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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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82話 火の社への招き──占い師リズ・プリムとの出会い

火の社は、街道から少し外れた丘の上にあった。


旅人が立ち寄るには、わざわざ足を向ける理由が必要な場所だ。

商売の匂いも、冒険者向けの派手さもない。

あるのは、赤土と古木、それから――静かな熱。


「……ここ、あったかいね」


隣を歩くレイリンが、マントの前を軽く押さえながら言った。

確かに、風は冷たいはずなのに、肌の奥にじんわりと残る温度がある。


「火山でも近いのか?」

「ううん。火の社はね、土地の“熱”を集めてるだけ。

 燃える火じゃなくて……人の想いとか、願いとか」


相変わらず、レイリンの説明は少し抽象的だ。


俺たちがこの社に来た理由は、単純といえば単純だった。

ここ最近、妙に“流れ”が偏っていた。


些細な選択で面倒ごとに巻き込まれたり、

避けたはずの戦いに遭遇したり。

悪運というほどではないが、良いとも言い切れない。


「運が悪い、って言葉で片付けるのも嫌だしな」

「だから占い?」

「……半分は、な」


正直に言えば、占いはそこまで信じていない。

だが、“気にする”程度には、俺も冒険者を長くやっている。


社の鳥居は低く、赤い柱には年季が入っていた。

装飾は控えめで、派手な護符もない。

ただ、柱の根元に小さな羽根が供えられているのが目についた。


「鳥の社……?」

「うん。火と風、それから“兆し”の社だって」


鳥居をくぐった瞬間、空気が変わった。


熱いわけじゃない。

けれど、胸の奥に、灯を置かれたような感覚がある。


「――おや」


柔らかい声が、境内の奥から聞こえた。


「今日は、風の音が騒がしいと思っていましたが……

 お客様でしたか」


声の主は、社殿の前に立っていた。


淡い羽毛に包まれた、小柄な婦人。

顔立ちはスズメを思わせ、丸みのある目とくちばしに近い口元が、穏やかな印象を与える。


和装風の衣に、桜の文様。

首元の白い襟飾りが、炎の色を柔らかく受け止めていた。


その手のひらの上で、黄金色の球体が、静かに浮かんでいる。


「……占い師、リズ・プリムと申します」


深く頭を下げる仕草は、驚くほど上品だった。


「俺はロン。彼女はレイリン」

「ようこそ、火の社へ」


リズは微笑み、俺たちをじっと見た。


その視線は鋭くはない。

だが、服や武器ではなく、“もっと奥”を見ている気がした。


「……なるほど。

 運命の糸が、少し絡まっていますね」


いきなりそれか。


レイリンが、興味深そうに身を乗り出す。


「絡まってる、って……悪い意味ですか?」

「悪い、というより……偏っている、でしょうか」


リズは黄金の球体を、そっと回転させた。

光が揺れ、境内の影がわずかに歪む。


「選択のたびに、同じ方向へ流されている。

 それ自体は間違いではありませんが……」


彼女は一度、言葉を切った。


「――怒りを買う“選択”が、近いですね」


俺は思わず眉をひそめた。


「怒り?」

「はい。

 ただし、それを避ければ、もっと大きな破滅に触れます」


……不吉すぎるだろ。


「ずいぶん極端ですね」

「占いとは、そういうものです」


リズは穏やかに答えた。


「未来は一本の道ではありません。

 ただ、“避けた結果”もまた、未来なのです」


レイリンが、少しだけ真剣な顔になる。


「……その怒り、誰のですか?」

「それは、まだ――」


黄金の球体が、ふっと明るさを増した。


リズの表情が、ほんの一瞬だけ引き締まる。


「今日は、ここまでですね。

 これ以上視ると、あなた方の選択を縛ってしまう」


占い師としての矜持、というやつだろうか。


俺は肩をすくめた。


「占いってのは、ずいぶん不親切なんだな」

「ええ。

 でも、その“不親切さ”がなければ、人は自分で歩けなくなります」


その言葉は、妙に胸に残った。


境内の奥で、火の揺らめきが静かに燃えている。

熱は強くない。

だが、消えもしない。


「今日は、ここに来て正解でしたか?」

レイリンが尋ねる。


リズは、優しく笑った。


「はい。

 少なくとも、“間違い”ではありません」


黄金の球体が、静かに社殿の前に戻る。


「また、風があなた方を連れてきます。

 その時は……もう少し、先の話をしましょう」


俺は最後に、ひとつだけ聞いた。


「忠告は、信じたほうがいい?」

「信じるかどうかは、あなた次第です」


リズは、穏やかに言った。


「ただ――無視するより、向き合ったほうが、痛みは少ない」


それは占いというより、人生訓に近かった。


社を出ると、丘の風が少し変わっていた。

冷たいが、どこか軽い。


「……どう思う?」

レイリンが聞く。


「占いは信じてない」

俺は正直に答える。


「でも、あの人は――

 “当てる”人じゃなくて、“見てる”人だな」


レイリンは小さく笑った。


「うん。

 怒らせたら、怖そうだけどね」


俺は、何も言い返せなかった。


火の社は、背後で静かに佇んでいる。

まるで、次に選ぶ道を、黙って見守っているかのように。


――リズ・プリム。

穏やかな占い師。


そして、

怒りを買うと、決して軽くは済まない人。


そんな予感だけが、

胸の奥で、消えない灯のように残っていた。


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