18話 店へ戻る二人──雪と灯りの帰り道
豊穣の森の出口が近づくにつれて、
森を包んでいた闇は少しずつ薄れ、
雪の白さが夜の色を押し返していった。
さっきまで燃え盛る炎の中で戦っていたとは思えないほど、
森は静まり返っている。
風の音も、木々のざわめきも、ただ眠っているようだった。
レイリンが俺の隣を歩くたびに、
雪の上で小さく きゅっ と音が生まれる。
その音が、妙に心地よかった。
肩に積もった雪を払うと、レイリンが笑う。
「ふふっ、ロン。雪まみれだよ」
「そっちもな。ほら、髪にも結構ついてるぞ」
指先で軽く払うと、
レイリンはくすぐったそうに目を細めた。
「ありがとう。……ねぇ、ロン」
「ん?」
「今日が……こんな夜になるなんて思わなかったね」
「俺もだよ。でも──悪くない夜だ」
レイリンは少し驚いて、
それから胸の前で小さく手を握りしめる。
「うん……。そう思えるの、なんだか嬉しい」
雪混じりの夜気が、ふたりの間をゆるやかに流れていった。
やがて、森を抜けた先に広がる街の灯りが見えてきた。
青白い月光に反射した雪の大地の向こう、
ランタンのオレンジ色がふわりと揺れている。
その灯りを見た瞬間、
胸の奥がじんわりと熱を帯びた。
──帰る場所がある。
その感覚が、妙に現実味をもって迫ってきた。
「……レイリン」
「なぁに?」
「街が、こんなに安心できる場所だったって……今日、初めて思った」
レイリンは、ほわっと頬を緩めた。
「うん。私も、そう思ったよ」
ふたりで歩くたびに、
白い雪の上に“ふたつ”の足跡が並んで刻まれていく。
少し前まで、ここで俺は倒れていた。
死体として。
レイリンが泣きながら抱きしめてくれたあの地点は、
もう遠くの暗闇の中だ。
今は──生きている。
そして、レイリンと並んで歩いている。
その事実だけで胸が温かくなる。
「見て、ロン。ほら」
レイリンが小さく指を伸ばす。
街の入り口に向かう坂の先、
ひときわ大きな建物が雪明かりに浮かんでいた。
木造の屋根。
入口の大きな引き戸。
看板を照らす小さなランタン。
そして──
《麺屋ドラゴンラーメン》
その名前が、雪を反射して柔らかく光っている。
「……戻ってきたんだな、俺たちの店に」
「うんっ。まだ……オープン前だけど」
レイリンは照れくさそうに笑う。
「でもね、ロン。
私、この店すごく好きだよ。
二人で始めようって、ずっと話してて……」
胸の奥が大きく脈打つ。
この世界に来る前、
ゲームとして見ていた“麺屋ドラゴンラーメン”は、
ただの画面の中の存在だった。
けれど今は違う。
この建物は、
レイリンが未来を信じて立っている場所であり──
俺がこれから生きていく場所でもある。
「行こう、レイリン」
「うんっ!」
ふたりで店の前に立つ。
雪の白さとランタンの灯りが混ざって、
小さな幻想のような空間を作り出していた。
夜が明けたら、聖夜は終わり──
クリスマスの朝へと移る。
でも、今日という“聖なる夜”は、
ふたりの物語が始まった夜として
確かに刻まれた。
扉を開けると、
小さな店内は静かで、まだ呼吸していないように見えた。
だけど俺は知っている。
ここは、これから何度も火を灯し、
湯気を立ち上らせ、
客の心を満たす──
ふたりの夢の場所だ。
「ただいま、レイリン。帰ってきたな」
「うん。おかえり、ロン」
その言葉に、胸の奥の熱がゆっくり溶けていった。




