76話 夜の反省会──ハーチナの新たなスタート
夕方の騒動がひと段落し、
夜の帳が静かに店を包み始めたころ――
店内には湯気と、ラーメンの香り、
そしてほのかな疲労が漂っていた。
ハーチナは丸テーブルに突っ伏したまま動かない。
「……しんだ……
もう……
バイブス、一周まわって地底まで落ちた……」
レイリンは苦笑しながらグラスに水を注ぐ。
「ハーチナちゃん、今日は頑張ったよ。
むしろよく倒れなかったね」
俺はどんぶりを洗いながら声をかけた。
「というか、お前……よく泣かずに最後まで言えたな。
あれは大したもんだ」
するとハーチナはがばっと顔を上げ、
目に星を浮かべた。
「や、やば……ロンさんに褒められた……!
え、これって……
今日いちバイブスぶちあがってる瞬間じゃん……?」
「落ち着け。
褒めてないぞそこまで」
レイリンが横から肘でつつく。
「ロン、素直に褒めてあげなよ。
今日の主役だよ?」
ため息をつきながらも、
内心その通りだと思っていた。
――今日、ハーチナは逃げなかった。
光導板の陰、群衆の圧、誤解、嘲笑。
あれは普通なら折れる。
でも彼女は折れなかった。
その光は確実に誰かの心を照らしていた。
◆ ◆ ◆
「それでさ……」
ハーチナは机にひじをつき、眉を寄せた。
「わたし、考えてみたんだけど……
インフルエンサーって、
“盛れる写真撮る人”じゃなくて……
“誰かの気持ち盛りあげる人”なんだよね」
レイリンが微笑む。
「そうだね。
光っぽい考え方だと思う」
俺も頷く。
「自分のためだけじゃなく、
見てる人のために動けるやつが強いんだよ」
ハーチナは拳を握る。
「だから……今日みたいなの、もう二度と起こさない!
周りのことちゃんと考えて動くし……
撮影も、迷惑かけないようにする!」
「本当に?」
レイリンが疑うように目を細める。
「ほんとにほんと!
ハーチナ、もう“炎上上等☆”とか言わない!
あれは若気の至りだった!」
「お前まだ17だろ……」
「若いもん!」
言い返す勢いに苦笑する。
◆ ◆ ◆
そんな中、マネージャーが深いため息をついた。
「あぁ……今日は本当に……どうなるかと思った……」
「でもハーチナ、よく頑張った。
正面から向き合ったのは偉いよ」
その言葉に、ハーチナの瞳が揺れる。
「ねぇ……マネージャー……
わたし、今日……変われたかな?」
「変われたよ。
少なくとも、今日のお前は……
“誰かに守ってもらう光”じゃなくて、
“誰かを照らす光”だった」
ハーチナの唇が震える。
「……うぅ……
やば……本気で泣くとこだった……」
レイリンが優しく背中をさする。
「泣いていいよ。今日の涙はきれいだよ」
「うわぁん! レイリンちゃん優しい~~!」
ハーチナが抱きつき、レイリンは窒息しかける。
「ちょ、ちょっと! 湯気じゃなくて涙で蒸し焼きにされる……!」
俺は吹き出しそうになりながら、
二人を見守っていた。
◆ ◆ ◆
頃合いを見て、ハーチナの前に
一杯のラーメンを置いた。
「ほれ」
「……へ?」
目をぱちぱちさせてから、
どんぶりを見て叫ぶ。
「えっっ!?
これ……“バイブス鬼盛りラーメン(反省SP)”……!?
今日だけの期間限定!?」
「勝手に名前つけんな。
ただの試作品だよ」
「ええ~~~っ!?
鬼盛りでバイブス上げてくれるラーメンじゃないの!?」
「……まぁ、気持ちは入ってる」
ハーチナはどんぶりを抱きしめた。
「ありがと……ロンくん……
今日……ほんとに、ありがとう……」
思わず目をそらす。
「礼言うなら……ちゃんと食え。
冷める前にな」
「はいっ!!」
ハーチナは勢いよく箸をとり、
湯気を吸い込んだ瞬間――
「うまっ……!!
バイブスが……
バイブスが生き返る~~~~!!」
レイリンが笑う。
「復活したね、ハーチナちゃん」
「うんっ!!
ハーチナ、もっともっと……
“正しいバイブス”でみんなを照らす子になるって決めた!」
そう言って、
彼女は胸を張り、笑顔を見せた。
まぶしいほどの光を宿した笑顔を。
◆ ◆ ◆
店の外では冷たい風が吹いていたが、
店内は不思議と暖かかった。
ラーメンの湯気。
笑い声。
反省と、未来への決意。
そのすべてが混ざり合って、
一つの夜を形作っていた。
ハーチナが目を細めてつぶやく。
「ねぇ……ロンくん。
また撮影……させてもらっていい?」
「……スタッフ全員でルール決めてからな」
「やった~~~!!
ハーチナ、明日からもバイブス全開で頑張るっ!」
その宣言が、
今日の締めくくりとなった。
そして――この日、
ハーチナは“炎上インフルエンサー”から一歩進み、
“光のインフルエンサー”へと生まれ変わった。




