表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/86

第58話 沈黙の村



 

 テザの街は、イドリース王国の中央よりやや西側に位置する。テザがあるフェズ侯爵領は、別名『中央平原』とも呼ばれ、なだらかな地形が延々と続く。

 

 中央平原のど真ん中を大陸交易路(通称:公路)が通り、古来この地域では、商業が発達してきた。


 その理由は、王国の中央部に位置し、しかも平坦な地形のため馬車など車輪を利用した乗り物での移動が容易なことが挙げられる。

 これによって物流がスムーズに行われ物資の集積が素早く進む。

 まさに商業活動に適した場所だった。


 もう一つの理由に、テザの街の北西に位置する『フェズ大神殿』の存在がある。


 『フェズ大神殿』に続く道沿いに、巡礼者が立ち寄るための宿場町があり、さらに周辺にはいくつかの集落が存在する……いや、正確に言えば存在した。


 噂では、この辺りで悪性の流行病が蔓延し、住民に多数の犠牲者が出た。また、感染の拡大を避けて生き残った地域住民がこの地を捨てて逃散したという。


 感染を恐れて周辺の住民もこの地に踏み入ることを避けてきた。

 よって、大神殿への巡礼者自体も数が激減し、まして、やまいが猛威を振るったとされる周辺の村落へ足を伸ばすものは皆無だった。


 このゴーストタウンと化した集落の一つに、アステルとファラリスが訪れていた。




「噂通り、家屋だけを残して人が消えているぜ……。この家屋の数なら、この村だけでも結構な数の住民がいたはずだ……」


 アステルは、困惑した表情を浮かべ、日中にもかかわらず不気味な静けさを保つ家々を見つめた。


「やはり正体不明の疫病という噂がよほど恐怖を与えているのだろうな。盗賊や浮浪者が家を荒らしまわった形跡がない」


 ファラリスは、家屋が壊されたり家財道具が持ち出されずにそのままに残されていることに対して妙に感心した。もっと、荒れ果てた村の姿を想像していたからである。


「私も、お前から召喚の話を聞かなければ、噂を恐れて、ここへ来ることは決してなかっただろう」


「やはり、流行り病の噂は作られたデマだったようだな……。もし、この村を放棄するほどの死者が出たのなら、大量の死体を埋めた跡の一つもあるだろうぜ……」


「ああ、仮に遺体を焼却したと想定しても、それならそれで、その跡ぐらい見つかるだろう。だが、地面のどこにも大きな焦げ跡などないな」


「……ここの村人たちは、ホントに召喚の生贄にされたのかもしれない。……しかし、どうやって消えた、いや消されたのか……」


 アステルは、話しながら余計に表情を曇らせていった。ここの住民がたどった運命、その顛末を想像したからだ。


「そうだ、それが疑問だな。もし、強制的にどこかへ連れて行かれたのなら、どんなに脅されても、抵抗する者が出て、それなりに争った形跡が残りそうなものだ。敢えて言うなら、この場から本当に突然みんな消えて居なくなった、そんな感じだ」


 ファラリスは素直な疑問を口にする。さっきから、色々と見て回るが、この村にそんな痕跡は皆無だった。


 アステルの心は不安や恐れの色を濃くしていた。


——もし、本当にそんなことができるのなら、ここの村人たちは、誰一人、おそらく自分が何をされたのかすら気が付かずに、一瞬にして生贄として命を奪われた可能性がある。

 俺たちを、この世界に召喚するために、ここの村人たちは……女、子ども、老人、みんな犠牲にされた……。こんな村が、この辺りにあと幾つかあるってことは……。


 アステルは、急速に呼吸が早まって気分が悪くなり、激しい嘔吐感に襲われた。

 生汗が大量にでて、堪らず地面に這いつくばって嘔吐する。


「アステル! どうした、大丈夫か!?」


 ファラリスは、背中をさすりながら、突然のアステルの状況を案じた。

 ファラリスから手渡された水筒で口をすすぎ、程なくして『聖者セイント』のスキルが発動して平静を取り戻すが、アステルの表情は暗いままだ。


「……ありがとうな。……俺としたことが、ちとパニくったぜ。……くそっ、分かってたはずなのに、ホント、相当こたえるな……これが俺たちのせいだとしたら——」


「ち、違う! 違うぞ‼ この状況は決してお前のせいではない! これを行った者共が、起こしたことだ。断じてお前のせいではない!」


 ファラリスは、アステルが普段見せない表情をしたことに動揺したが、だからこそ強くその考えを否定した。


 かつてアステルは、買われていく女奴隷たちを見て『弱い立場や力のない者が力づくで無理やり酷い目に遭うのを黙って見ていられない』と激しくいきどおっていた。


 アステルの内側には強い正義感が秘められている。普段のおどけた態度は、それを恥ずかしがって隠すための、言わば仮面だ……。


 ファラリスは、そんなアステルに何度も助けられ、励まされてきた。それを思い返すだけで堪らなく愛おしさが溢れてくる。

 その愛する男がこの村の状況、その原因が自分にもあると思って苦しむのなら、それは絶対に間違いだ。


——本当は召喚の秘密など探るのは止めて欲しい。もしかしたら、それがアステルとの分かれという辛い未来に繋がりかねないから……。 

 でも、それでも!


「アステル、おそらく、この村で起きたことはお前の予想通りだろう。だからこそ、復讐するのだ! こんなことをした者共にな。何としても秘密を解き明かし、二度とこんな非道を起こさぬよう、鉄槌を下してやるのだ。私とお前でな!」


 そう語るファラリスの表情は、アステルがこれまで見たことがないものだった。

 凛々しく、そして慈愛に満ちている。

 そして、その声は聞く者の心に強く響かずにはいられない。


——これが、テレムセンの『姫将軍』のホントの顔か。フフッ、こんなの惚れてまうやろー、だな……。


 アステルは、ファラリスの言葉に火を灯され、その気にさせられていた。もしかしたら、それはファラリスの『軍司令ウォーロード』のスキルが発動した結果かもしれなかったが、そんなことはどうでもよかった。


——ファラリスが、パートナーとなって俺の旅を支えてくれる。それなら、どんなことがあっても旅の目的を達成できる気がする。


 アステルは、気持ちを新たにして、この村の調査を行うことにした。

 必ず手掛かりを掴み、その上で『フェズ大神殿』へ向かうのだ。


——召喚の儀式をめぐる秘密を必ず暴く! そして……。


 二人は、この村で一体何が起きたのか、その答えを探して、一軒一軒隈なく調べていく。

 

 この沈黙の村の中に必ずヒントが隠されている。例え謎が沈黙のヴェールに包まれていても、二人は決して諦めるつもりはない。


 


—————————————————————————————————————


 *いかがだったでしょうか。ここまでが3章ということになります。ここまで読んでくださった方、大変ありがとうございました。


 さて、4章は、橘莉紗を中心に物語が進展します。鋭意執筆中ですが、現在仕事が多忙に入ったため、公開は来週になると思います。引き続きよろしくお願い致します。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ