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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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60話 焚き火のそばで──ウカが旅を続ける理由

砂獣との激闘が終わる頃には、焦熱の断崖にも夜が落ち始めていた。


夕日は砂丘の端で溶け、

赤く燃え残るような残光が、岩壁の影を長く伸ばす。


風が冷えてきた。


白昼の熱はあっという間に消え去り、夜の砂漠は容赦なく体温を奪っていく。


「ここで一度、休もうか」


レイリンの提案に、ウカも小さく頷いた。


「うん……ふたりとも、今日は本当にありがとう。

 この先は安全な場所まで距離があるし……火を焚いたほうがいいね」


砂丘の外れ、岩場に囲まれた風の弱い窪地を見つけ、そこで野営をすることにした。



焚き火の準備を始めると、ウカは背中の巨大な緑色のザックを下ろした。


「……おい、これ、重くなかったのか?」


 思わず聞くと、ウカは苦笑した。


「慣れだよ。旅道具ぜんぶ詰めてるからね」


ザックの口を開けると──


・折り畳み式の小さな鍋

・乾燥した肉と根菜

・風避けの布

・水系魔石入りの水筒

・折りたたみ式のテント

・火打ち石

・薬草袋

・簡易裁縫道具

・調味料の瓶が5本


次から次へと、まるで底がないみたいに物が出てくる。


レイリンが笑った。


「すごい……。ほんとに旅人なんだね、ウカちゃん」


「旅人だからね。これがぜんぶ相棒みたいなもの」


ウカは誇らしげに微笑むと、鍋と水筒を手に取った。


「今日は……遊牧風スープ、作ってもいい?」


「もちろん!」


レイリンの顔がぱっと明るくなった。


俺も頷く。


「助かる。腹も減ってたしな」


焚き火がぱちぱちと音を立てる。


ウカは手際よく鍋に水を張り、乾燥肉をほぐして入れ、

刻んだ野菜、香草、独特な赤いスパイスを加えた。


鍋が温まるにつれ、甘さと辛さが混じった香りが立ち上る。


「いい匂い……!」


レイリンは思わず身を乗り出した。


ウカは木の棒で鍋をかき混ぜながら、柔らかい笑みを浮かべる。


「遊牧の人たちがよく作るの。

 砂漠じゃ水も食材も貴重だから、スパイスで栄養を引き出して……

 旅の疲れをとる、元気のスープ」


その声音には、長く旅をしてきた人の重みがあった。


やがら、湯気が白く濃くなり、スープはとろりとした黄金色に変わる。


「できたよ。熱いから気をつけて」


木の器に盛られたスープは、見た目よりも豊かな香りを放ち、

ひと口飲めば体の芯から温まるようだった。


「……うまい」


気取らず、思わずこぼれた言葉だった。


レイリンも目をみはる。


「優しいのに、ちゃんと力が出る味……!

 ウカちゃんって料理も得意なんだね」


ウカは照れたように笑った。


「旅してるとね。ひとりでなんでもやらなきゃいけなくなるから」


焚き火の橙色が、彼女の赤い瞳に揺らめいた。



しばらく三人でスープを味わい、

火の粉がふわりと夜空へ舞うころ、

ウカは静かに口を開いた。


「……わたしね。旅してる理由があるんだ」


レイリンがそっと顔を向ける。


「理由?」


「うん」


ウカは鍋の縁を指でなぞりながら、

少しだけ遠くを見る目をした。


「昔ね……小さなキャラヴァンにいたの。

 家族みたいに、みんな優しくて……

 でも、ある時の嵐で……バラバラになっちゃって」


レイリンが息をのむ。


「それって……」


「うん。

 誰もいなくなった。

 でもね──」


ウカは、悲しむような顔をしなかった。


焚き火の前で、しっかりと笑った。


「泣いたり、絶望したりするより……

 いつかまた会えるって思うほうが、わたしには合ってた。

 だから旅を続けてるの。“約束”だから」


その言葉は、軽くも重くもない。


ただまっすぐで、痛いほど真っ直ぐで……

迷いがひとつもなかった。


レイリンは胸に手を当ててつぶやく。


「強いね……ウカちゃんって」


ウカは首を横に振る。


「ちがうよ。

 強くない。

 ただ……あの人たちが笑ってる顔を思い出すと、止まれなくなるだけ」


焚き火の向こうで刀を抱えた彼女の姿を見つめた。


芯の強さとは、こういう少女のことを言うのだと思った。



スープを飲み終え、各々が荷物を整え始めるころ。


ウカは刀を膝に置き、

布で丁寧に刃を拭きながら言った。


「……旅は、続けるよ。

 見つかるかどうかは分からないけど……

 それでも、止める理由はないから」


「ウカ……」


レイリンが静かに呼ぶ。


ウカは微笑み、刃先に最後の一拭きをする。


「でもね──」


刀を納め、こちらを向いて言った。


「また会えたらいいな。

 ふたりのラーメン食べてみたい。」


レイリンの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、絶対来てね!

 次はぜったい食べてもらうから!」


ウカは笑って頷いた。


「うん。楽しみにしてる」


火の粉が夜空へ舞い上がり、

星明りが静かに広がる。


旅人ウカは、再び背負うべき荷物と決意を抱え、

明日の道を見つめていた。


俺とレイリンは、その小さな背中を

ただ温かく、そして誇らしく見守った。


焚き火の音が、遠い夜風と混ざり、

焦熱の断崖にゆっくりと溶けていく。


こうして──

ウカとの新たな縁が結ばれ、

旅人の少女はふたたび歩き出す準備を整えるのだった。


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