29話 冬の森へ──ふたりの素材探し(小冒険)
冬の豊穣の森は、昼でも薄暗い。
枝に積もった雪が時折ぱさりと落ち、
白い霧のように舞い上がる。
足首まで埋まる雪を踏みしめるたび、
きゅっ、きゅっ――
冷たい音が森の静寂に溶けていく。
「……しんとしてるね、ロン」
「冬は魔物も動きが鈍るって話だけど、逆に警戒しにくいな」
レイリンは手袋の上から自分の指をぎゅっと握り、
頬を赤らめながらうなずく。
「大晦日の準備で、みんな忙しいもんね……。
素材、絶対集めて帰らなきゃ」
「任せろ。必要なルートは分かってるから」
ゲームで何度も通った“安全ルート”。
でも、今は本当に命がかかっている。
冷たい風が吹き抜けた、その瞬間だった。
――もそっ。
足元の雪が、ほんの少し盛り上がった。
「えっ」
レイリンがぴょん、と小さく跳ねた。
次の瞬間、雪の下から丸いものがぬっと顔を出す。
白い葉をかぶった、半分凍ったようなマンドラゴラ。
“雪マンドラ”だ。
「ひぃっ……! また出たっ!」
(出た、レイリンの苦手モンスター……)
雪マンドラがプルプル震えながら声にならない鳴き声を上げる。
凍った葉が触れ合うたび、チリン、と氷のような音がした。
「大丈夫、これはほっとけば逃げてく――」
言いかけた瞬間、森がぐわっと揺れた。
雪煙が巻き上がり、
鋭い風が頬を切る。
「……来るッ!」
白い影が吹雪の中から突っ込んできた。
長い首、氷の羽根、青く光る瞳。
――冷気コカトリス。
冬限定の、いやらしい奇襲型の魔物。
「レイリン、下がれ!」
咄嗟に身体が勝手に前へ動いた。
次の瞬間――胸の奥で“スイッチ”が入るような感覚が走る。
「……俺に任せろ!…」
身体が軽くなる。
力が指先へ流れる。
冷気の突進に照準が合う。
「はああっ!」
水属性の斬撃が、冬の空気を裂いた。
コカトリスの動きが止まり、雪の上に倒れ込む。
……だが、首だけがまだ動く。
青白い息が、レイリンめがけて伸びた。
「ロンっ――!」
レイリンの足が雪に取られた。
その瞬間、彼女の掌から淡い光が溢れた。
「元気の源!」
優しい回復の波動が俺の身体へ流れ込み、
冷気で鈍った動きが一瞬で復活する。
「レイリン……!」
「大丈夫! わたし、隣にいるから!」
短いやり取り。
でも、それだけで息が合った。
俺は雪を蹴って一歩踏み込み、
残ったコカトリスの頭部へ一撃を叩き込む。
――ぱきん、と氷が割れる音。
魔物は静かに雪の上へ沈んだ。
「……終わったな」
俺は肩の雪を払った。
レイリンは胸に手を当てて深呼吸していたが、
ふっと笑って俺の方に視線を向ける。
「ねぇ……ロン」
「ん?」
「さっき、すぐ助けてくれたでしょ。
……なんかね、安心したの」
雪の森の真ん中で、白い息がふわっと交差する。
「いや、俺こそ助けられたよ。レイリンの回復がなかったら危なかった」
「ふふっ。じゃあ、おあいこだね」
雪の中で自然に交わされる笑顔。
そこには恋とかそういう甘さじゃなくて――
“肩を並べる相棒”の距離感があった。
「ほら、素材。急いで集めよ?」
「ああ。街に帰って……スープ作らないとな」
雪の匂い、森の冷気、
そして、レイリンの足音。
ふたつの影が森の奥へ進む。
冬の小冒険は、まだ少しだけ続いた。




