27話 年越しの気配──街が慌ただしくなる
開店から一週間が過ぎ、街はすっかり年の瀬の空気に包まれていた。
昼の仕込みを終え、レイリンと買い出しに出た帰り道。
商店通りを歩くだけで――
いつもとは全く違う“冬のざわめき”が全身に降り注いでくる。
ランタンの灯りが雪に反射して、
道がほのかに金色へ染まっている。
白い湯気が屋台から立ちのぼり、
子どもたちが走り、
大人たちの笑い声がかすかに溶ける。
メニャータの街が、まるで呼吸しているようだった。
「ねぇロン、 大晦日は……“年越しラーメン”食べるよね」
レイリンが胸を張って言う。
「ラーメン……なのか?」
「うんっ。今年一年を温かく締めくくって、
来年もおいしいものに恵まれるようにって。
昔からの風習なんだよ?」
(年越しそばじゃないのか?)
思わず心の中で呟きながら、
でもそれを言うと不自然だから、
俺はただ素直に驚いた顔を見せた。
「いい文化だな。冬に合う」
「でしょーっ?」
レイリンの笑顔がランタンの光に照らされ、
雪の中でも暖かく見えた。
通りを進むと、背後から元気な声がした。
「レイリーーン! ローン! こっちこっち!」
白いセーラーハットを揺らしながら、
ペスカーナ・マリーネが走ってくる。
「市場、見てきたよ!
この時期は海も荒れるし……
冬の魚介はちょっと高くなってるみたい」
「そうなんだ?」俺
「うん。でもそのぶん味は濃くなるの!
冬のカルキノスなんて最高よ!」
マリーは、海のことになると本当に生き生きする。
「ねぇロン。聞こえる?」
レイリンが耳を澄ましながら囁いた。
人混みの中から――
確かにそんな声が届いてくる。
「……今年は“年越しラーメン”食べてみようか」
「ドラゴンラーメン、けっこう美味しいらしいよ」
「豊穣の森で食材を取ってくるってウワサも聞いた」
俺は息を呑む。
(……少しずつだけど、広がってるんだな)
暖簾を上げたときは、
誰ひとり店に来ない時間があったのに。
今は、街にちゃんと“麺屋ドラゴンラーメン”の名前が流れている。
雪の商店通りを抜ける頃、
レイリンが手袋越しに俺の袖をそっとつまんだ。
「ロン……なんだかね、嬉しいね」
「……ああ。こんなに賑やかになるんだな、年の瀬って」
冬の風が、温かい食べ物の匂いと人々の声を運ぶ。
メニャータの街は、大晦日を迎える準備の真っ最中だった。
――そのときまで、
俺たちはまだ知らなかった。
この賑やかさの裏で、
冬素材の品薄という“最初の壁”が
店にじわじわ迫っていることを。




