41話 定期素材採取──冬の海へ向かう準備
新年のにぎやかさが落ち着き始めた頃、
麺屋ドラゴンラーメンは、もうすっかり“街の日常の味”になっていた。
毎朝の湯気。
レイリンの笑顔。
椅子が静かに擦れる音。
スープが煮立つ香りに惹かれて、
今日も何人もの客が暖簾をくぐる。
忙しい。
だけど──悪くない。
むしろ、この世界で“生きてる”と実感できる瞬間だった。
……が。
(海の素材、完全に底ついたな)
厨房の棚を開け、瓶や袋を一つ一つ手に取っていく。
乾燥海藻は残りわずか。
塩漬け貝も、もう明日の分しかない。
白身魚の干物も在庫切れ。
冬の海素材は、ラーメンの“冬の香り”の要だ。
ないとなると、組めるレシピが一気に減る。
「ロン、どうしたの?」
レイリンがすっと近づいてきて、
棚を覗き込んだ。
「……あ、やっぱり無くなってるね。海の素材」
「うん。冬の海は荒れるし、街の人もあまり採りに行けないんだって」
レイリンの声は少し沈んでいた。
「この時期は、海に近づくのが危険で……
ロン、ひとりじゃあぶないよ。」
その言葉に、俺はゆっくり首を振った。
「じゃあ、行くしかないだろ。ふたりで」
「ふたりで……?」
「ああ。海素材は、店の味の柱だ。
冬のうちに集めておかないと、春の仕込みにも響くからな」
レイリンは唇に指を当てて、
少し考えるように視線を落とす。
「……うん。分かった。
ロンが一緒なら、ぜったい大丈夫だよね」
その言葉に、胸の奥があたたかくなった。
冬の海は確かに危険だ。
海辺の村には、
とんでもなく速い拳法家がいるという噂を聞いた。
獣人拳法?
本物はどんな動きなんだろう
ゲーム内では速さバフの王者
“獣人拳法‐型‐”を使われると、
水属性パーティが恐ろしい速さで回り始める、悪夢のような強さ。
RBAでは、
“ 獣人拳法‐型‐5人編成”なんて狂気のパーティも存在した。
そんな伝説の拳士が、
海辺の村で生きている。
そう思うと、胸が少し鼓動を速めた。
「よし。準備しよう」
「うん!」
レイリンはぱっと笑顔を咲かせ、
エプロンを外して外套に着替え始める。
店の奥の棚から、
海風に強い厚手のコートを取り出し、
調理包丁と保存袋、火打ち石を詰めた小袋を肩に掛けた。
ドアの隙間から吹き込む冬の風が、
俺たちの頬を軽く撫でていく。
「ロン。なんだかワクワクしてきたよ」
「俺もだ。海の素材が手に入れば、
また新しい味が作れる」
レイリンは両手を胸の前で結び、
小さく息を吸い込む。
「じゃあ行こっか。
……港町の方へ」
「ああ。海辺の村へ」
ふたりで店の扉を開けて外に出る。
冬の空は澄んだ青。
雪の匂いと潮風の気配が混ざり合う朝。
冬の海。
未知の食材。
そして──あの“速すぎる拳法家”との邂逅。
まだ誰も知らない一日が、
これから静かに始まろうとしていた。




