仲直りは出来るのかな?
両家立ち会いのもと、コリーナとエリックを本音で話し合わせる。
両家に本音を聞かれる恥ずかしさのなか。覚悟を決めて、エリックが先に口を開いた。
「コリーナ嬢と初めて会った日、とても可愛らしく聡明な女性だと思いました。
交流するうちに、私はコリーナ嬢をどんどん好きになって行きました。でも、反対にコリーナ嬢は私との交流よりも、父と領地の見回りを優先させて行きました。」
コリーナの目を見て、エリックが気持ちを伝える。
「こんなに好きなのに、交流を持ってくれなくなった。たまにお茶会をしても、領地の話ばかりで少しうんざりしていました。」
「私は領地の事を知らなかったから、そんな気持ちになったのですが⋯⋯。」
気落ちしながらも、話しを続けた。
「領地の事もコリーナ嬢との婚約の理由も知らされていなかった。
とは言え、蔑ろにして良い事ではなかった。」
「コリーナ嬢とアーネスト殿下との仲を見て、私は初めて自分がして来た事の愚かさを痛感しました。」
「コリーナ嬢が嫉妬してくれていると、私が勘違いをし。嫉妬してもらいたくて令嬢達を利用していたのです。全て自業自得ですね。」
今度は完全に落ち込んでしまった。
親である侯爵がコリーナに説明をする。
「息子に領地の心配をさせたくなかったのもあるが、コリーナ嬢を恩人としでなくちゃんと想い合える相手として見て欲しかったのだ。恩だけで婚約をしても、長く続かないと思ったのだよ。」
「申し訳なかった。」
侯爵が謝罪してくれた⋯⋯。
コリーナは自身の間違いにようやく気が付いた。
「私は誰かの為に自分の知識や能力を使う事に抵抗がありませんでした。婚約も誰かの為の役目なら、それもそうだと受け入れました。」
「私は侯爵に初めてお会いした時に好感を持ちました。家門の恥を晒す事に全く躊躇が無く、領地を守る為に頭を下げられた。侯爵家ならばと、お受けしました。」
「ご子息は初対面の時は何も思う事は正直に言ってありませんでしたわ。ですが、交流を重ねるうちに心が傾いたのも事実です。」
その言葉に、エリックがバッと顔を上げた。
(心が傾いたと?好意を持ってくれていたのか?)
エリックは驚いて、信じられない顔をしていた。
その顔を見たコリーナが苦笑いする。
「前提として、婚約した理由が理由でしたからてっきりご子息様は事情を全て知っていると思っていました。これは、私の勝手な思い込みです。それを前提として話します。」
「私は確かに好意を寄せました。そして婚約者としてお互い大丈夫だろうと思い、侯爵に同行して領地の浄化に向かいました。
段々と態度が変わるご子息様に、私もうんざりしていきました。」
「領地運営が出来、毎日が楽しかったのでご子息様の事は放おって置く事にしました。」
「そして、隣国に留学しました。そこでご子息様が女性遊びに花を咲かせ、贈り物をしていると聞かされました。」
両親や侯爵夫妻は、((ようやく、嫉妬を!))期待に次の言葉を待った。
「自分で稼いでいないのに、無駄遣いした事に腹が立ちましたわ!侯爵家のお金は領民達が汗水垂らして納めたお金です。それを無駄遣いする。許せなかった。」
一同ガクッとなるが、コリーナの言葉に身を引き締めた。
「そうですね。領民達のお金を無駄遣いしてしまいました⋯⋯。」
エリックはコリーナの言葉に、打ちのめされた。
コリーナが口籠り、次の話しの言葉を探しているようだ。
アーネストはコリーナが言い淀む理由に見当がついていた。
「コリーナ嬢は、エリック殿の自身への好意に気が付いていた。留学から帰って来ても女性を侍らせてはいるが、まだ好意を持っている事を確信していた。違う?」
コリーナはアーネスト殿下の説明に、罰が悪そうに頷いた。
「コリーナ嬢はエリック殿から今迄された仕打ちを、そのままやり返したんだよね?」
コリーナが頷いた。
アーネスト殿下はため息を吐き、
「一緒にいるのが隣国の王子。王子の婚約者候補かと思っていたら、エリック殿が婚約者。周りのご令嬢の嫉妬の的になってしまいましたね。エリック殿の取り巻きの虐めは、強烈ですしね。」
エリックは知らなかったのか、コリーナに視線を向けた。
「別に気にしていないわ。隣国の貴族令嬢の方が強烈さでは勝ってたし、経験済みだから平気かな?」
全員が、え?!である。
「コリーナ!隣国でも酷い目にあっていたのか?!」
父の問いかけに、
「最後はお仕置きしたわよ?隣国の陛下は私を気に入ってくれてるから、令嬢達は罰を受けたし、私が令嬢達の自慢の髪を切ったしね!」
得意気に話すが、そうではないのだ⋯⋯。
肝の座ったコリーナに、一同唖然である。
「お互いが勘違いをし、お互いが拗ねらせた結果だけど結局のところ婚約はどうするのだ?」
アーネスト殿下の疑問に、
「私は知らなかったとは言え、コリーナ嬢に酷い事をしたのは認めます。ですが、コリーナ嬢を想っています。婚約は継続したい。そして、始めからやり直したいです。」
エリックが自身の気持ちを打ち明けた。
「私も自身の思い込みから招いた結果だと、反省しています。ですが⋯⋯。」
一同コリーナの次の言葉を待っている。
「ご子息様の取り巻きの令嬢達の妊娠の有無が判明してから、やり直ししたいかな?」
「はぁー?!」
エリックが絶叫した。
「なぜそんな話になるのですかっ!!」
エリックがコリーナを問い詰める。
「だって、ご令嬢達はご子息様とのその⋯⋯体の関係を丁寧に私に説明されますから⋯⋯。」
全員が冷たい視線をエリックに向ける。
「私はまだ清い身体だ!!」
そう言い放った自身の言葉に、エリックは青褪める。
女性経験が無い事を皆の前で暴露したのだから。
エリックは頭を抱えてしまった。
だが、顔を上げてコリーナを見た。
「私は誰にも触れていなければ、触れさせてもいない。教室で抱きつかれたのが始めてだ。
夜会でもエスコートもしないし、ダンスもしない。指先すら触れていない。」
エリックの言葉は真実だろうと、コリーナは受け入れた。
「解りました。私にも非はあります。婚約者として始めからやり直しましょう。」
お互いが納得したようだ。
「ちなみにエリック殿は、コリーナ嬢が転生者であり服飾店のココのオーナだと聞いているか?ちなみに私も転生者だ。その繋がりで仲が良いのだ。」
エリックはどの話も初耳だった。
「コリーナ嬢。貴女の全ての秘密をきちんとエリック殿に話すべきです。やり直したいなら、そこからです。」
アーネスト殿下の話はもっともだ。
コリーナは自身の秘密を全て話した。
陛下に頼まれれば、自分の出来る範囲で国に協力している事。
治癒魔法を使い討伐に同行している事。
王太子妃のウエディングドレスはコリーナが作り、服飾店ココのオーナをしている事。
エリックはコリーナの凄さに驚くが、コリーナのやりたい事を支えたいと受け入れてくれた。
両家の会議があった次の日から、二人の関係がぎこちないが変わっていった。
エリックは女性達に婚約者とやり直す話をして離れた。
彼女達がコリーナを虐めていた事は口にはしなかった。エリックが令嬢を利用していた負い目があったからだ。
取り巻きの令嬢も半数は、エリックの婚約者を大事にしようと頑張る姿に諦めていった。
だが、エリックを狙っていた高位の令嬢達は自身の婚約に後が無い事を自覚していた。
最終学年で婚約者が決まっていないとなれば、婚約者のいない高位子息達はいない。学園に入る前か一学年のうちに婚約を整えるからだ。
エリックを狙い、高位子息との婚約を断り続けた結果だった。
高位貴族令嬢。
エリザベス・ライオット公爵令嬢
アリアナ・コーエン侯爵令嬢
この二人だけが、エリックに執着してしまった。
学園でも自身の取り巻きを使い、コリーナへの嫌がらせをするが上手くいかない。
常にエリックとアーネスト殿下が側にいる。
コリーナが学園で一人になる時がなかったのだ。
エリックとコリーナは、少しずつではあるが距離が近くなってきた。
だが拗ねらせた二人は、婚約者として初めての事ばかりで初々しいのだ。
エスコートすら二人は恥ずかしそうにする。
コリーナはエリックを名前で呼ぶようになるが、呼び慣れないせいか恥ずかしそうにするのだ。
婚約したてのような甘酸っぱい関係を、周りは温かく見守っていく。
学園ではそんな二人を応援する会が出来る程だった。
常に二人の側にいるアーネストは、二人が羨ましくなり王子妃教育も終わったキャシーを飛び級制度を使い学園に通わせた。
キャシーがコリーナの侍女である事を知る者もいた。コリーナ嬢を守るためだろうと、クラスの皆は特に快く受け入れてくれた。
アーネストはキャシーを学友として扱うのに少しの不満はあったが、アーネストの婚約者として通わせる訳にはいかず我慢した。
コリーナとエリック。アーネストとキャシー。四人で通う学園生活は楽しかった。
エリックは学年が違うので、たまに会話に入れず拗ねてしまう。
エリックを狙っていた高位令嬢達の嫌がらせもなかったので、油断していたのだ。
上手く行かない令嬢達の鬱憤が、キャシーに向けられた事に。
関係ないキャシーがエリックの近くにいる事も許せなかったのだ⋯⋯。
ある日、コリーナが伯爵家でキャシーを呼び止めようと肩を軽く触れた。
キャシーが「⋯っ」と、うめき声を小さくあげた。
不審に思ったコリーナが腕を掴むと、キャシーの顔が歪んだのを見逃さなかった。
コリーナは自身の部屋に引き入れ、無理矢理に制服を脱がせた。
この様な事をやって良い訳ではないが、不安に駆らたコリーナが脱がせてしまった。
キャシーは体を隠すが、所々見える肌には青痣が付けられていた。
「誰がやったの?」
怒りのあまり冷たい魔力をのせ、キャシーに問う。
キャシーは相手を話せば大事になるのが解っているので、口を噤んだ。
「エリック様の取り巻きね。」
キャシーの肩が跳ねたのを視界に入れ、コリーナは大きく息を吐いた。
「キャシーが黙っていた理由は見当がつくわ。でもね、貴女の身体は今はもうただの貴族令嬢ではないのを理解している?」
キャシーはコリーナの言葉の意味が解らずじっと見つめた。
「アーネスト殿下の婚約者なのよ?公表されていなくても、正式に婚約は認められているわ。貴女の身体は隣国の準王族なのよ。」
「そんな貴女の身体に傷を負わせた。キャシーはそれを伯爵家に伝える事が出来なかった。我が家の失態だわ。」
キャシーはハッとなる。
伯爵家のせいではないのだ。自分が大事になるのを避けた為に黙っていただけだった。
コリーナは部屋を出ると、隣国から教育の為に来た女性教師を伴い部屋に戻ってきた。
キャシーが話さなかった事が、また別の大事になるなど思ってもいなかったのだ。
呆然とするキャシーの身体を女性教師が確認すると、鋭い視線をコリーナに一瞬向け無言で退室した。
キャシーは恩人とも言えるコリーナに、恩を仇で返した事に気が付き静かに涙をながした。




