70話 レチリアのお願い──“応援が、ほしいんです”
騒ぎから数日が過ぎ、メニャータ魔法学院は、年に一度の祭りの空気に包まれていた。
廊下のあちこちで魔法陣の光が駆け抜け、
教授たちは走り回り、生徒たちは浮かれ気味に準備を進めている。
なぜなら――
《第87回・魔導競技会〈メニャータ・アーク杯〉》
が、明日開催されるからだ。
魔力操作、術式演武、属性戦、召喚演技……
学院生にとっては、まさに“年に一度の晴れ舞台”。
俺とレイリンは、食材の納品のため学院の食堂へやって来ていた。
「すごいねぇ、ロン。もうお祭りモードだよ」
「学院ってのはいつもこうなのかと思ってたけど……今日は特に騒がしいな」
そんな会話をしていると、
背後から駆け足で小柄な影が走り寄ってきた。
「ロ、ロンさん! レイリンさん! 来てくれてありがとうございます!」
レチリア・ローザだ。
相変わらず魔導書を胸に抱え、少し息を切らしながら笑顔を向けてくる。
「これ……来て欲しくて……!」
差し出されたのは金色の招待状。
《魔導競技会《メニャータ・アーク杯》:貴賓席招待状》
「おお……貴賓席!? すごいね、レチリアちゃん!」
「は、はい……! あの……実は私……明日、出場するんです」
レチリアは頬を赤らめながら、うつむいた。
「練習ではできるんですけど……本番になると、その……魔力が暴走しやすくて……」
(……そういえば、初対面の時も爆発してたな……)
俺は思い出して苦笑いする。
その時――
「レチリア! 例の書類、できたわ」
振り返ると、シャンフ・メリアが立っていた。
ツインテールが揺れ、淡い眼が凛としている。
レチリアの先輩で、学院の中でも一目置かれる天才魔術師だ。
メリアは俺たちに気づき、軽く会釈する。
「また食堂の協力ね。いつもありがとう」
「い、いえ。こっちこそ助けてもらってばっかりで」
レイリンが微笑む。
その会話を聞きながらレチリアはぎゅっと招待状を握った。
「明日……がんばります。だから……」
胸元に魔導書を抱きながら言う。
「どうか……見に来てくださいっ!」
俺は迷わず頷いた。
「もちろん。応援するよ」
「うん、レチリアちゃん頑張って!」
レチリアの目が少し潤む。
しかし、この時のレチリアはまだ知らない。
自分が後に“とんでもないお願い”を先輩にすることになることを――
翌日、アーク杯開幕前の中央講堂。
学院中が準備で慌ただしく動くその真ん中で――
レチリアが深呼吸をひとつ。
(言わなきゃ……! 今日しかない……!)
彼女は震える足で、メリアのもとへ向かった。
「せ、先輩……!」
「どうしたの? そんなに顔赤くして」
「お、お願いがあるんです……!」
メリアが書類から目を上げた瞬間――
レチリアは全力で叫んだ。
「わ、わたしの応援……おねがいできませんかっ!!」
メリア「……………………は?????」
空気が止まった。
講堂の中央。
生徒が百名以上いる。
教授もいる。
みんなが静まり返る。
メリアの顔が、みるみる赤くなる。
「ちょ、ちょっと……レチリア……!? 人前で何を……!」
「わ、わたし……先輩の声があれば……
ぜ、絶対に……負けない気がするんです……っ!」
メリアは口を開けたまま固まる。
(メリアが固まってる……!?)
俺は思わず心の中で叫んだ。
(普段クールなのに、こういうの弱すぎる……!)
レイリンがにこにこしながら背中を押す。
「ねぇメリアさん。後輩のお願い、叶えてあげたら?」
しかしメリアは目をそらし、耳まで真っ赤。
「わ、私……応援なんて……やったことないし……
そもそも……人前で声出すの苦手で……」
「わかってます……でも……
先輩の声なら、きっと私に届くんです……!」
その一言に、メリアの瞳が揺れた。
「……レチリア……」
ほんの数秒の沈黙。
そして――
「わ、わかったわよ……!
やればいいんでしょ……応援……!!」
レチリア「せ、先輩~~~~!!」
メリア「抱きつかないでっ!? ちょ、ちょっと!」
「じゃあ、はいこれ!」
なぜか、レイリンが衣装袋を渡してきた。
メリア「……………………ちょっと」
俺は、(あ、やべぇ……)
ゆっくり布を広げると――
黄緑とピンクの、チアガール衣装。
スカートは短く、リボンが揺れ、
胸元には学院徽章入りのポンポン。
メリア「こ、こんなの……着られるわけ……!」
レイリン「大丈夫、似合うよ! 露出控えめにしたし!」
(控えめでこれか……!?)
メリアは更衣室へと連れて行かれる。
扉の向こうから、混乱の声が響く。
「ス、スカート短い……! これ絶対寒い……!
あ、ちょっと背中開いてない!? えっ、ポンポン重っ!?」
レイリン「動きやすいよ! ほら、回って回って!」
「回るって何!? ひゃああスカート広がるから無理!!」
ロン(心の声)
(……レイリン、絶対楽しんでるだろ……)
10分後。
扉が開き――
そこに現れたのは。
ツインテールを結び直し、
紫のスカートがふわりと揺れる。
頬を真っ赤にしながらも、
凛とした立ち姿は崩さず、
胸元のリボンが揺れる。
メリア「……み、見るなーーー!!!」
(…いや見ないと逆に失礼だし……!)
レチリアは両手で頬を覆いながら震える。
「せ、先輩……かわいい……尊い……」
メリア「黙りなさいレチリア!!」
しかし衣装の魔力がメリアの風属性と共鳴し、
ポンポンの先端に青い光が宿る。
レイリンが目を輝かせた。
「うわぁ……魔力適合率100%! 限定フォームみたい!」
(こっこれは……あの、チアメリ?、限定UR……!?)




