44話 浜辺の夕焼け──それぞれの強さ
まわりの氷化ドロドロを倒したころには、
海の色がすっかり変わっていた。
昼の鋭い青は消え、
代わりに波間へ広がるのは
“金色の残照”。
冬の海とは思えないほど、
あたたかい色だった。
潮風は冷たいのに、
頬に触れる光だけは優しい。
レイリンは胸元で手を組んで、その景色を見つめていた。
「……きれい……。
冬の海でこんなにきれいな夕焼け、初めて見たよ」
風に揺れた髪が、光をすくうように煌めく。
ラントは、潮に濡れた足で砂を踏みしめながら笑った。
「冬の海は厳しいけどさ。
時々こうやって、ご褒美くれるんだぜ?」
ラントのしっぽも、夕日を反射して金色に見えた。
海風を吸い込み、
胸の奥でさっきの戦闘のアドレナリン をもう一度噛み締めた。
(……これが、本物のメニャータの“海”なんだな)
匂いも、温度も、光の揺れ方も、
ここにも世界が存在すると実感する。
レイリンが俺のほうを振り返る。
「ロン。今日……ありがとうね。
海、ちょっと怖かったけど……
ロンとラントがいてくれたから、がんばれた」
「いや……俺のほうこそ助かったよ。
あそこでレイリンの回復がなかったら、正直危なかった」
「えへへ……」
レイリンが照れたように頬を指で触れる。
その横でラントがニカッと笑った。
「へっ。あんたら、なかなかいいコンビだな!」
レイリンは耳まで赤くなる。
「そ、そんな……!
わ、わたしはただ……!」
「いや、認めちまいなよ」
ラントが片眉を上げて言う。
「レイリン、お前の回復スキル、
アタイの村でも評判なんだぜ?
“あの子が一緒なら安心だ”ってな」
「えっ……そんな……」
レイリンは戸惑うようにまばたきをした。
(……確かに。
レイリンのスキルって、ゲームでも重宝したけど)
この世界では、より“命を支える力”として実感できる。
そのとき──
ラントが砂浜へ腰を下ろし、夕日を背にして言った。
「アタイさ、拳法の師匠に言われたことがあるんだ」
しっぽが海風を吸い込んだ。
「“拳の強さは守りたいものの数で決まる”ってな」
レイリンは静かに目を見張った。
「守りたいもの……」
「そう。
アタイはこの海も、村も、仲間も大好きなんだ。
だから、拳を強くする理由には困らない」
ラントは軽く拳を握った。
「でもさ──
今日見て思った。
あんたらも……たぶん同じだよ」
「え?」
レイリンが目を瞬かせる。
「ロン、お前。
レイリンが危ない時、迷いなく前に出たろ?
ああいうのは、拳士でもなかなかできるもんじゃない」
「……いや、それは……」
自然と、胸が熱くなる。
(守りたい……か。
この世界で……レイリンを……?)
その考えに触れそうになった瞬間、
レイリンがゆっくり微笑んだ。
「ロン。
わたしも……ロンがいてくれたら、すごく安心するよ」
柔らかい声だった。
“仲間として信頼”を寄せる声。
ラントがふっと立ち上がり、伸びをした。
「よし! 素材も集まったし、そろそろ戻るか!」
海藻の束、潮風カルキノスの貝、
そして白身魚──
今日の戦利品がきらりと光る。
「レイリン、ロン」
ラントが振り返る。
「また困ったら呼べよ。
アタイ、けっこう暇だからよ!」
しっぽがぴんっと立つ。
「うんっ!
ラント、本当にありがとう!」
「へへっ、礼はいらないって!」
ラントは軽く手を振って、
夕日の中へ歩き出した。
海風に乗って、ラントの声が小さく届いた。
「次はアタイが食べに行くからなー!
まってろよ、“麺屋ドラゴンラーメン”!」
その背中が見えなくなるまで、
レイリンと並んで見送った。
夕日の名残が、海岸を金色に染める。
「……行こっか、ロン」
「ああ。食材も手に入ったし、
きっといいスープになる」
冬の海を背に、ふたりは歩きだす。
波の音が静かに遠ざかっていく。
そして気づいた。
(少しずつ……本当に少しずつだけど。
この世界で、“仲間”が増えていくんだな)
夕日が海の向こうに沈むころ、
冬の冒険はひっそりと終わりを告げた。




