫へとゆっくり色を変えていく。

風は相変わらず冷たいが、社で感じたあの熱は、まだ体の奥に残っていた。


「ねえ、ロン」

レイリンが歩きながら言う。


「なに?」

「……やっぱり、占いって信じてない?」


少し、探るような声だった。


「完全にはな」

正直に答える。


「未来が決まってるって考え方は、どうも性に合わない」

「うん、わかる」


レイリンは頷いた。


「でも、リズさんの言葉……

 “向き合ったほうが痛みは少ない”っていうのは、ちょっと納得しちゃった」


そこは否定できなかった。


社から少し離れたところで、

街道から外れた細い獣道に差し掛かったときだった。


――ざわり。


風とは違う、微かな気配。


「止まれ」

即座に手を上げた。


レイリンも気づいたらしく、足を止める。


「……前方、右。数、三……いや、四」


茂みが揺れ、低い唸り声が混じった。


野盗――ではない。

動きが粗すぎる。


「魔物だね」

「小型だが、数がある」


構えるほどの相手じゃない。

そう判断した瞬間――


「……なるほど」


背後から、あの穏やかな声がした。


振り返ると、

そこにはリズ・プリムが立っていた。


「……尾行?」

「いいえ。

 風と運の流れが、こちらへ向かっていましたので」


相変わらず、説明がふんわりしている。


「大丈夫です。

 少し“調整”しますから」


彼女はそう言って、袖の中から黄金の球体を呼び出した。


球体はふわりと浮かび、

柔らかな光を放つ。


魔物たちが、茂みから姿を現した。


狼に似た獣だが、目が不自然に赤く、動きも落ち着きがない。


「数は多いですが……」

リズは静かに言う。


「危険ではありません。

 “運”を少しだけ、傾ければ」


俺は眉をひそめた。


「それ、具体的にはどうやるんだ?」


リズは微笑む。


「小さな選択を、少しだけ良い方向へ」


彼女は黄金の球体に、そっと触れた。


その瞬間――

空気が、ほんのわずかに変わった。


何かが起きた、というほどではない。

だが、確かに“ずれた”。


魔物の一体が跳びかかった瞬間、

足元の石に爪を引っかけ、体勢を崩す。


別の一体は、吠えようとして声が裏返り、

一瞬の隙を晒した。


「……今だ!」


俺は前に出た。


レイリンも続く。


戦いは、拍子抜けするほど短かった。

攻撃が当たる。

避けるはずの一撃を、魔物が避け損ねる。


大きな一撃も、派手な魔法もない。

だが、流れは完全にこちらにあった。


最後の一体が倒れたあと、

思わず息を吐いた。


「……今の、偶然じゃないよな」


リズは、静かに頷いた。


「ええ。

 これが――」


彼女は、少し照れたように言った。


「《雀の涙》です」


「雀……?」

「小さな運、という意味です」


黄金の球体が、ゆっくりと光を収める。


「大きな奇跡は起こしません。

 ただ、“失敗しやすい未来”を、“成功しやすい未来”に寄せるだけ」


レイリンが感心したように言う。


「すごい……。

 でも、派手じゃないですね」


「はい。派手ではありません」


リズは穏やかに笑った。


「だからこそ、気づかれにくい。

 でも……積み重なると、大きな違いになります」



さっきの戦いを思い返した。

一体一体は、確かに弱かった。

だが、流れが逆なら、多少の怪我は避けられなかっただろう。


「運ってのは……」

俺は言葉を探した。


「勝敗そのものじゃなくて、

 “選択の余地”を残す力なのか」


リズは、少し驚いたように目を瞬かせた。


「……良い理解ですね」


その声は、占い師ではなく、

一人の人間としての評価に聞こえた。


「だから私は、“未来を決める”占いはしません」

リズは続ける。


「運命を断定するのは、傲慢ですから」


風が、木々を揺らした。


羽毛が、さらりと揺れる。


「あなた方は、まだ選べます」

「選べなくなったら?」


俺が聞くと、

リズは一瞬だけ、目を伏せた。


「……その時は、怒りを買います」


冗談ではなかった。


けれど、脅しでもない。


ただの事実として、そう言った。


しばらく沈黙が流れたあと、

リズはいつもの穏やかな微笑みに戻った。


「今日は、ここまでにしましょう」

「もう行くのか?」


「はい。

 これ以上“傾ける”と、次の出来事が歪みます」


なるほど、万能ではない。


だからこそ、信用できる。


別れ際、リズは小さく手を振った。


「また、必要になったら呼ばれます」

「どうやって?」

「運が、そうさせます」


俺は苦笑した。


「便利なのか不便なのか、わからんな」

「どちらも、ですね」


彼女はそう言って、社の方へ戻っていった。


レイリンが、ぽつりと言う。


「……あの人、優しいけど」

「うん」

「怒らせたら、絶対ダメなタイプだよね」


「間違いない」


夕暮れの道を歩きながら、


占いは、未来を当てるものじゃない。

未来と、どう向き合うかを教えるものなんだ。


リズ・プリムは、

そのことを知っている人だった。


そして、

その知識は――

甘くも、恐ろしくも、なり得る。


そんな予感を、

まだ、言葉にできずにいた。


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