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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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46話 恋の悩み──黒翼の少年ルビル・マルク

静かにすすり泣く声が落ち着いてくると、

ピルナはまだ両手で器を抱えたまま、何度も深呼吸を繰り返した。


白湯ラーメンの湯気はまだふんわりと立ち上り、

その温かさが彼女のこわばった肩の力をゆっくりと解いていく。

さっきまでキュッと縮こまっていた翼や尻尾も、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。


しかし、瞳の奥にはまだ揺れる不安や迷いが残っている。


ピルナは細い指を胸の前でぎゅっと握り、意を決したように小さく口を開いた。


「……あの……

 わ、わたし……好きな男の子がいるの……」


レイリンはすぐに柔らかい表情をつくり、カウンター越しに身を寄せた。


「好きな子、いるんだね。うん、聞かせて?」


俺もうなずき、彼女が話しやすいように静かに待つ。


ピルナは恥ずかしさと不安を混ぜ込んだ視線でカウンターを見つめ、

もじもじしながら続けた。


「な、名前は……

 ルビル・マルク……。

 闇属性の召喚士で……亜人の子……」


その名前を聞いた瞬間、

俺は思わず息を止めた。


(……ルビル・マルク?

 ああ、覚えてる。

 メンドラ初期の頃は、SRの中でも扱いやすい“万能枠”だったな……

 火力もそこそこ、スキル回しも簡単で……

 初心者救済みたいなキャラだったっけ)


(まさか、あのルビルが……こんな形で登場するとは)


不思議な懐かしさと、

ゲームの記憶が世界と重なるような奇妙な感覚が胸をかすめた。


ピルナがルビルの名をを言った途端――

尻尾がぴょん、と跳ね上がった。


それは紛れもない、

“恋する小悪魔” のリアクション。


「す、すっごく素敵な子なの!!」


ピルナは急に火がついたようにしゃべり始めた。

両手が宙を舞い、翼も一緒にバサバサ動く。


「焦げ茶色の髪がね!

 少し外に跳ねてて、無造作なのに……すっごくかっこよくて……!」


声が自然に弾む。

頬は真っ赤、尻尾はぱたぱた暴れる。


「瞳は赤紫っぽくてね……

 ちょっと妖しい光があって、でも優しくて……

 私を見るたびふわっと笑ってくれるの……!」


(……それ完全に脈アリじゃ)

心の中でそう思ったが、さすがに口には出さなかった。


「それでね!!」


ピルナはついに身を乗り出し、手振りまで加えてくる。


「コートの襟がふわふわでね!

 魔法陣みたいな模様が入ってて!

 黒い翼も綺麗で……

 歩くと空気が揺れるの……!!

 もう、ほんと、反則級のカッコよさなの!!」


レイリンは「わかるわかる」と頷きながらも、どこか微笑ましい顔をしていた。


俺もつい笑ってしまう。


「すごいな……ピルナ、本当に好きなんだね」


「す、好き……好きだと思う……!」


ピルナの耳まで真っ赤になる。


「会うだけで胸がぎゅってなるし……

 一緒に歩けたらいいなって思うし……

 あの笑顔を独り占めしたいって……考えちゃうし……!」


尻尾が高速で揺れ、翼がパタパタ暴れる。

見ているだけで恋の熱が伝わってくる。


だが、ピルナの表情が急に曇った。


「でも……」


トーンが落ちる。


「……彼には……使い魔が三体いて……

 いつも……いつも……わたしを邪魔するの……」


俺とレイリンは同時に目を見合わせた。


「三体も?すごいね……」

「珍しいよね。どんな子たち?」


ピルナは少し怯えたように唇を噛んだ。


「光る球みたいな子で……

 表情があって……

 ふわふわ飛ぶの……」


説明しようとすると、肩がすくむ。


「でも……あの子たち……」


ピルナは声を潜めた。


「わ、わたしが近づくだけで……

 一体目が“驚かせろ!”って突然飛び出してきて……

 魔力音で脅かされて……ほんと心臓止まるかと……」


(嫌がらせのプロか)


そう思ったが黙っておく。


「二体目は“突撃指令!”って言ったら……

 本気でぶつかってくるの……!

 わたし……吹っ飛ばされそうになったし……!」


レイリンは思わず声を上げた。


「けっこう危険じゃんそれ……!」


「で、三体目は……

 ずっとじぃぃぃって私を見つめてきて……

 なんか気持ちが落ちる魔力を浴びたみたいで……

 ふらふらしちゃって……」


 思わず口を挟む。


「防御ダウン視線ってやつか……」


ピルナは肩を落とし、テーブルを見つめた。


「わたし……ただ……

 もう少し近づいて……

 ちょっとだけ話したいだけなのに……

 あの子たちがいつも邪魔して……

 ルビル本人は“こいつら自由すぎるんだよなー”って……

 ぜんっぜん気づいてなくて……」


その表情はまさに、

報われない片思いが抱える痛みそのものだった。


レイリンは腕を組み、真剣な目をした。


「ピルナちゃん。

 もしかしてその使い魔たち、悪意で邪魔してるわけじゃないよ」


「……え?」


「たぶんね……

 ピルナちゃんの気持ちが“強すぎて”、警戒してるんだよ」


「えぇっ……そんな強い……?」


「うん」

レイリンは微笑む。


「使い魔は主の“心”を守る存在なの。

 主に大きな影響を与えそうなものは、本能で牽制するんだよ」


ピルナは戸惑いながらも、聞き入っていく。


「さっきラーメン食べて泣いてた時……

 すごく素直で、まっすぐな顔してたよ。」


ピルナは耳を真っ赤にして両手で顔を覆う。


「そ、そんな顔……してた……?」


尻尾がくるくる暴れる。


レイリンは優しく言う。


「“怖い存在じゃない”って伝われば、使い魔たちも受け入れるよ」


「……でも、どうやって……?」


「使い魔たちにも、好きになってもらえばいい」


ピルナ「ええええええええええええッ!?!?」


店中に響き渡る悲鳴。

慌てて自分で口を塞ぎ、翼がばちばち震える。


レイリンは笑ってしまうが、すぐ真面目な声に戻る。


「恋ってね……相手だけを見るものじゃないよ。

 相手の“大事なもの”も、全部大切にするの」


「ルビルの使い魔たちに、

 “私は味方だよ”って伝えられたら……

 いつかきっと、邪魔しなくなる」


ピルナはしばらく黙った。

けれど――やがて、


ぎゅっと拳を握りしめた。


「……わかった……!

 わたし……がんばる……!」


顔を上げ、真っ直ぐな瞳で言い切る。


「ルビルだけじゃなくて、

 使い魔の子たちにも好きになってもらう……!


 だって……わたし……

 本気なんだもん……!」


その瞬間、尻尾が勢いよく跳ね、

小さな翼が嬉しそうにふわっと広がった。


レイリンも、思わず微笑む。


ピルナは涙の跡を残したまま、

それでも強く輝く瞳で前を向いていた。


こうして――

小さな小悪魔の、大きな恋の悩みは、静かに前へ進み始めた。

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