表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お仕置きされて下さいね!  作者: おかき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

すれ違い拗ねらせる二人

私は学園の中庭で驚愕な光景を目にする。


小柄でとても可愛らしい令嬢が、隣を歩く恐ろしい程に美しい令息に何か話しかけていた。


令嬢は声をかける時に、令息の袖口を少しだけツンと引っ張っていた。

令息が体を少し屈めて、令嬢の口元に耳を寄せる。

お互い小さく笑い合いながら、会話を楽しんでいた⋯⋯。

その光景を切り取れば、仲睦まじい恋人同士で微笑ましいもののはずだ。


だが、あの二人は恋人同士でも婚約者同士でもないはず⋯⋯。

なぜなら、

令嬢は私の婚約者だからだ⋯⋯。

昨日の事を思い出す。彼女が何を言ったかを⋯⋯。



私はエリック・キースリー。侯爵家の嫡男だ。

婚約者である彼女は、コリーナ・ユーグ伯爵令嬢である。


私達の婚約は三年前の15歳の時に整えられた。我が家は侯爵家で高位貴族であったが領地運営も出来ない程に落ちぶれていた。

数年前に隣接する辺境領で発生したスタンピートの影響で、侯爵家の領地は瘴気に侵され作物も育たない不毛の大地になった。


両親と交流のあったユーグ伯爵家からの援助で、何とか領地運営をしていた。


らしい⋯⋯。


私がその話を聞いたのは、今この時が初めてだからだ。


私は今、ユーグ伯爵家と久々の対面をしていた。

気まずそうな両親を横に、私は居心地が悪い思いをしている。


彼女は稀有な光魔法の持ち主で、侯爵家の領地を一年もの間浄化をし作物が実る大地へとしてくれた。

その後、自身の魔法と領地運営を学ぶ為に隣国に留学していた。


らしい⋯⋯。


全て、初耳だった⋯⋯。


彼女に視線をやるが、全く私を見ない。

興味がない事が解る。


私は間違えたのか⋯⋯。


美しい所作で紅茶を口にする彼女に見惚れていた。


「伯爵家の皆様には、息子のせいで迷惑をおかけしました。」

侯爵である父が伯爵に頭を下げた。

下位の者に頭を下げる。余程の事である。


「息子には何度も言い聞かせたのですが⋯⋯。」


そう。

問題は、私の学園生活だった。

婚約者のいる身でありながら、沢山の女性と付き合い遊び呆けていた。


(私にも言い分はあるのだが⋯⋯。)


「侯爵。頭を上げて下さい。コリーナは気にしていませんので、必要がない事です。」

伯爵の言葉に、父が頭を上げて

「婚約の継続は⋯⋯。」

オズオズと父が問いかけた。


「コリーナはこのまま婚約継続で構わないと言っております。ですので、今まで通りで構いません。」


その言葉に一番喜んだのは、母のマリアンネだった。

「コリーナちゃん!ありがとう!」

母の言葉に、コリーナ嬢が眩しい笑顔で、

「マリアンネ様。これからも宜しくお願いします。」

と、笑顔で返事をする。

その笑顔に、わたしは魅入ってしまった。

コリーナ嬢がやっと私を見て話しかけてくれた。

「ご子息様は今迄通りで構いませんので。私に構わなくて結構ですわ。」

と、笑顔で言われた。


慌てた私は、

「同じ学園に通うのです。婚約者として一緒にいなければ外聞が悪いのでは?」

暗に、婚約者に相手にされない令嬢は、馬鹿にされる。と、含みを持たせて言った。


「私の事は、一切気になさらなくて結構です。ご子息様は今迄通り学園でお過ごしください。」

と、社交用の笑みで答えられた。

私はそれ以上話す事が出来ず口を閉じるしかなかった。


「伯爵家の皆様には感謝しかない。これからも宜しく頼む。」

父の言葉で久々の両家の顔合わせは終了した。


コリーナ嬢は私に一度も視線を向ける事無く、帰ってしまった。


「エリック。だから言ったのですよ。」

私の横を通り過ぎながら母がポツリと呟いた。


(コリーナ嬢は私を好きだったはずでは⋯⋯。)

疑問を持つが、答えは先程の彼女の態度で出ていた。

私は信じられない思いで、部屋に戻り明日学園で彼女に話をしようと決めたのだ。


そして冒頭に戻る。


コリーナ嬢は私に気が付くと、小さくペコリと頭を下げた。

隣の美丈夫も私達に気が付くと、微笑みを浮かべた。


私の周りには、取り巻きの令嬢が数人侍っている。

彼女達も彼の笑顔に見惚れ、呆けていた。


その中の一人の令嬢が、

「あの方は隣国の第二王子殿下ですわ。」

「確か、本日から高貴な方が一学年に留学されていると父から聞きましたわ。高貴な方とは、殿下の事でしたのね。」


エリックは驚く。自身の婚約者が仲睦まじくしていた相手が隣国の王子だったのだから。


「隣のご令嬢は見た事はありませんわね。殿下の婚約者かしら?」

その言葉に反論したかったが、何も言えなかった。


「エリック様。今日はどちらお店に寄りますか?」

令嬢達は、学園の帰りに立ち寄るお店を相談し始めた。

エリックに侍る令嬢達は、それぞれが本気でエリックを狙っていたのだ。

知らないのは、エリックだけだった。



「コリーナ嬢。婚約者を置いてきて良かったのか?」

アーネスト殿下がコリーナに問いかけた。

「良いのでは?彼女達を侍らせたまま私に会いに来るなんて何様でしょうね?」

婚約者を弄るコリーナに、アーネストは苦笑いをする。


「朝からコソコソと私を探していたのは知ってますわ。ですが、放置ですわね。」

アーネストはエリックがコリーナに好意があるのではと考えていた。


アーネスト殿下はコリーナとの対面の時を思い出す。自身の恥をさらした過去を。

アーネストとコリーナの初対面は、強烈だったからだ。


コリーナは何を隠そう。転生者だった。赤子の時からちゃんと記憶がありこの世界の事をきちんと勉強し理解した。

日本とこの世界は全く常識が違う事。身分に縛られる事。

何より、魔法がある事。


コリーナは前世無かった魔法に一際引かれた。

領地は野菜を中心に豊かな大地を運営していた。

6歳になりコリーナは領地運営に興味を示す。子供のやりたい事を大切にしてくれる両親は、コリーナが父の領地の見回りに行く際に同行する事も許可をした。


領地の中で作物が育ち難い村があり、その日はその村へ視察に向かった。

村は乾燥していた。

離れた場所から水を引いている為、十分な水を大地に与えられていなかった。

水は公爵家にお金を払い分けて貰っていた。かなり高額なのだ。

コリーナは十分な水を分けてくれない公爵に腹を立てる。


前世の知識が役に立たないかと、地面に手をつけて考えた。

(水⋯⋯水⋯⋯。)思考が水で埋め尽くされると、地面の中に水の流れを感じた。

水道管を思い出し、土をガッチリ固めて水を大地へとゆっくりゆっくり引っ張り上げた。

「お父様!水が湧きます!」

コリーナが叫ぶと同時に、水が湧き上がる。

村人も父も唖然としている。

コリーナは湧き上がる水を溜めるために大きな池を急いで作った。

一旦穴を魔法で塞ぎ、ドヤ顔でコリーナは父を見た。


慌てた父は、「この事は他言する事を許さぬ。水が必要ならば、尚更他言してはならない。良いな!」

いつも穏やかな領主の剣幕に、村人達も大事だと気が付く。

全員が今見た事を忘れる事にした。


父は急いで邸に戻り、母と五つ歳の離れた兄を加えた家族会議が行われた。

父が今日の出来事を話し説明をする。


コリーナは何故その様な事が出来るのか、説明を求められた。

家族に隠し事をしても、いつかはバレると腹を括り前世の話をした。

学生ながらも、小さいが服飾関係の会社を作っていた事。

前世の私は死んだけど、死んだ理由は解らない事。

「転生者か⋯⋯。」

父のその言葉に驚いた。その単語があるのかと。

「転生者は世界の何処かに現れる。転生者がいる国は豊かになるから、大切にされる。」

だが⋯⋯。父が渋い顔をした事でコリーナは理解した。

「王族の婚約者にでもなるの?」

コリーナの言葉に父が頷いた。


「父上。殿下には婚約者がいますよ?しかも殿下は私の一つ上で六歳も歳が離れています。コリーナが側室でも可哀想ですが転生者だからと正妃にされても殿下はコリーナを大切にはしませんよ?婚約者の令嬢を愛していますから。」


父も息子が言いたい事は理解している。だが、所詮家臣でしかないのだ。 王家の意向には逆らえない。

しかも転生者と判明した場合、国に報告しなければならないのだ。


「お父様。国に報告する時に陛下に会えますか?」

父は頷いた。

話し合いの結果は王家との謁見でコリーナが決める。と話が纏まった。

両親や兄は、何をしようとコリーナの味方でいる事を誓う。


父が転生者の報告を王宮にした次の日に、異例の謁見が行われた。

王家も転生者を逃したくないのだ。

謁見の間に通された伯爵家は、陛下の前で礼をとる。


「その娘が転生者か?」

陛下の言葉に顔をあげると、興味津々の陛下がコリーナを見ていた。

陛下の一段下には王太子殿下が立ち、不機嫌を隠そうともせず控えていた。


コリーナは視線で睨む王太子をガン無視して、陛下にカーテシーをし挨拶する。


「ユーグ伯爵家が長女。コリーナです。」


コリーナが6歳ながらも美しいカーテシーで挨拶をした。

陛下は満足気に頷くと、コリーナに話しかけた。


「コリーナ嬢は王家に嫁ぐ気はないか?」

陛下の直球の質問に、直球で返事をする。


「気はないです!」


笑顔で元気に返事をするコリーナに、陛下は満足気に笑う。

驚いたのは、王太子だった。

自分がこの場にいる理由は、コリーナとの婚約に他ならないと考えていたからだ。


「解った。しかし、我が国の為に力は貸してくれるか?」

陛下の問いに、

「王家に嫁がなくて良いならば、自分の出来る範囲で尽力します。ですが、嫁ぐ事を強要するならば何もしたくはありません。」

コリーナの素直な言葉に、陛下は納得するが何故か王太子が口を挟んだ。


「私との婚約を断ると?王妃にはなりたくはないと言いたいのか!」

少し強目の口調でコリーナに言い放った。


「6歳も歳が離れた私を、王太子殿下が大事にするとは思いません。婚約者様と仲睦まじいなら尚更です。自分の人生を捨ててまで王太子殿下と婚約する意味が解らない。私には何一つ得になる事がありません。」


「何故私が未来を諦めてまで王太子殿下と婚約しなければならないのですか?王家に嫁がなくても、私を直ぐに理解してくれた陛下には誠心誠意で仕えますが?国にはきちんと貢献します。」


謁見に居合わせた大臣や高位貴族達は、唖然とする。

6歳の令嬢とは思えない発言をするからだ。饒舌に、且つ王太子殿下への嫌味までも会話に付け加えていたのだ。


「見た目が6歳児だと見下すからこうなるのだぞ。」

陛下が王太子に声をかけた。

「この世界に現れる転生者は、賢く聡明である者が多いのだ。そなたも習ったであろう?コリーナ嬢がそうであると我は、直ぐに解った。」

「そなたは王太子の立場に驕り、コリーナ嬢を下に見た。反撃されても仕方あるまいて。」

陛下の言葉に王太子殿下が俯いた。

陛下の言う通りだからだ。


「コリーナ嬢。好きにせよ。しかし相談事は受けてもらう。良いな。」


伯爵家は了承し、礼をとり王宮を後にした。


それからは幼いながらに、国へは陰ながら貢献する。

コリーナが転生者だとは成人するまで秘匿とされた。

王太子殿下の婚約者のマリー様は、謁見の話を耳にしコリーナを気に入り、歳が離れてはいたが姉妹のように仲良くしていた。


王太子殿下とマリー様の結婚式のウエディングドレスはコリーナがデザインした。

レースのベールを豪華にとても長くして、高位貴族の幼い子息子女が端を持ち神殿へと入る。初めての様式を取り入れた。


その美しい姿は世界に広がり、長いベールが結婚式に採用された。

前世服飾を扱っていた為、コリーナは社交界に新しいドレスを提案していく。

が、誰が作っているのかは知る事は出来なかった。

王家や高位貴族が全力でコリーナの秘密を守っていたからだ。


そんな時にスタンピートが起こり、コリーナも討伐に自ら参加した。

癒しの魔法を使い、負傷者を次々に治癒していく。顔はベールで隠した為、身元は知られなかった。

だが、聖女が現れたと騒ぎになった。


スタンピートが落ち着いて暫くした頃に一家で王宮に呼ばれた。

謁見の間ではなく、陛下の執務室だった。

そこにはコリーナの秘密を守る事に力を貸してくれていた侯爵がいた。


「伯爵。率直にお願いがある。我が領地を助けてはくれまいか。」

侯爵の話は領地の被害から衰退まで恥を晒すが正直に話してくれた。

父は侯爵とは以前から仲が良かったのだ。

私は侯爵の恥を晒しても領地を守り抜く姿勢に好感を持った。

「お父様。私は侯爵様が好きよ。助けたいと思います。私の秘密を守ってくれた方ですし。」

コリーナの返答に父も同意し、陛下からの提案で侯爵子息との婚約となったのだ。

婚約者であれば、領地を見回るのは嫁ぐ為と言い訳になる。見回りながら、領地の浄化をするのだ。


「コリーナ嬢が婚約を解消したくなれば、我が責任を持って対処する。」

少し焦る侯爵に、

「そうならぬように、コリーナ嬢を大切にするのだ。」

侯爵は陛下に頭を下げ、父と私に感謝を沢山伝えてくれた。


後日、子息との顔合わせとなり侯爵家へと訪れた。

子息を初めて見た感想は、

(顔は整っていてハンサムね。でも頼りないかなぁ。)

コリーナの心の中に好意は無かった。

だが、コリーナの容姿や態度が子息であるエリックを勘違いさせてしまう。


コリーナは小柄ではあるが、容姿は儚げで顔も美しいのだ。

薄い水の髪に、薄い桃色の瞳。

微笑むだけで魅入られる。


コリーナがエリックにそれはそれは美しい笑顔で挨拶をする。

精神年齢の高いコリーナは、大人の対応でエリックを立て自分は引いた会話や態度を続けた。

コリーナが転生者と知らないエリックは、自分に好意を持ってくれたと勘違いをしてしまう。

エリックもエリックで勘違いさせられる対応をされたのだ。可哀想ではあった⋯⋯。

可哀想と思うのは、コリーナをよく知る伯爵一家だった。


最初は婚約者として何度かお茶をしたり、街に出たりと交流をしていた。

暫くするとコリーナは嫁ぐ為の勉強だと、当主である侯爵と領地見回りを主にする事になった。

なかなか会えない婚約者に、エリックは不機嫌になって行った。

ある日、侯爵家に遠縁の親族が来ていた。同じ歳の令嬢はエリックが気に入り、纏わりついていた。エリックはうんざりしていたが、そこに見回りから帰って来たコリーナと鉢合わせをした。

エリックは言い訳をしようとしたが、コリーナが不機嫌な表情をした。

その表情を嫉妬と勘違いしてしまう。

エリックは令嬢に寄り添い、コリーナを無視してその場を離れた。


当のコリーナは、令嬢の家を立て直す相談を密かに受けていたのだ。自身の家の状況も考えず宝飾品を飾りまくる令嬢の姿に嫌悪しただけだった。

エリックの事など見ていなかっのだ。


その日からエリックは度々令嬢を連れてはコリーナと会う約束を反故にした。


コリーナは前世若く会社を立ち上げる程、仕事が大好きだった。

この世界で侯爵家の広大な領地を運営する事にワクワクが止まらなかった。

侯爵夫妻に教えを請い、侯爵家の領地を豊かにして行く。


ある日国から配布される世界情勢の紙面を読むと、隣国の第二王子が言葉を載せていた。

最後の一文に視線が釘付けになる。

『転生者がいるならば会いたい。』

日本語で書かれていた。


私は両親に話し、侯爵家の伝を使い隣国に留学した。

エリックには何一つ説明していない。


半年以上も交流のなかったのだ。

婚約者の事など気にしないコリーナだった。



登場人物の名前を間違えていました!

訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ