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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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56話 焦熱の断崖道──旅人ウカとの邂逅

焦熱の断崖――それは街から少し外れた場所にある、砂丘と岩山が入り混じった危険な地帯だ。

冬でも熱気が残る珍しい地域で、地形の影響で気温が妙に高く、昼に通ると汗が滲むほどだ。


レイリンと共に、仕入れで訪れた“乾燥香草の市場”からの帰り道として、この断崖道を選んでいた。

近道ではあるが、岩壁が崩れやすく、魔物も砂の中に潜んでいる。

だから本來は避けたほうがいいルートだったが――どうしても早く店に戻りたかった。


「ふぅ……あっつ……冬なのに、なんでこんなに暑いのさ……」


レイリンが額の汗をぬぐう。


俺も同じで、首元がじっとりと湿ってきていた。


「風がとまってるからね。砂丘に囲まれると、熱気がこもるんだよ」


「うぅ~……ラーメン屋の厨房のほうがまだマシだよ……」


そんな会話をしながら、じりじり照らされる断崖道を進んでいた。


乾いた風が岩肌に当たり、砂がカラカラと音を立てる。

時折、遠くで砂煙が上がり、野生の魔物が走り抜ける影が見えた。


(やっぱり……通るの間違えたかな)


不穏な雰囲気に、腰の剣の柄に無意識に手をかけていた。


レイリンも落ち着かない様子で周囲を見渡している。


そんな時――だ。


「……ねぇ、ロン、あれ……人?」


レイリンが指差した先に、岩壁の縁にひとつの影があった。


最初は岩の陰でわからなかった。

だが近づくにつれ、それが 巨大な緑色のザックを背負った少女 であることが見えてきた。


少女は岩壁の端にロープを掛け、丁寧に張り巡らせている。

その姿は、旅の途中というより、“作業員”のように見えた。


「こんな場所で……何してるんだ?」


そうつぶやくと、レイリンが小声で続けた。


「旅人……っぽいけど……ただの旅じゃない感じだね」


その少女は――

動きが驚くほど無駄なく、姿勢が凛としている。

重い荷物を背負っているのに、足元は一切ふらつかない。


(歩幅もリズムも……戦士みたいだ)


ザックから飛び出しているのはテント、調理器具、水筒、薬草袋……

そして背中には、青白い光を帯びた片刃の大きな刀。


少女は手際よくロープを結び、強く引いて強度を確認した。


「……これで、次の人も落ちないはず」


小さくつぶやいた声は、若いのに不思議な凛々しさがあった。


俺とレイリンが近づいたのに気づいたのか、

少女は振り返った。


赤みを帯びた瞳が、まっすぐこちらを射抜く。


「……あ、旅のひと?」


少女は汗を拭いながら軽く会釈した。

黒髪のツイン三つ編みが肩で揺れる。


「この道、崩れかけてるから……気をつけて通ってね」


その言葉には“丁寧さ”より、“責任感”が強く滲んでいた。


レイリンが驚いたように尋ねる。


「あなたが……このロープ、張ったの?」


「うん。崖道が緩んでたからね。

 今日、このルートを通る旅人がいるって聞いたから……先に補強しておいたの」


さらっと言ったが、ここは魔物も出る。

少女ひとりで作業するのは危険すぎる。


「危険だろ。なんでひとりで?」


少女は少し迷ったあと、まっすぐ言った。


「……守りたいから、かな」


「守る?」


尋ねると、少女はザックを軽く叩いた。


「わたしは“キャラヴァン”の旅人だからね。

 誰も怪我しないように……通り道くらい、整えてあげたいんだ」


(キャラヴァン?)


旅を続ける人々の集団。その護衛、物資、生活道具……いろいろな役割がある。


少女は微笑んだ。


「わたしは、ウカ。旅してるの。

 いまはキャラヴァンとは別行動でね、道を整えたり、危険な場所に印をつけたりしてるんだ」


ウカ――その名前を聞いた瞬間、心の中でピクリとした。


(ウカか……R?……いつか見かけたような……?

 スキルも地味で、印象薄いけど……民族衣装は可愛かった記憶が……)


ゲームの “中途半端な既視感” が脳裏をよぎったが、すぐに胸の内に押し込む。


現実のウカは――

そのどこかのんびりした印象に反して、芯の強い少女だった。


レイリンが興味深そうに尋ねる。


「ウカちゃん、その刀……すごく使い慣れてる感じだね」


ウカは照れたように、刀の柄を握った。


「うん。……旅が長いからね。

 魔物相手には……多少は、ね」


その言葉の裏には、何度も命の危険を経験してきた気配があった。


ふと――

岩の欠片が足元に落ちた。パラパラ……と続けて崖上が崩れる音。


ウカはすぐ反応し、俺たちを片手で制止する。


「止まって」


まるで獣の気配を読むように、耳を澄ます。


(この子……危機察知能力、異常に高い)


次の瞬間、上の岩が崩れ、ウカが張ったロープが衝撃で大きく揺れた。


だが――

ウカは即座に固定具を調整し、ロープのテンションを維持した。


「……ふぅ。これで大丈夫」


その手際は素早く、迷いがない。


レイリンは目を丸くした。


「すご……! 本当に旅人?」


「ただの旅人……じゃ、ないかも。

 でも、いいんだ。誰かの役に立てるなら」


ウカの言葉には、飾り気がない。

“善いことをしている” という意識より、

“そうしたいからしている” 素直さがあった。


その横顔を見て、胸の中で静かに思った。


(この子……ただものではないな)


──誰かを守るため。

──誰かに再会するため。


そんな願いが、彼女の旅の背中を押しているように見えた。


ウカはザックを背負い直し、俺たちに向き直る。


「ふたりは……この先に行くの? 

 道案内、しようか?」


レイリンがうれしそうに笑った。


「お願いしてもいい?」


「うん。任せて」


ウカは岩場の先に軽く跳ねるように歩き出した。

大きなザックを背負っているのに、動きは軽快。


(なんだ、この安定感……

 見た目は華奢なのに、旅人として完成されてる)


その後ろ姿を追いかけながら、

この少女との出会いが――

また新しい物語を引き寄せる予感を強く感じていた。


焦熱の断崖を照らす夕日が、

三人の影を長く伸ばしていた。


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