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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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80話 詩と戦い──風のスキルが紡ぐ共闘

風が、明確に“逆流”した。


それは一瞬のことだったが、

確かに、森の奥からこちらへ向かって吹いてきた。


「……来る」

ノエが短く告げる。


その声に、迷いはない。


「まだ形になりきってない。

 でも、詩が“現実に滲み始めた”」


俺は腰の武器に手をかける。


「つまり、戦えるってことだな」

「戦わないと、もっと濃くなる」


レイリンが一歩前に出た。


「村の中には入れさせない、ってことね」


ノエは小さく頷いた。


「ありがとう。

 本当なら、これは僕ひとりの問題だ」


「そういうのは後だ」


「今は“目の前に来るもの”を止めるだけでいい」


ノエは一瞬だけ目を伏せ、

それから、弓を構えた。


弦にかけられた矢は、

物理的なものではない。


風が、矢の形をとっている。


「……詩は、命令じゃない」

ノエが静かに呟く。


「“願い”に近い」


次の瞬間――

森の奥が、歪んだ。


霧とも影ともつかないものが、

地を這うように広がってくる。


形は定まらない。

獣のようでもあり、

風そのものが絡まり合っているようでもある。


「……あれが?」

レイリンが息をのむ。


「まだ未完成」

ノエは答える。


「だからこそ、今なら――詩で縫い止められる」


霧が、こちらを“認識”した。


風圧が一気に増す。


「来るぞ!」

俺が叫ぶ。


最初の衝撃は、

“音”だった。


空気が裂けるような圧。


俺が前に出て、

真正面から受け止める。


「……重いっ!」


見えない腕で殴られたような感触。


だが、その瞬間――

体が、軽くなった。


「ロン、今!」

ノエの声。


彼の詩が、風に乗る。


そよぐ風の恵みよ

命を撫で、歩みを支えよ


風が、俺の周囲にまとわりつく。


息が楽になる。

体の奥に、余裕が生まれる。


(これが……能力を底上げする風?)

俺は思わず笑う。


「派手じゃないけど、助かる!」


ノエは返事をしない。

すでに次の矢をつがえている。


霧の塊が、枝の間から滑り出てくる。


俺は踏み込み、

一撃を叩き込む。


手応えは薄い。

だが、弾かれない。


「実体化し始めてる……!」


そのとき、

風が“縫い留める”ように走った。


「――風繋え剣よ」


ノエの矢が放たれる。


一直線ではない。

曲線を描き、

霧の中心へ吸い込まれていく。


次の瞬間――


霧が、悲鳴のような音を立てて裂けた。


「効いてる!」

レイリンが叫ぶ。


ノエの攻撃は、

単なる破壊じゃない。


風で“繋ぎ止める”ことで、

霧の動きを封じている。


「詩は、切るためじゃない」

ノエが言う。


「逃げ道を、塞ぐためにある」


霧が暴れる。


枝が折れ、

落ち葉が舞う。


俺は前に出続ける。


「こっちは俺が引きつける!

 ノエ、好きにやれ!」


「……了解」


ノエの声が、少しだけ強くなった。


風が渦を巻き、

彼の周囲に集まる。


詩稿が、勝手にめくれた。


「……詩が、続きを欲しがってる」


その言葉に、

一瞬だけ嫌な予感を覚えた。


霧が、分裂する。


二つ、三つ――

いや、完全には分かれていない。


「数が増えてる!?」

レイリンが後退する。


「分身じゃない」

ノエが即答する。


「“可能性”が枝分かれしてるだけだ」


(……詩人の説明は、分かりづらい)


だが、

感覚的には理解できた。


倒しきれない限り、

いくらでも増える。


「だったら――」

俺は歯を食いしばる。


「増える前に、押し切る!」


踏み込んだ瞬間、

横から、風が背中を押した。


「前へ出るなら、

 倒れない風を」


ノエから、再び、そよぐ風の恵み。


俺の足取りが、安定する。


霧の中心に、

“核”のような揺らぎが見えた。


「そこか!」


俺が突っ込む。


だが――

霧が、俺を包み込もうとする。


視界が白くなる。


その瞬間――


「ロン!!」


ノエの声。


風が、俺と霧の間に割り込む。


「……詩は、守ることもできる」


彼の矢が、

霧の縁をなぞるように走る。


絡め取るような風。


霧の動きが、鈍る。


ノエが弓を下ろし、

詩稿を胸元に引き寄せる。


「……吹け、守護の風よ」


その声は、詠唱というより祈りに近い。


次の瞬間、

俺とレイリンの足元から、やわらかな風が立ち上った。


鎧の隙間に入り込み、

関節の重さを消し、

呼吸を整えていく。


「……体が、軽い」

俺が呟く。


レイリンも驚いたように目を見開いた。


「反応が早くなってる……!

 それに、防御も……」


風の流れが、俺たちを包んでいる。

さらに――レイリンの周囲には、

もう一層、厚い守りの気配があった。


(防御を上乗せする風……)


ノエは視線を逸らしたまま言う。


「戦いは、強い者が前に出るものじゃない。

 倒れない者が、最後に立っている」


霧が再び形を変えようとする。


だが、

さっきよりも動きが鈍い。


「今なら押せる!」

俺が踏み込む。


風が背を押す。

 

「今だ!」

ノエが叫ぶ。


「俺に任せろ!」


俺は、渾身の一撃を叩き込んだ。


霧が、

大きく揺らぐ。


だが――

消えない。


「……まだ、だめか」

ノエが息を吐く。


「“詩”が、足りない」


彼の表情に、

かすかな苦さが浮かぶ。


「ここまでか……?」


そう思った瞬間――

風向きが、再び変わった。


森の奥で、

何かが“目覚める”気配。


ノエが、はっと顔を上げる。


「……やっぱり、来るか」


「何がだ?」

俺が聞くと、


ノエは、静かに答えた。


「詩の“続き”を知る者」


風が、

花の香りを運んできた。


それは、

今までの風とは明らかに違う。


柔らかく、

しかし圧倒的な存在感。


ノエは、苦笑する。


「……ここから先は、

 僕ひとりの戦いじゃないらしい」


霧は、まだ消えていない。


だが、

確実に次の局面へ向かっている。


(なるほどな)


この戦いは、

“詩と風”だけじゃ終わらない。


――それを確信しながら。


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