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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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66話 魔導演習場──“鏡花水月”の本質

風門庭園での短い鍛錬を終えると、学院の鐘が高く鳴り響いた。

教室への合図にしてはやや低い音だ。レイリンが首をかしげる。


「これって……何の合図?」


「演習場の開放よ。

 午前中の暴走騒ぎのせいで、時間がずれこんでいるの」


そう答えたメリアは、いつものようにツインテールを揺らしながら歩き出す。

レチリアは慌てて辞書のような魔導書を抱え直して、すぐ後を追った。


俺とレイリンもついていくと、学院の中庭に面した大きな建物へと案内された。

扉の脇には、


魔導演習場アークリング


と書かれた金属プレート。

重厚な扉を抜けると、広い空間が広がっていた。


天井は高く、半ドーム状。

床は魔法を受けても焦げ跡ひとつ残らない特殊鉱石。

壁面には魔力を吸収する青白い膜が張られている。


そしてすでに十名以上の研究生や見習い魔導士たちが集まり、

ざわざわと談笑しながら、ひとりの人物の到着を待っていた。


その中心に、

シャンフ・メリアが一歩、前へ出る。


途端、空気が変わった。


「メリア様だ……」

「今日も見れるのか、鏡花水月……!」

「学院最強の風術師……本当に美しい……」

「レチリアも一緒だ、珍しいな」


ざわめき。

羨望。

期待。


すべてがひとつの視線となって、メリアに向かう。


メリアはその視線を全く意に介さず、

杖を軽く床へトン、と打ちつけた。


「――演習を始めます。

 今日は“敵への制圧術”の基礎と応用を扱うわ」


声は澄んでいて、よく通る。

同時に、不思議と緊張感が張り詰める。


レチリアは隅で魔導書を胸に抱えながら、

そわそわと落ち着かない様子でロンたちの横に立った。


レイリンが小声で囁く。


「レチリアちゃん、ずいぶん人気ある場所に来ちゃったね」


「ひ、ひぃ……

 だ、だって先輩が“ついてきなさい”って言うから……」


尻尾が緊張で左右にぶんぶん揺れている。


そんなレチリアの姿を横目に、

メリアはゆっくりと手を伸ばした。


演習場の中央、魔法標的が浮かび上がる。


淡い光でできた人型の魔導ターゲット。

形状は簡素だが高度な魔力を帯びているため、

強力な術も吸収・分解することができる。


「では……」


メリアは杖を持ち直し、静かに息を吸った。


風が、彼女の周囲に集まる。


足元の魔方陣が青緑色に輝き、

ローブの襟が風に持ち上がる。


そして――


「“鏡花水月”」


呟いた瞬間、世界が二重に揺らいだ。


視界が水面のようにふるりと波打ち、

ターゲットの影がぶれたように見える。


次の瞬間、

シャンフの周囲から 花弁に似た風の刃 が舞い上がった。


風刃は散らばりながらも、

軌道のすべてが一点へ収束するように見える。


それは彼女の魔術の特徴――

“幻術と風術の多重構造”。


風の刃は斜めに旋回し、

幻影の軌跡がさらに敵の視界を惑わせた。


ターゲットは回避の動きを取ったが、

その瞬間、幻影の中から本命の刃が姿を現す。


――ズバァンッ!!


薄い光のターゲットに深い傷が走り、

魔力が霧のように散っていく。


さらに、残った刃の一つが追い打ちをかけるように旋回し、

標的の中心に吸い込まれる。


ターゲットの攻撃性能が一気に低下する。


メリアが腕を下げると、

風はすうっと静かに収束した。


演習生たちは息を呑む。


「……すご……」

「命中した瞬間、魔力が削られた……」

「あれ、攻撃力デバフだよね……」

「やっぱりメリア様の鏡花水月は別格……!」


レチリアは唖然とし、すっかり声を失っていた。


思わず感心して呟く。


「……見た目が綺麗なのに、効果はめちゃくちゃエグいな」


レイリンも同意して頷く。


「幻想の軌跡と本命の刃のタイミングが完全に一致してる……

 あの人、ほんと天才だよ?」


メリアは周囲がざわつく中で、

少しだけ表情を硬くした。


誇らしさはもちろんある。

だが同時に――

その視線の重さを受け止める責任もまた強い。


そんな表情の変化を、レチリアはすぐに察した。


「先輩……」


メリアはレチリアに手招きをした。


「次は、あなたの番よ」


「ひ、ひゃいぃっ!? わ、わたしですか!?」


尻尾がびくんと跳ねる。


「さっき地下で使った術式。

 “ローズウォーター”の魔方陣を、修正して見せて」


レチリアは焦りながら魔導書を開いた。


魔導ページに青い光が灯り、

彼女の周囲に円形の魔法陣が展開する。


その上部には、

淡い水色の小さなバラの紋様。


レチリアが詠唱を始めると、

魔法陣の花弁がひらひらと回転した。


「《ローズウォーター》──」


ぴゅっ。

水の弾丸がランダムに飛び出し、

ターゲットに当たって霧のように散る。


威力は控えめ、だが非常に優美。

まるで水と花の魔法芸術。


だが――


二発目の弾が、なぜか後ろの壁に向かって直角に飛んだ。


「うひゃっ!? ま、曲がった!?」


危うく俺の頭をかすめて飛んでいった。


演習場が一瞬どよめく。


「ちょ、危なっ……!」


「す、すみませんっ……!!」

レチリアは真っ青になって謝り倒す。


だがメリアは、微動だにせずに言った。


「今のは悪くなかったわ」


「……え?」


「魔力の流れは綺麗だった。

 ただし――」


メリアは軽く杖を振り、

レチリアの魔法陣の一部にふわりと風を乗せた。


魔法陣がわずかに形を変える。


「“収束”が甘い。

 魔力の出口を締めすぎているせいで、第二射が暴れるのよ」


「そ……そうだったんですか……」


「あなたの術式は優秀。

 ただ、恐怖心が混ざると魔力の筋が歪む」

メリアは優しく言う。


「自信を持ちなさい。

 本来なら、二射とも標的に収束するはずの魔法なんだから」


レチリアの目が潤んだ。


先ほどまで震えていた手が、

少しだけ落ち着きを取り戻していく。


周囲の研究生たちがひそひそ囁く。


「レチリア先輩も、すごい……」

「水術の才能、前から噂あったよね」

「メリア様があんな丁寧に教えるなんて、珍しい……」


メリアは照れた顔を見せることなく、杖を持ち直した。


「以上で演習を終わります」


「メリア様、ありがとうございました!」

「今日も最高でした……!」


生徒たちが一斉に頭を下げる。


その視線の中心で、

メリアはほんの少しだけ目を伏せた。


――誇らしさと、責任と、

そしてどこかに潜む孤独。


そのすべてを胸に抱えて、

彼女は静かにレチリアの頭をぽん、と叩いた。


「次、また魔法陣の復習をするわよ」


「はいっ!」


レチリアは満面の笑顔で頷いた。


その笑顔の奥に、

“憧れ” と “尊敬” と “頼りたい気持ち” が入り混じっていることを、

メリアはまだ気づいていない。


風の音が演習場を吹き抜ける。


――この静かな演習場で、

二人の距離は確かに縮まっていた。



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