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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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54話 蜜洞の真実──森を蝕む黒い花の正体

巣喰い甲蜂を倒したあとも、森はまだ静まり返っていなかった。


風が止まり、葉のざわめきすら消え、

蜜を含む空気の甘さが、逆に胸をざわつかせる。


(この奥に……何かある。間違いなく)


背中に冷たい汗が伝う。


案内役のメルは、両手で杖をぎゅっと握りしめ、

森の奥――わずかに光が漏れる方向を指した。


「……あそこです。

 “蜜洞みつどう”……。

 お姉ちゃんたちが、ずっと守ってきた場所……」


「蜜洞……?」


レイリンが小さく呟く。


「蜂の森では、一番濃い蜜が自然に溜まる場所なの。

 森の魔力と花の魔気が集まって……

 本来なら、癒しの香りが満ちる“聖域”なんだけど――」


メルは唇を震わせる。


「ここ数日……

 あそこから、変な匂いがしてきて……

 急に蜂の巣が次々と荒らされるようになったの……」


(なるほど……巣喰い甲蜂の異常強化とつながってる)


剣の柄に触れながら、

静かに森の奥へと歩を進めた。


◆ ◆ ◆


蜜洞への道は、木々が自然と弧を描くように裂け、

中央へ導かれていた。


そして――

光の中心に、それはあった。


「……なに、あれ……」


レイリンが息を呑む。


俺も言葉を失った。


洞の中央に咲いていたのは、

黒い花だった。


大きさは成人の胸ほど。

花弁はグラデーションのように漆黒から深紫へと染まり、

その表面は薄い膜のように煌めいている。


だが――

一番異様なのは 香り だった。


甘いのに、どこか胸が締めつけられるような苦味が混ざり、

花の周囲の空気がヌルっと歪んで見える。


「これは……自然の花じゃないね」

レイリンが額に手を当てる。


「森の魔力を吸い……“黒蜜”を生み出してる……

 これに蜂たちが触れれば、狂気化するのも当然だよ」


(黒蜜……巣喰い甲蜂が吸っていた異常な蜜)


花に一歩近づき、地面に触れた。


土は、黒く濁っていた。


――枯れている。


――森が“腐って”いる。


(この花……森の魔力を奪う“寄生花”か)


メルは震える声で言った。


「森の歴史では……こういう花、

 “黒蜜寄草こくみつきそう”って呼ばれています……

 滅多に見ないけど、咲くと森を飲み込む……

 とても危険な魔花なんです……」


「じゃあ、これを放っておけば――」


「森全体が……壊れちゃう……」


メルの声は震え、その瞳には涙がにじんでいた。


「お姉ちゃんたちが守ってきた森……

 お客さんに届けるはずの蜂蜜……

 もうみんな……めちゃくちゃになってしまう……!」


レイリンはメルの肩に手を置く。


「大丈夫。

 私たちが、止めるよ」


俺も深く頷いた。


(ここで折れるわけにはいかない)


剣を抜き、黒い花へと向き直る。


しかし――

その瞬間だった。


ズ……ッ……!!


黒い花の中心から、

触手のような影が三本、音もなく伸びてきた。


「ロン、危ない!!」


レイリンが叫ぶが、

俺は剣を構えたまま踏み込む。


(来い――!)


一本目が地面を裂きながら伸びる。

横へ転がり避け、すぐさま立て直す。


二本目は空中から斜めに襲い、

その先端に毒蜜が滴る。


「ぐっ……!」


剣で受け止めると、

金属が焼けるような音を立てた。


(やっぱり毒だ……!)


三本目は蛇のように曲がり、

レイリンへ向けて伸びる。


「させねぇ!」


瞬時に俺も飛び出し、

レイリンの前に割って入る。


「――みんなを守る!」


青い防御膜が発動し、

触手の一撃を弾き返した。


バチィィンッ!!


触手は怒るように震え、

花弁がバサァと大きく広がる。


(まずい……本気で来る!!)


レイリンが息を整え、杖を握りしめる。


「ロン、ちょっとだけ耐えて!

 あと少しで……!

 火力、もっと上げるから!」


「了解だ!」


レイリンは光の粒を散らし、

俺の背中へ向けて呟く。


「――秘密のスパイス!」


身体が熱を帯び、

筋肉がまた一段階強化される。


(よし……! いける!)


しかしその間に、

黒蜜寄草の花がまた腹部を膨らませるように脈動した。


ズゥゥゥゥゥン……!!


黒い蜜が空中に霧散し、

花の周囲が更に黒く染まる。


レイリンが顔をしかめる。


「ロン! このままじゃ森ごと侵食される……!

 花を止めないと……!」


「分かってる!」


剣を握りしめ、足を踏み込む。


だが――

背後から、


「……ロンさん……!」


メルの声が震えていた。


振り向くと、

彼女の羽が光を帯び、杖に蜂蜜色の魔力が集まりつつあった。


「あたし……

 あたしも……戦います……!」


レイリンが驚く。


「メルちゃん、その魔力……!」


メルは涙をこぼしながら、しっかりと顔を上げた。


「ここは……わたしたち三姉妹の、大切な場所……

 壊されるのは嫌……!

 お願い……一緒に戦わせてください……!」


しばし彼女を見て、頷いた。


「もちろんだ」


(守るだけじゃない……メルの想いごと、支えるんだ)


その瞬間――

花が悲鳴のような音を立てた。


ギィィィィィィッ!!


花弁が全開に広がり、

中央から“黒い核”のようなものが見える。


そこに魔力が集中している。


(あれだ……! 核を砕けば終わる!!)


俺は叫んだ。


「レイリン、メル!

 俺が前に出る! 援護してくれ!」


「わかった!」


「はいっ!!」


黒い触手三本が同時にこちらへ襲いかかる。


(止まってられない――!)


死角を抜け、一本目を斬り払う。

二本目が横薙ぎに来るのをくぐり抜け、

三本目の毒蜜をギリギリでかわす。


間合いに入った。


(行くぞ――!!)


剣を振り上げ、

核めがけて、渾身の斬撃を――


「――俺に任せろッ!!」


青い斬光が一直線に走り、

黒い核へ叩きつけられる。


バキィィィィィンッ!!


亀裂が入った。


「もう一撃!!」


レイリンが光を送り込む。


「ロン!全力で!!」


メルも杖から甘い風を吹かせ、

花の動きを一瞬だけ止める。


(今しかない!!)


全身の力を剣に乗せ――


「うおおおおおッ!!」


バシュゥッ!!


核が砕け散った。


黒い蜜が霧のように消え、

花弁が一枚ずつ崩れ落ちていく。


ドサァ……ッ……


森に、静寂が戻った。


レイリンが杖を下ろし、

深く息をつく。


「……やった、ね」


メルは両手で口を覆い、涙を溢れさせた。


「森が……森が……戻る……!

 お姉ちゃん……わたし……守れたよ……!!」


蜂たちの羽音が優しく森に響く。

夜風が通り抜け、

甘く、清らかな香りがふたたび戻ってくる。


剣を下ろし、息を整えながら空を見上げた。


(守れた……俺たちで)


そして――

メニャータ養蜂園の、本当の再生が始まった。


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