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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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61話 学院の朝── レチリア・ローザ

メニャータ魔法学院の朝は、街と違い、どこか緊張感がある。


空に浮かぶ魔導灯、塔の窓から漏れる魔力の光、

若い魔術師たちの声と、魔法陣が軋む音。


冬の冷たい空気より先に、

術式の熱気が肌を刺す。


俺とレイリンは、そんな学院の正門をくぐっていた。


「今日の納品は食堂だけだし、すぐ帰れるね、ロン」


「そうだな。スープの一部は事前に届けたし、残りは野菜と調味料だ」


背中の荷台はそこそこ重いが、

ここでの取引はお店にとって大事なルートだ。


学院の食堂――正確には料理魔術研究会のメンバーが

俺たちの味を気に入って、納品依頼を続けてくれている。


「しかし……毎回思うけど、学院の魔力圧、すごいよな……」


大きな講堂の前を通るたび、

重力がわずかに変化するほどの魔力が流れてくる。


レイリンは平然とした顔で歩いているが、

俺は少し肩に力を入れざるをえない。


(ゲームの中の場所が、今はちゃんと“息づいてる”のがすごい世界だよな……)


そんなことを考えていた――その時だった。


――ビーッ、ビーッ、ビーッ!!


突然、耳をつんざく警報が学院全体に響いた。


レイリンが目を見開く。


「これ……魔力暴走アラーム!」


「どこの棟だ?」


近くにいた学生が叫ぶ。


「三号棟、演習室の方向だ!」


その直後。


俺たちの視界の奥で、

青い光が一気に膨張し――


どごぉおおおおん!!


爆風と水柱が廊下から噴き上がった。


「おいおい……何の大規模魔法だよ!?」


「ロン、走るよ!」


レイリンの声に合わせ、俺たちは全速力で駆けだした。


三号棟の廊下はすでに水浸し。

天井からは青い光が散っている。


(この魔力…いや、絶対あの子だ!)


確信した瞬間、廊下の奥から声が響いた。


「ご、ごめんなさい――っ!!」


紙束と魔導書を抱え、

水浸しの床を滑るように飛び出してきた少女。


銀水色のショートヘアが爆風で乱れ、

丸眼鏡には水滴がつき、

尻尾がしゅんと後ろに垂れている。


――レチリア・ローザ。


魔法学院きっての“努力家なのに暴走率が高い”

見習い魔導書使い。


レイリンが叫ぶ。


「レチリアちゃん!!」


その直後――

暴走した魔導書のページが自動展開し、

青い魔力の奔流がこちらへ迫ってきた。


「ロン、来るよ!」


「わかってる!」


俺はとっさに前へ出て、

押し寄せる水圧撃を肩で受け止める。


ぐっ……!

重たい衝撃だが、まだ耐えられる!


吹き飛んだ水はガラス窓から外へ抜け落ち、

教室の床が一気に静かになった。


数秒後。

廊下の天井についた魔導陣が小さく火花を散らし、

警報もようやく止まる。


俺は息を整えながら、レチリアのほうを見る。


レチリアは、まるで叱られる前の子犬みたいな顔で

魔導書を抱えたまま立っていた。


「ま、またやっちゃいましたぁ……」


「怪我はないか?」


 尋ねると、


「は、はい……ロンさんが受け止めてくれなかったら

 ……ほんとに、水圧で吹き飛んでました……」


レチリアの声は震えていたが、

胸のあたりを押さえて、ほっと息をついた。


レイリンも水魔力で濡れた前髪を払いながら微笑む。


「無事で良かったよ。魔導書、また暴走しちゃった?」


レチリアはこくんと頷いた。


「じ、実は……

 魔導書の“序章魔術”から何度も練習してるんですけど……

 わたし、魔力安定が苦手で、

 ページをめくるたびに魔導陣が暴走して……」


持っている魔導書を見ると、

表紙の端が水に濡れ、

中は自動展開防止の封印札がところどころ剥がれていた。


(確かに……これは扱いが難しそうだ……)


レチリアは小さく続ける。


「ほんとは……

 先輩のメリアさんに見てもらいたいんですけど……

 最近、すごく忙しいみたいで……

 風門の代表で、競技会の準備もあって……」


レイリンが軽く笑う。


「先輩なら後輩の相談なら絶対聞いてくれると思うけどなぁ」


レチリアは耳まで赤くして、

ついには尻尾がぺたりと床に落ちた。


「そ、そうだと嬉しいんですけど……

 迷惑じゃないかなって……

 わたし、しょっちゅう失敗してるし……」


俺は肩を竦める。


「失敗してるならなおさら、

 教えてくれる先輩は必要だろう」


レチリアが驚いたようにこちらを見る。


レイリンも頷いた。


レチリアは魔導書をぎゅっと抱え込み、

瞳に少しだけ決意の光を宿した。


「……はい。

 練習、続けます。

 先輩にも……ちゃんとお願いしてみます」


その姿は、水浸しの廊下で小さく震えながらも、

必死に立ち上がる努力家の姿そのものだった。


学院の朝は慌ただしく、

そして騒がしく始まった。


だが俺は――

この小さな魔術師の一歩が

何か大きな変化を呼ぶ、

そんな予感を確かに感じていた。


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