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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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52話 蜜の森の異変──侵入者と荒らされた蜂の巣

風の音が、急に変わった。


さっきまで軽やかに揺れていた葉のざわめきが、

今はどこか湿ったような、重い響きを帯びている。


メニャータ養蜂園の奥。

花蜜の道を抜けた先に広がる“蜜の森”――

そこは本来、魔蜂と花々が穏やかに共存する、静かな楽園のはずだった。


だが、足を踏み入れた瞬間、

俺もレイリンも、肌で違和感を感じた。


「……空気が……重い」


レイリンが腕を擦りながら呟く。


森全体に淡い霧が漂い、

甘いはずの花の香りが、微妙に“腐ったような”苦味を含んでいた。


メルは前に立ち、翅を震わせながら周囲を確認する。


「――やっぱり、何か入り込んでます。」


森の奥へ続く一本道。

その脇にある巣箱の一つが、斜めに傾いていた。


「……これ」


駆け寄ってみると、

巣箱の木材が何かに掘り裂かれたようにえぐられ、

蜂たちが住むはずの内部は、空っぽだった。


(誰かが……いや、“何か”が巣を荒らした……)


レイリンが眉をひそめる。


「人間がやったわけじゃなさそうね。

 獣の引っかき傷……にしては、魔力が残っている……」


俺も巣箱の破片に触れ、ぞっとした。


「これは……魔物の力だな。しかも……攻撃じゃなく、奪った跡だ」


メルが唇を噛みしめる。


「最近、森の奥に“見たことない影”が出るって、

 魔蜂たちが言ってたんです……」


“魔蜂たちが言ってた”

という言い方は、この少女にとって自然なのだろう。


レイリンも緊張して声を潜める。


「メル、もう少し詳しく教えて」


メルは巣箱から目を離さず、不安げに続ける。


「森の奥の“蜜洞みつどう”に、

 甘い蜜を狙う魔物が住み着いた……って。

 最初は妖花蜂が追い払ってたけど、

 最近は強くなってるみたいで……」


風の向こう――確かに、

かすかに低いうなり声のような音が聞こえた。


森の木々が、音もなく揺れる。


……ピシッ。


何かが枝を踏み折った。


俺とレイリンは即座に身構えた。


森の影が、ゆっくりとこちらに伸びてくる。



「メル、後ろに下がれ」


「……でも……!」


「いいから。まずは状況を見なきゃいけない」


メルは悔しそうに唇を結びながら、俺の後ろに下がった。


影はゆっくりと姿を現す。


……だが、それは俺の予想していた“魔物の姿”ではなかった。


まず出てきたのは――

朽ちかけた蜂の巣を背負った、小柄な魔蜂。


しかし、その体色は通常の淡金ではなく、

土のように黒く濁っている。


翅の動きは不規則で、

まるで“何かに操られている”ようだった。


レイリンが小さく息を呑む。


「……これ、毒化してる……?」


メルは、両手をぎゅっと握りしめた。


「“妖花蜂ようかばち”……

 やっぱり、森の奥で何かが……!」


妖花蜂は本来、おとなしく働き者の魔蜂だ。

蜜花のお世話をし、巣の整理をし、

人にも危害を与えることは滅多にない。


だが今の瞳は――虚ろだった。


そして巣箱を荒らしたのはこいつら、ではない。

あまりにも体が小さすぎる。


(こいつらが“脅されている”側か)


妖花蜂は、疲れたように俺たちの前にふらふらと漂い、

突然――


パチッ。


巣の奥から、黒い花粉のようなものを散らした。


レイリンが即座に後退し、腕で顔を覆う。


「毒粉よ!ロン、下がって!」


メルが焦って杖を構えた。


「大丈夫! わたしが止めます……!」


その瞬間――

妖花蜂の背後で、地面がぐらりと盛り上がった。


俺は思わず息を呑む。


(来た……!)


土を破って姿を見せたのは――

森の奥に巣食った“真の侵入者”。


人の背丈ほどある黒い外殻。

甲虫と蜂を混ぜたような異形。

腹には蜜を盗み溜めた跡があり、

その両腕は鋭利な刃のように変形している。


メルが呟く。


「……“巣喰い甲蜂すくいこうほう”……」


その声は、恐怖だけでなく“怒り”も含んでいた。


「蜜を求めて森を荒らす、最悪の害獣……

 妖花蜂たちを追い立てて、巣を壊して……

 魔蜜を奪う……!」


巣喰い甲蜂は、こちらを見て唸った。


ギギギギ……


その音は、金属を擦り合わせたような不快な響き。


俺はレイリンと視線を合わせ、頷く。


――やるしかない。


メルが僅かに震える杖を構える。


「ロンさん、レイリンさん……

 お願いです……!

 あの子たちの巣箱を……これ以上壊させたくない……!」


その声は弱いのに、

どこか強さがあった。


緊張で震えるのに、瞳は逃げていない。


レイリンが前に出る。


「任せて。

 メルが守りたい場所なら……私も守るよ」


俺も、刀の柄を強く握りしめた。


「今日の案内、まだ途中だろ?

 最後まで“おもてなし”させてもらわないと」


メルは、一瞬だけ驚き、

その後、大粒の蜂蜜のような笑顔を浮かべた。


「……はいっ!!」


巣喰い甲蜂が、刃のような腕を広げ、

森の空気が一気に張り詰める。


甘かった森は、

不穏な“戦場”へと姿を変えた。


蜜の森に満ちる、

甘くて苦い異変の正体――

それを暴く戦いが、ここから始まる。


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