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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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26話 開店から一週間──少しずつ広がる評判

 開店から七日。

 街の雪は、ほんの少しだけ溶け始めていた。


 麺屋ドラゴンラーメンの暖簾は、聖夜の日からずっと揺れている。

 最初の朝こそ、店内には静けさしかなかった。

 だが今は──違う。


 


 トン……

 どんぶりを置く俺の手元に、わずかに弾む手応えが返ってくる。


「いただきます!」


 今日の最初の客は、近所の鉱夫の男だった。

 寒さで赤くなった指先をこすりながら、湯気に顔を近づける。


「……あぁ、うめぇ……あったまる……」


 そのひと言を聞くたび、胸の奥が少しだけ軽くなる。


 俺は今──

 この世界で、確かに“調理している”。


 


 客はまだ多くはない。

 一日で数人。

 昼になるとぽつり、ぽつりと常連になりそうな顔が見える。


 それでも、七日前の“無人の朝”を思えば、

 この変化は十分すぎるほどだった。


 


 店の外では、商店街の住民たちが話している。


「最近できたラーメン屋、若い子らがやってるんだってな」

「クリスマスの日に開いた店だろ? あの勇気は大したもんだ」

「スープが体の芯にしみるって、鉱山帰りの奴が言ってたぜ」


 そんな噂が、雪と一緒に静かに街へ広がっていく。


 


「はい、お待たせしました!」


 レイリンの声は、今日も変わらず明るかった。

 彼女の接客は、まるで雪の日に差し込む朝陽のようだ。

 常連候補たちも皆、彼女の笑顔を見れば自然とほぐれる。


 俺が厨房で黙々と麺を茹でているあいだ、

 レイリンは店内を軽やかに動き回っていた。


 ──その姿を、昔ゲームの画面で見ていたのが信じられないほどに。


 


 七日間のあいだに、ふたりの役割は自然と固まっていった。


 レイリンは

 ・接客

 ・配膳

 ・店内の空気づくり

 そして、ときに厨房のフォローまでしてくれる。


 俺は

 ・仕込み

 ・スープ

 ・麺上げ

 ・火の管理

 料理のすべてを担う。


 不思議なくらい、動きはかみ合っていた。


 


(……こんなふうに店を回す日が来るなんてな)


 麺を湯切りしながら、思わず心の中で呟く。


 ゲームの中で、たくさんのラーメンを作ってきた。

 でもそれはあくまで画面の向こうの話。

 こうして“人のために湯気を届ける”のは初めてだ。


 俺の作る一杯が、この街の人々の一日を少し温める。


 その実感が、ゆっくりと、しかし確かに胸に積もり始めていた。


 


「ロンっ、今のお客さん、明日も来るって!」

レイリンが嬉しそうに報告してくる。


「そうか。……よかった」


「うんっ! ふたりで頑張ってきたもんね!」


 レイリンの笑顔は、本当に冬を忘れさせる。


 彼女がいるだけで、店が明るくなる。

 それが“接客担当としての強さ”だと、俺はゲームの頃から知っていた。


 だけど、今のレイリンは画面の中とは違う。

 動いて、喋って、息づいて、

 生きた温度で俺を励ましてくれる。


 それが嬉しくて、少し照れくさい。


 


 昼過ぎ。

 雪がまた強くなる頃。


「おじゃましまーすっ!」


 勢いよく扉が開き、元気な声が響いた。


 白い息を弾ませ、

 雪の上を駆けてきたのだろう、足元まで濡れている。


 その少女を見て、レイリンがぱっと顔を明るくした。


「マリー!」


「レイリーンっ! 聞いたよ聞いたよ、

 新しいラーメン屋さん開いたって!」


 港町出身の少女、ペスカーナ・マリーネ。


 快活で、波しぶきのように明るい笑顔。

 セーラー調の服からのぞくスカーフは、まるで海風のように揺れる。


 腰にはクジラ型の包丁が下がっていた。


(……来たか)


 俺は内心で頷いた。


 ゲームでは、冒険でも店でも頼れる存在。


 こうして“実在”として見ると──思っていた以上に眩しい。


「レイリンの店、見てみたくてさ!

 ねぇねぇ、わたしも手伝っていい?」


「もちろん! 助かるよ、マリー!」


「やったーっ!」


 少女は全身で喜びを表し、ぴょんと跳ねる。


 その仕草は、まるで波間に浮かぶ小舟のように軽かった。


 


「ロンさんっ!」


 いきなり呼ばれて、俺は軽く驚く。


「え、あ……ああ」


「よろしくお願いします!

 わたし、港町でずっと手伝いしてて、料理も得意なんです!」


(知ってる……とは言えないよな)


 口元だけで苦笑しながら、軽く頷いた。


「よろしく頼む。……助かる」


「はいっ!」


 マリーは大きく敬礼し、ぱっと笑って厨房に入ってきた。


 店の空気が一段と明るくなる。


 


 七日目のラーメン屋に、

 またひとつ、新しい風が吹いた。


 評判は少しずつ、確かに広がっている。


 料理の湯気が、街の寒さを溶かしていく。


 この世界で、俺たちは──

 ゆっくりと“日常”を積み重ね始めていた。

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