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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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32話 初市の賑わい──街の正月風景と人の流れ

 新年の朝は、どこか空気の密度が違う。

 雪はより白く見え、ランタンの灯りはやわらかく揺れ、

 遠くからは商店街のざわめきと笑い声が、静かに流れてくる。


「……すごいな。新年って、こんなに人が出るんだな」


 俺がつぶやくと、レイリンは中華風の晴れ着の袖をひらりと揺らして笑った。

 新品の赤い布地には細かい刺繍が走っていて、光を浴びるたびにふわっと輝く。


「うんっ! 元旦は“初市”があるからね。

 みんな早起きして、縁起物を買いに行くの」


 その声にはいつもの明るさに加え、

 “この街を知っている人間だけが持つ誇らしさ”があった。


「ロン、初市に行こうよ!」


 俺は思わず、彼女の横顔を見つめた。


 少し歩くだけで、

 新年の熱気が肌にまとわりつく。


 街の入り口には

 すでにいくつもの屋台が並んでいた。


・熱い蜜を絡めたリンゴ串

・焼き小籠包

・薬草茶

・“年越しラーメン”の使い捨てボウルを片付ける人たち

・子どもたちが振る簡易花火

・風よけの布をかけた小さな手作り社


 雪の白の上にランタンの赤が映えて、

 冷たい冬の空気のなか、オレンジの光がゆっくり揺れている。

 人々の声もはしゃぎ、笑い声が雪に跳ね返って心地よく響いた。


「今日は人が多いね……!」

 レイリンの声も、どこか弾んでいた。


(ゲームでは……こんな正月文化、なかったよな)


 俺は心の中で呟く。


 音、光、匂い……

 画面越しの“世界”じゃない。


 なのに、目の前のメニャータは――

 息をして、生活して、正月を迎えている。


「ロン? どうかした?」

「ああ……ちょっと、驚いただけだよ」


 レイリンは嬉しそうに笑い、胸を張った。


「ふふっ、お正月も、“ラーメン”を食べると今年一年が元気でいられるからね。

 だからみんな、今日はすごく楽しみにしてるんだよ」


 街角では、買い物袋を抱えた住民たちが話していた。


「今年こそ“あの新しい店”で食べてみたいわね」

「昨日行列できてたって噂だぞ」

「レイリンちゃんのところだろ? 絶対うまいに決まってる!」


(……浸透してるな)


 胸が、少しだけ熱くなる。


 そんなとき、突然後ろから弾むような声がした。


「レイリーーン! ローン! あけましておめでとうーーっ!」


 雪の上をバシャバシャとはねる足音。

 振り向くと、マリーネが両手を大きく振りながら走ってくる。


 セーラーハットの赤いリボンが揺れ、

 淡い茶髪のツインテールが雪光を反射してキラキラしていた。


「おはよう、マリーネ!」

「よっ、ロンも! 二人とも、いい正月迎えてるねぇ!」


 彼女は街の賑わいを見まわしながら、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。


「やっぱり正月の街っていいよね~!

 港町も賑わうけど、この街は“雪の匂い”が混ざってて最高!」


「港町の正月って、どんななんだ?」


 そう聞くと、マリーネは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。


「正月といえば――“初海はつうみ”よ!」


「初海?」

 レイリンも首をかしげる。


「そうっ! 正月の朝、

 “その年最初に海がくれた幸”を食べるのが港町の伝統なの!」


 マリーネの瞳がきらりと光る。


「冬の海は荒れるんだけど……

 それでも船で沖に出て、海の神様に祈って、

 最初に手に入った魚や貝をみんなで分け合うんだよ」


「すごい文化だな……」


「そうなの! でもね――

 “初海の幸を食べられた年は、絶対に強く生きられる”って言われてるの!」


 レイリンが感嘆の息を漏らす。


「なんか……素敵だね、それ」


「でしょでしょ!」

 マリーネは手を腰に当てて胸を張った。


「だからさ!

 “新年最初のロンのラーメン”も、

 わたしにとっては“初海”みたいなもんなんだ!」


「そ、そうなのか……?」


「うんっ! だって、昨日食べたあの一杯……

 ちょっとだけ海の朝みたいにスッとして、温かかったんだよ」


 なんだか照れくさい。


「……ありがとう」


「なーに! 今日も食べに行くからね!」

 マリーネは笑ってスキップする。


 通りの光と雪が、その笑顔を照らしていた。


 大通りのざわめきはどんどん大きくなり、

 道の両側には屋台がさらに追加され、

 料理の湯気が空に溶けていく。


「ロン。今日……きっと忙しくなるよ」

「ああ。覚悟しておくよ」


 レイリンは嬉しそうに息を弾ませた。


 正月の街は、

 “麺屋ドラゴンラーメン”を迎えに来るように、

 あたたかな熱気で満ちていた。


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