4.
祖父の逮捕と保釈、その後の裁判や判決については新聞の記事になったそうだ。しかし私には新聞を読む習慣がなく、教えてくれるような友人はいない。使用人たちは口止めされていたそうだ。知りようがなかった。
ハロルドは世事に関心がないため経済面しか読まないので、不祥事報道や事件報道というよりは醜聞報道のような扱いをされていたその記事は、目に留まらなかったのかもしれない。私の父の意向を受けた形で、伯爵家では故意に伏せられていたとも聞く。
私たちが知っていたとしても、どうにかなるものではなかったが、把握しておくべきだったと今では思う。私とハロルドは、二人だけのあまりに閉ざされた世界に生きていた。双方の家族にとって、私たち二人はまだ子供の扱いだったのだ。そう気付いたときには愕然とした。
私が現実を受け入れきれず無為に過ごしている間も、一族はハミルトン家の立て直しを図っていた。
破産と爵位返上の申請は、最終的には受理されなかった。国から救済策が提示されて、ハミルトンは子爵家として継続し、領地も残された。援助と監視のために事務官が屋敷に常駐することにはなったものの、慣れ親しんだ我が家を離れる必要がなかったのは、皆の支えになったようだ。父は「確固たる拠点があるだけでも心持ちは違ってくる」と言い、別の場で母も「帰る場所があるのはとても安心するものよ」と言っていた。
どのような経緯でそうなったのかは、やはり判然としない。ハミルトン領は鉱床がなければさほど魅力的な土地ではないから、引き取り手を見つけたり国が管理するよりも、我が家にそのまま委ねておいたほうが楽だったのかもしれない、と叔父たちが話しているのを聞いた。ハミルトン家に好意的な者も中にはいたのだろう、とは兄嫁の意見だ。
とはいえ借金まみれという事実は変わらない。破産という手段がなくなったために、返済の義務が伸し掛かる。立て直しはかなりの困難を伴った。
自助努力だけではどうにもならず、皆は昼夜を問わず奔走した。父はかつての軍務時代の伝手を頼り、母はエバンス家で培った商売の知識を懸命に活かそうとした。兄と従兄弟たちは、残されたわずかな資産を元手に新しい事業の可能性を探り、国内外の商会や貴族との交渉に明け暮れた。
皆、疲労困憊した顔で帰宅し、わずかな休息の後にまた慌ただしく出かけていく。屋敷にいる間も、低い声での深刻な話し合いが夜遅くまで続き、ため息がそこかしこで聞こえた。
私は、そんな家族の様子を家の片隅で息を潜めているような感覚で見ていた。事業の知識も社交の術もない私にできることといえば、家政を取り仕切り、兄夫婦の子供二人を世話するくらいだった。
「家を守ってくれているだけで十分だ」
「家の中のことは任せた」
家族からはそう言われたが、それは裏を返せば、家の外の本当の苦境に私はまったく直面していないのだ。
「このようなときに女性ができることは少ないから」
そう慰めてくれたのは、皮肉にも派遣されてきていた事務官だ。
けれど、同じ女性である兄嫁のユーニス様は違った。彼女は女学校時代の友人を頼り、その友人の知己と交渉し、いくつかの事業に関する約束を取り付けてくるなど、精力的に取り組んでいた。社交的で、外部との繋がりを持ち、具体的に家の財政に貢献できるユーニス様を見るたび、自分がどれほど無力であるかを痛感した。
私は魔法石を感知する以外になんの能力もない。その唯一の取り柄も、事業が中断している今となっては役に立たない。
両親や兄夫婦が領地を離れている間、私が家を守り、幼い姪と甥の面倒を見るというのは、確かに大切な役割だったのかもしれない。ユーニス様はたびたび、子供たちの生活や教育を任せきりで申し訳ないと謝ってくれた。
「フィオナさんがいてくれたから、子供たちは不安がらずに過ごせるのよ」
とも言ってくれた。
それでも私は引け目を常に感じていた。家族の苦労を間近で見ながら、何もできない自分が情けなかった。
家が少しずつ持ち直し、ようやく一息つけるようになったのは、ハロルドと離縁してからもうすぐ4年という頃だった。完全に元通りというわけにはいかなかったけれど、少なくとも生活の基盤は再建できた。
昨夜は何年かぶりに家族が全員そろった。家の立て直しはどうやら見通しが立ったとのことで、両親も兄夫婦も領地に戻り、皆で和やかに夕食を取る。姪も甥も両親に甘える様子を見せて、私は少しだけ肩の荷が下りたような気がしていた。
今日は久しぶりに一人きりで領地内を散歩に出た。子供たちには自分たちが付き添っているからと、母とユーニス様からたまには子供抜きで外出してきてはどうかと送り出された。遠出したいとも思わず、近隣を散歩すると言い置いて家を出た。
そして丘の上にたたずみ、風に吹かれて、今に至る。
散歩に出ると、足は自然に領地の隅に近い小高い丘へと向かっていた。魔法石を初めて感知した日、ハロルドと二人で誰にも内緒で冒険に出かけ、最初にやって来た場所だ。二人で手を繋いでわくわくしながら歩いた。今思えば彼の護衛が付いてきていたはずだから、大人たちの計らいだったのだろう。
私は湖から目を上げた。いつの間にかずいぶんと時間が過ぎている。そろそろ屋敷にもどろうかと思った、そのとき。
「フィー」
聞き慣れた、でもこの4年間は一度も耳にしなかった声が、不意に背後から聞こえた。息が止まるような気がした。