いつまで続くのかな?
エリックはエリックで、コリーナから留学の話も何も聞かされず腹を立てていた。
コリーナへの行き場のなくなった想いを、整理出来ずにいた⋯⋯。
どうせ結婚はするのだからと、色々と拗ねらせてしまった結果、気が楽な女性達との遊びを選んでしまった。
そんなエリックの事など頭にないコリーナは、第二王子と対面した。
同じ転生者で対面を楽しみにしていたが、会って早々にうんざりした。
転生者と言っても、王族として育ったからか態度がでかい。
自国の王太子殿下よりも、自身の容姿や身分に驕っていたのだ。
そんな王子にコリーナは、
「紙面を見て態々留学までして来たのに、同じ日本人とは思いたくない態度ね。転生者同士、転生したこの世界の為に何が出来るか話せると楽しみにしていたのに。」
「こんな馬鹿とは何も語り合えないわ。この世界でとんでもない美丈夫に産まれ、ナルシストになった貴方に用はないので帰ります!時間の無駄だったわ!」
散々な暴言を吐き捨て、さっさと隣国から帰ろうとした。
だが、王子殿下がコリーナに指摘された言葉に我に返り、コリーナを敬いだしたのだ。
王子殿下は高校一年生で亡くなったらしい。容姿をイジメの材料にされ⋯⋯。
産まれ変わったら美丈夫で喜んだ。最初は謙遜していたが沢山の女性に言い寄られ、王族だからと傅かれ。調子に乗ってしまった。
コリーナにガツンと言われ、我に返りコリーナに会いに来た。
コリーナはそのまま隣国に残り、王子殿下と同じ学園に通った。
一緒に過ごすなかで、王子殿下の秀でた才能をコリーナが見付けた。
それは、記憶が異常に良いのだ。見た事、聞いた事は絶対に忘れない。一言一句。
第二王子である為、将来は外交を担うらしい。コリーナは外交に有利な才能だと褒め称え、アーネストを立派な王族へと育てた。
陛下は出来の良く無かった息子が転生者であり、才能に目覚めた事を知る。
息子を育て上げてくれたたコリーナに深く感謝していた。
王族に気に入られ、アーネスト殿下とも仲良く過ごす。
コリーナは王子殿下を狙っていた令嬢の標的となり散々虐められた。
だが、コリーナは容姿に反してとても気が強い。
虐められても平然としていた。
その日も夜会で囲まれ、散々な暴言を吐かれていた。小さなコリーナは、ヒールを履き背が高い令嬢に囲まれると周りからは見えなくなる。
それを狙っていつも暴言を吐かれていたのだ。
うんざりしていたコリーナは、我慢の限界を迎えた。
「貴方達は貴族令嬢として恥さらしですね?自身の家門が爵位返上にあっても良いのなら、暴言を続けると良いわよ。」
「はい!どうぞ!」
爵位返上の言葉に、一瞬怯んだ令嬢達だが、たかが隣国の伯爵家と見下し攻撃を続ける判断をした。
「たかが伯爵家のくせに、調子に乗らない事ね。」
一人の令嬢がそう言うと、扇子でコリーナの頰を叩いた。
コリーナの頰からは血が伝っていた。
コリーナは頰に手を当て、血を拭った。
叩いた令嬢も、周りを囲んだ令嬢もコリーナの魔力の変化に気が付いた。
何事かと周りに野次馬が集まる。
一人の令嬢を沢山の令嬢が囲むその光景に、野次馬達は虐めていた事を察するが⋯⋯。
令嬢の頬からは血が流れている。その令嬢は魔力を放ち始めていた。
冷たい魔力に、周りは息を呑む。
「暴言は許可しましたが、暴力は許可していないわよっ!」
「両親から譲り受けた大切な体に、よくも傷を付けたわね!!」
コリーナの怒りが爆発した。
令嬢達は髪を凍らされ、全員が長く伸ばされた髪をコリーナの魔力で肩まで切られた。
呆然としている令嬢の目の前で、頬の傷を瞬時に治癒した。
「聖女⋯⋯。」
その小さな呟きに、会場が静まり返った。
隣国の聖女の噂はこの国にも流れていた。治癒が出来る者は稀有な存在なのだ⋯⋯。
コリーナは何も言わずに夜会を後にした。残された者達は遅れて夜会に現れた王族から咎を受ける事になった。
コリーナは夜会のあった日から、穏やかに学園生活を送っていた。
ある日、学食でアーネスト殿下とお昼を食べていると、ある事を教えてもらった。
「コリーナ嬢の婚約者の事なんだが⋯⋯。」
「我が国は隣国の転生者を留学生として迎えてるだろ?だから、隣国の状況も常に調べている。」
「父上にコリーナ嬢の婚約者が浮気三昧だと、下世話だけども話が届いた⋯⋯。」
アーネスト殿下の言いたい事をコリーナは察した。
「もしかして陛下に私と婚約してはどうかと言われた?」
アーネスト殿下は頷いた。
「そう⋯⋯。婚約者が浮気しようと、どうでも良いのよ。私は侯爵家を運営する事に意義を見出しているから、関係ないかなー。」
あっさりと話すコリーナに、
「コリーナ嬢は婚約者が浮気しても平気なのか?好意はないのかよ。」
「良い人かもしれないけど、留学前から女性と一緒にいたからそういう人種と思ってたかな?女好き?」
アーネスト殿下がため息を吐いた。
「婚約者にもう少し興味持ってやれよ。」
コリーナは一応だが、頷いた。
「婚約者は、複数の女性に贈り物をしたり夜会に連れ立ったり婚約者がいないも同然の態度らしいぞ。」
呆れながら、婚約者の情報を伝えた。
アーネスト殿下がふとコリーナを見ると、顔が怒っていた。
(コリーナ嬢も嫉妬はするのだな。)
そう思っていた。
だが、コリーナの口から出た言葉にガックリとなる。
「女性に贈り物ですって?侯爵家のお金を無駄遣いしたわね。自分で稼いでないくせに。許さないわ!」
話す内容がお母さんだ。
アーネスト殿下はまたため息を吐くと、コリーナを放置してお昼ご飯に手を伸ばした。
(もう少しで留学を終え、国に帰る。
エリック様。無駄遣いしたお仕置きは受けて貰います。)
コリーナは帰国が近付き荷造りをしていた。アーネスト殿下に呼ばれ、会いに行くとある事を告げられた。
「コリーナ嬢。帰国の際は私が留学生として、そちらに一緒に向かうことになる。」
ニッコリ笑顔で、そう告げられた。
「滞在先は我が家ですか?」
殿下は無言で頷いた。
「殿下の目的は留学ではないでしょ?キャシーと離れたくないからでしょう!」
アーネスト殿下は私の侍女に恋をし、お互いの家の了承を経て婚約したのだ。
男爵家は大騒ぎだったらしい。
コリーナが一つ年下のキャシーを大事にしている事は周知されていた。
キャシーの実家は男爵家だが裕福ではなかった為、学園に通わせず侍女としてコリーナの家に来たのだ。
素直で可愛いキャシーをコリーナは気に入り、侍女でなく妹のように接していた。
留学も同行させて、学園に一緒に通わせる程キャシーを溺愛していた。
陛下はアーネストの婚約者はコリーナ嬢が良かった。
息子とコリーナ嬢が結婚すれば自国に転生者が二人になるのだ。
だが、溺愛するキャシー嬢であれば、転生者であるコリーナ嬢との繋がりも出来ると了承したのだ。
学園を卒業してからの発表となる為、まだ内密な話しである。
キャシーは頰を赤らめ、照れている。
可愛いから許す!
「良いですわよ。でもその代わり、少し手伝って貰いますからね。」
アーネスト殿下は下手な事ではないだろうと、軽い気持ちで了承してしまう。
コリーナは了承したのだからと、アーネスト殿下を利用し作戦を練った。
そしてアーネスト殿下は留学生として、コリーナ嬢と学園に通う。
キャシーは学園に入らず、伯爵家で隣国の教育を受ける。
キャシーにはコリーナが振る舞う行動をきちんと説明した。殿下とキャシーの関係を悪くするつもりは無いからだ。
キャシーの許可をとり、エリック様への罰を開始する。
コリーナはちゃんと、エリックが自身に好意を持っていた事に気が付いていたのだ。
ただ、領地を救う事を優先しただけで、エリックを蔑ろにしたかった訳ではなかった。
エリックも当然領地の事もコリーナの内情も知っていると思っていた。
だが、気を使い過ぎた侯爵が息子であるエリックには何も話していなかったのだ。
二人のすれ違いは、これが原因でもあった。
コリーナは領地の事を考えていないエリックに幻滅していた。
交流を重ねてエリックの優しさや自身への好意に心が傾いていた自覚はあった。だが約束を反故にし女性と連れ立つエリックに幻滅したのだ。
そこからは婚約者=契約者の図式に変わったのだ。
コリーナは直ぐに領地運営にのめり込み、エリックに芽生えた恋心は遥か彼方に放り投げていた。
そして目にしたアーネスト殿下の日本語。
コリーナは自身の思うままに行動していた。
中庭でエリックと顔を合わせて数日経つ頃、コリーナの教室にエリックがやって来た。
終了の鐘が鳴る中現れたのだ。
コリーナは授業が終わる度に、エリックと顔を合わせないように直ぐに教室から離れていた。
逃げられなかったコリーナは、エリックの元に向かい礼をした。
だが、コリーナが話しかける事はしない。
「コリーナ嬢。話がしたいのだが⋯」
エリックが会話の途中で突然前のめりになった。
エリックのお腹には後ろから回されたであろう手が絡みついていた。
コリーナとエリックが視線をやると、一人の令嬢が甘い眼差しでエリックを後ろから抱きしめたまま、見つめていた。
「エリック様。こんな場所で何をされていますの?いつも一緒にいるのに、置いて行くなんて酷いですわ。」
令嬢は潤んだ瞳でエリックに甘い口調で話しかける。
「コリーナ嬢!違うんだ!」
エリックは慌てて釈明しようとする。
「貴方様が何をしようと自由です。私は貴方様に今迄通り学園生活をして下さいと申し上げました。」
他人行儀な話し方に、エリックの心は焦る。
「お互い自由な学園生活を送りましょう。」
それを告げるとアーネスト殿下の元に行き、仲睦まじく二人並んで教室から出て行った。
エリックは二人を呆然と見つめた⋯⋯。
「あの生意気な女は誰ですの?」
抱きつく令嬢を引き剥がし、エリックが叫んだ。
「あの子は私の婚約者だ!なんて事をしてくれたんだ!」
エリックは吐き捨てると、コリーナの後を追った。
教室内は大騒ぎだ。
学園で人気の高いエリックの婚約者。
姿を見せない婚約者が、コリーナと判明し騒ぎ立てる。
エリックを抱きしめていた令嬢は、怒りで唇を噛みコリーナを怒りの対象と認知した。
エリックに侍る令嬢は、高位貴族ばかりだ。整った容姿と侯爵家の嫡男。家柄を見ても陛下の側近の役職。条件の良いエリックは、顔を見せない婚約者とは上手く行っておらずいつか解消されると令嬢達は考えていたのだ。
エリックはコリーナを見つける事が出来ず自身の教室に戻る。
抱きついた令嬢が話しを広めていた為に、婚約者の話題で騒がしい。
令嬢達からは、コリーナについて色々聞かれるが無視をした。
エリックはコリーナの冷たい態度に不安しかなかった。
コリーナに嫌われてしまったと、今迄の自身の行動に後悔しかなかった。
コリーナはただエリックと同じ行動をして、やり返していただけだった。
お茶会を反故にされた時に、令嬢を連れて冷たく突き放された事もあった。
エリックはただ嫉妬して欲しかっただけで、このすれ違いもお互いを拗ねらせた原因になる。
二人の行動は全てすれ違うのだ。
アーネスト殿下と常にいるコリーナは、令嬢達の悪意の的になる。
今迄はコリーナがアーネスト殿下の婚約者候補かもと、様子を見ていたのだ。
だが、自身はエリックという婚約者がいるのにアーネスト殿下と常にいる。
嫉妬されても無理はなかった。
婚約者がいる事が知られてから、教室を出れば嫌がらせを受ける。アーネスト殿下といても、ぶつかられたりすれ違う度に悪口を囁かれ、食堂では躓いたフリをした令嬢からは飲み物までかけられた。
特に酷いのは、エリックの取り巻き令嬢だった。
アーネスト殿下も離れる事はある。その時を好機とばかりに、呼び出されては暴言を吐かれた。エリックとの体の関係まで暴露していた。
コリーナ本人は余り気にしていなかった。隣国の令嬢達の方が凄まじかったからだ。
隣国で経験済みな為、何をされても平然としていた。
エリックとの体の関係を言われても、前世の元彼達は過去に彼女がいたし、それが普通の世界だったから。
エリックがコリーナに声を掛けようとするが、礼をとり下がってしまう。
その姿を見た令嬢の一部は、エリックが女性と遊び呆けていた事を思い出す。
コリーナは、婚約者に見切りをつけているのでは?と考え、コリーナへの態度を改めた。
エリックの取り巻き達だけは、手を緩める事はなかった。
アーネストはキャシーに学園での事を相談した。いくらコリーナが平然としていても、見てる方が辛くなるのだ。
二人は伯爵夫妻に全てを話し、侯爵夫妻も交えて当事者二人を除いて話し合いをした。
両家それぞれから出させる二人の話しを纏めると、完全なるすれ違いが原因と結果を出した。
最初のコリーナのエリックへの大人の対応が勘違いをさせ、エリックの不安から嫉妬させる行動に出たと。
アーネスト殿下が、
「コリーナ嬢が少し酷くないか?エリック殿はコリーナ嬢が好きなんだろ?しかも、コリーナ嬢はエリックの気持ちに気が付いているから質が悪いよね。」
苦笑いでコリーナの心情を話した。
やはり⋯⋯。と、伯爵がため息を吐いて、侯爵に謝罪した。
侯爵も結果的に息子の行動にも問題があったと謝罪し合う。
後日当人を呼び、両家の会議が開かれた。
コリーナとエリックは、お互いの本音を語った。




