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久しぶり

 俺は後ろ手に月夜の肩を掴み、そのまま後退りする。

 川の中から出てきたのは、魔物だった。

 俺よりは少し小さいが、体長は成人男性くらい。

 二本足で立ってはいるが、全身は鱗だらけで手足や背中にはヒレが生えている。魚と人間を合わせたような顔で、口からはギザギザした歯が覗いていた。

 魔物はヒレの生えた手を岸にかけ、川から這い上がってくる。

 俺は月夜を庇い、

「あれ、メイレンじゃない。久しぶり」

『おう、久しぶり!元気にしてたか?』

「知り合い!?」

 いきなり挨拶し合う月夜と魔物に、俺は思わず声を上げる。

 月夜は俺の後ろから出てくると、魔物を指して、

「こいつ、魚人のメイレン」

『そこは人魚って言ってくれよー』

 抗議しつつも不満な様子は全くない。なんだか朗らかな魚人─メイレンに、俺は一気に力が抜けた。

(あね)さんもお元気そうで何より』

 姐さんて。いや、メイレンの年はわかんねぇけど。

「まーね。メイレンはまた可愛い女の子でも追っかけに来たわけ?」

『人聞きが悪いな。俺の心はいつだって、姐さんだけを求めてるんだぜ?』

「あー、そういうの良いから」

 ···なんだ、この会話。

『姐さんこそ、また若い男引っかけて遊んでるんだろ』

 メイレンはそう言って俺を見てくる。

「ああ、こいつはバセット。元人間の合成獣(キメラ)で、あたしの下僕みたいなもんよ」

「誰が下僕だ!」

 しかし、月夜の説明を聞いたメイレンは、

『合成獣···。まだそんなえぐいことやってる人間がいるのか

 若いのに、苦労したんだな。お前』

 なんだか俺に同情してくれてるらしい。

 意外と良識のある魚人らしい。少なくとも月夜よりは。

「で、結局メイレンは何してたの?」

 月夜が改めて尋ねる。

『ん、ああ。アスラ様のところに行く途中だったんだよ』

「なるほど」

「アスラ様?」

「ドンジェン地方を護ってる女神様のことよ」

「女神!?」

 いや、魔物が実際にいるんだから神様がいてもおかしくはないのかもしれない、が。

 ちなみに今俺たちがいるのはエヴォル地方。ドンジェン地方はここからもう少し南西に進んだ方にある。

 なんでも、それぞれの地方名は伝説の女神の名前からきているとか·········あれ?

「名前、違わないか?」

 伝説通りなら、なんでドンジェン地方の女神の名前がアスラなんだ。

 しかし月夜は事も無げに、

「ああ、五百年くらい前に世代交代したのよ」

 ·····神様にもあるのか。世代交代。

 なんか色々ついていけなくなった俺を置いてきぼりにして、月夜とメイレンは話を進める。

『そうだ。せっかくだから、姐さんたちも一緒に来ないか?

 たまにはアスラ様に顔を見せに』

「んー、そうね。バセットはどうする?」

 どうするも何も···。俺には親父の形見のペンダントを奪った男を探す目的がある。寄り道してる場合じゃない。

 ···んだが、正直、女神様がどんな感じなのか気になる。

 それに、ペンダントに関しては今のところ手がかりが全くないから、具体的な目的地はないし·····。

「········行く」

 俺は結構悩んでから答えた。

 すると月夜はにししっと笑って、

「アスラ様、すごい美人よ。あんたの期待通りにね」

 いや、そういう興味じゃないんだよ。どっちかというと怖いもの見たさというか。

『じゃあ、案内するよ

 でもそれなら川での移動は出来ないな

 一つか二つ街を通らないと』

「え」

 メイレンの言葉に俺は思わず声を漏らす。

 俺と月夜は人間の姿をしてるから問題ないとして、このいかにも魚人、という姿をしたメイレンが街に入ったらパニックになるんじゃないか。

 という俺の心配は顔に出ていたのか、

『あ、大丈夫。大丈夫』

 と、メイレンはぱたぱた手を振り、


 ざびゅっ


 いきなり地面から吹き出した水柱に、メイレンの姿が一瞬隠れる。

 次の瞬間には、メイレンがいた場所に、動きやすそうな服を着た俺より少し年上に見える男が立っていた。

「変身できるから」

 男はメイレンの声でそう言った。


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