第74話 再会(2)
目的の場所へ向かう途中、何度か兵士や使用人の姿を散見したが、アステルの気配を察知する能力が遺憾なく発揮され、上手く隠れながらやり過ごすことができた。
「……お前と出会ってから、こういうことばかり上手くなるな」
「俺は、ステルスゲームあんまり得意じゃなかったんだけどな」
「ステ……なんだ、それは?」
「こっちの話だ。……さて、見えてきたぞ。あれが大広間の入り口だ」
物陰に隠れながら、二人は入り口付近を注視する。二人の歩哨が周囲を巡回しており、容易に近づくことはできない。
「こりゃ、あいつらを避けて中に入るのは難しいだろうな」
「ああ、隠密行動もこれまでだ。……私は、手前の兵をやる。お前は奥のを頼む」
「了解。それじゃ、行くぜ。せーのっ」
ファラリスは、音をたてぬように背後から素早く兵士に近づく。気配を察した兵士が振り向くと、腰に差した剣の柄で、鳩尾を突いた。次いで、衝撃で頭が下がった兵士の首の後ろを手刀で強打すると、兵士は声もなく沈んだ。
その時、後方にいたもう一人の兵士も異変を察知したが、超速で接近したアステルに同じくノックアウトされていた。こちらは、鮮やかというより力づくである。
二人で兵士を廊下の陰に引きづると、兵士の服を切り裂いて手足を縛り、猿轡を噛ませる。
大広間の扉の前に立ったアステルは、中の気配を探る。
「……誰も居ないぜ」
「好都合だ。中に入るぞ」
扉には鍵など無く、すんなりと開けることができた。扉の中は、外の明かりが一切入らず、昼間だというのに真っ暗だ。
「暗くて何も見えんな」
「さすがに、ここまで真っ暗だと俺の夜目も役に立たないぜ。……待ってろ、確か壁に松明が掛けてあったはずだ。……お、あったぜ」
「よしっ、それなら」
ファラリスが、松明に火が灯すと、ようやく視界が確保された。そこにはホールのような構造の茫漠とした空間が広がっていた。
「さて、急がんとな。騒ぎになるのは時間の問題だ。それまでに、召喚に関わる核の部分を探さなければ。何か、当てがあるのか」
「ああ、任せておけって。女神に授かった新たな力が、この部屋の先から凄まじい力の奔流を感じ取っている。目指すものはそこだろうぜ」
「この部屋の先……。あの扉の奥か」
ファラリスは松明を掲げると、入ってきた扉から見て左側の奥にある扉に視線を送った。その扉の奥の部屋は、かつて召喚者された転移者たちが石板によって『判定の儀』を受けた部屋だった。
「……いや、そっちじゃない。真っすぐ正面の奥だぜ」
「しかし、正面には祭壇しかないぞ。……うむ、調べてみるしかないな」
二人はステージ状に数段高く作られた祭壇の壁を調べるが、隠し扉やそれらしい仕掛けを見つけることはできなかった。
「……何も見当たらんな」
「この奥に隠し部屋があることは分かってるんだ。この壁をぶち壊すことぐらい簡単だけどな」
アステルは、苛立ちを隠せずにいた。
「そう言うと思ったが、まあ、それは最終手段だ。よし、左奥の部屋を見てみよう」
いつもとは逆の立ち位置だなとファラリスは思った。素早く代案を出して柔軟に軌道修正していく役割は、普段はアステルの領分だ。やはり、この神殿に来てからの彼の調子は普段とは違っている。
左奥の扉は鍵が掛けられている。
ファラリスは、今にも扉を切り裂こうとするアステルを制して扉の前に立つと、丁寧にドアノブを調べた。
「……魔力による結界や、罠のようなものは無いようだ。よし、存分にやってくれ」
「ああ、任せてくれ。少し下がってくれないか」
電光石火、アステルの手刀が扉の鍵を切り裂く。
中に入ると、ファラリスは松明から燭台に火を灯した。明かりに照らされた部屋は、床に青い絨毯がひかれ、木製の重厚な家具が配置されていて広めの執務室といった雰囲気だ。壁に並べられた書架にぎっしりと並べられた書籍がその趣を強めている。
「みんなは、この部屋でそれぞれの天職を知ることになった。……俺が、聖者とかいう天職を引き当ててザワつかれた場所だぜ」
「……そうか、ここがな。……悪いが、思い出に浸るのは——」
「分かってる、そんなつもりはないぜ。時間もないしな。……問題の隠し部屋は、この本棚の向こう側だぜ。ということは……」
「「——!?」」
案の定、本棚は隠し扉の役割を果たしており、奥にもう一つ部屋が隠されていた。
隠し部屋の中は、ガランとした何もない石作りの部屋で、特に何の装飾も施されていない。
「ここが召喚の核となる部屋か……。何もないな」
意を決して部屋に入った分、ファラリスは拍子抜けした。
だが、アステルは違った。
「……いや。違う。この真下だ。ここの下に何か隠されている! スゲーエネルギーを感じる。ヤレヤレ、まったく隠し事が多い神殿だぜ!」
感情が昂ってきているのが顔に出ている。
その興奮した顔も美しいと密かにファラリスは思った。
「そ、その様だな……。ゴホン。で、どこに秘密の装置が隠されているものやら……」
一瞬アステルを見惚れてしまったファラリスは、場違いであることで気恥ずかしくなった。その照れ隠しで、しゃがみ込んで足元を丹念に調べるが、それらしいものは見つからない。
「……床を切り裂いてみるか」
今度はファラリスが焦れる番だった。とにかく時間が無いのだ。気絶させた兵士が見つかるのも時間の問題なのだ。
もちろん、アステルには異論などない。
「音が外に漏れるとよけい拙い。その隠し扉を閉めてくれないか」
言われたファラリスが、書架に偽装された扉を閉めると異変が始まった。
ガタッと音がして、アステルの足元の石組みがせり上がってくる。
「「——!?」」
驚いて、飛びのいたアステルの足元から青白い光が漏れてくる。光は強さを増し、部屋は一挙に明るく照らされ、目が眩む。
やがて、ようやく目が慣れるると、目の前に台座が現れた。
「なんだ、これは!?」
台座には剣の鞘だけが突き刺してある。しかし、鞘だけとはいえ、凄まじいオーラを発しているのだった。
「鞘だけか……。分からんな、どういうことだ……」
「……俺に聞かれても困るぜ。ま、調べてみるしかないだろうけどな」
アステルは、鞘を抜いて調べようとした。……が、なんど力を込めても全くビクともしない。
「こりゃ、無理だぜ。鞘が台座に埋め込まれているようだ。台座ごと壊すしかないな」
「まて。これが何であるにせよ、壊すのは最後だ。壊さなくても調べることはできるだろ」
そう言って、ファラリスは鞘に触れた。刹那、鞘はこれまで以上に美しく輝き、光の奔流がファラリスを飲み込んでいった……。
次回の更新は少し先になります。しばらくお待ちください。
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