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第55話 激突(3)




「レリック殿下、我の走竜バラウルから、降りていただきたい」

「何だと! 私に走竜から降りて、どうしろというのだ」

「お早く!」


 シルバーシャークの有無を言わさぬ迫力に、レリックも渋々ながら赤い走竜から降りた。


「隊長、アレをやるのですか!? しかし、ヴェンチアが居りませんが」

「ヴェンチアが欠けても、我の走竜がいればどうということはない」

「し、しかし……」

「覚悟を決めよ、ミンシオ!」

「……はっ!」

「ど、どういうことだ、何をするというのだ」


 赤い走竜から降ろされ、困惑するレリックは、二人のやり取りに割って入る。


「殿下はお下がりを、我らであの銀髪の悪魔を仕留めます……」

「か、勝てるのだろうな。い、いや、必ずあれを殺せ! そうしなければ——」


 レリックは後の言葉を飲み込む。このまま獣騎兵を失って、おめおめと王都に逃げ帰れば、レリックは未来を失う。


——父王に、必ずファラリスを手に入れると豪語して、獣騎兵を借り受けたのだ。それを、これだけ手駒を失って手ぶらでは帰れぬ。ファラリスとあの銀髪の悪魔の首を戦利品として持ち帰って、はじめて申し開きが立つというものだ。


「…………」


 シルバーシャークはレリックの言葉に返事の代わりに睨みつけることで返した。

 残された左目の灰色の瞳が怒りに燃える。

 

 “余計なことを口に出さず、言われた通りにしろ”

 シルバーシャークの灰色の瞳は雄弁にそれ語っていた。


「ひっ!」

 

 レリックは情けない声を出して、慌てて後ろに下がるのだった。






「アステル、何か仕掛けてくるぞ!」


 吊り橋の上からファラリスがアステルに警告を発した。

 アステルも相手が何らかの連携攻撃を掛けてくることを予想し、迂闊に攻撃をかけること躊躇していた。


 今、峡谷の狭い回廊のような地形で、吊り橋を挟んでアステルとシルバーシャークたちは相対している状況だ。


 獣騎兵の機動力を使った左右からの挟み撃ちや包囲はこの狭い地形では使えない。ならば、縦の直線的な連携攻撃ということになる。


——来るか!


 それは、赤い走竜バラウルの突進から始まった。

 本来、乗り手が操るはずの走竜が、自らの意思で得物アステルをめがけて突進してきたのだ。


 アステルもそれを迎え撃つために同じく走竜に突き進む。

 走竜を吊り橋に近づけないために敢えて前に出たのだ。

 

 赤い走竜はアステルとぶつかる手前で突然大口を開け、炎の息(ブレス)を吐きだした。

 他の走竜にはない、この走竜バラウル亜種・・の特異な能力だった。


 走竜バラウル亜種の炎の息(ブレス)がアステルを襲う。しかし、アステルはそれをジャンプして避け、頭上から走竜亜種に攻撃をかけようとする。


 刹那、氷刃グラキエスの氷の散弾がアステルに降り注いだ。

 狭い回廊では、炎の息(ブレス)攻撃を横へは避けられない。

 炎の息(ブレス)を飛び越えることを予定した攻撃った。


 アステルは、ダメージを覚悟してそれを手で払いのけようとした。

 

 だが、氷の刃はババババッと激しい反響音を立てて、アステルの直前で弾き飛ばされた。超高圧の空気壁がアステルの前の創られていたのだ。


 ファラリスが、これを読んで、予め風障壁ウインドウォールを詠唱していたのだ。

 

——よし!


 アステルは、ファラリスのファインプレーに感謝する。

 しかし、直後、強烈な衝撃波が風障壁ウインドウォールごとアステルの傍を突き抜けた。


 「ごはっ!」「アステル!!」


 アステルのうめき声とファラリスの悲鳴が同時に木霊した。

 

 衝撃波の正体はシルバーシャークが放った剣風撃ソニックブームだった。

 圧倒的な剣圧が作り出す、真空の刃が、風障壁ウインドウォールごとアステルを切り裂いたのだ。


——ぐぅっ、このまま落ちたらられる!


 アステルは態勢を崩しながらも、咄嗟に大口を開けて待ち構える走竜亜種を蹴り飛ばし、反動を利用して距離を取った。

 

 傷は胸を切り裂き肺に達していた。もし、風障壁ウインドウォールが無ければ、あの一撃でアステルは真っ二つにされていただろう。


 アステルは傷口に手を当て、回復魔法ヒールをかける。淡いエメラルドグリーンの発光が傷口を覆い、傷口は塞がり始める。


——くそっ、やられた。回復はこれが最後だ。疲労感がハンパない、こりゃ、次は確実に意識を失うぜ。……どうする、まともにいけば、またやられる。


「アステル、私も今そっちへ行く!」


 ファラリスはこれ以上アステル一人に戦わせるわけにはいかないと判断し、吊り橋からアステルの加勢に向かおうとする。だが、


「そこで待ってろ、ファラリス! 俺を信じろ!!」


アステルの声がそれを止めた。


「し、しかし!」

「大丈夫だ! こういう状況は、アニメで予習済みだぜ!」

「アニメ? 何の話だ」

「いいから、黙って見ていてくれ! 俺の覚醒をな!」


アステルは、そういうと自ら再度、走竜亜種へ突っ込みを掛けた。


「来るぞ、ミンシオ。奴を倒すまで何度でも続けるぞ」

「分かっています!」

 対するシルバーシャークもミンシオも、アステルの動きに対応する。


 アステルの突進に、走竜バラウル亜種は炎の息(ブレス)でアステルを焼払おうとする。

 アステルはジャンプしてそれをかわす。

 先ほどの再現VTRを見ているかのようだ。

 そして、同じく氷刃グラキエスの氷の散弾がアステルに襲い掛かる。


——!?


 アステルは、走竜亜種の頭を激しく蹴って踏み台(・・・)にし、更に高く飛び上がる!


「甘い!」シルバーシャークは、それを読んで一呼吸待ってから、剣風撃ソニックブームを放った。先ほどよりずっと()()()()()()()()()のだ。


 だが、剣風撃ソニックブームは空しく空を切る。そこにはアステルは居なかったからだ。


「「なんだと!!」」


 シルバーシャークとミンシオの声が重なる。

 

 アステルは、上ではなく、壁に向かって飛んだのだ。


 アステルは、壁に着地するとそのまま走った。峡谷の断崖と狭い回廊を作り出している側面の絶壁をアステルは突風のように駆け抜けていく。

 

 その美しい白銀の髪が、一瞬流星のように見えた。


「は、早——」


 ミンシオの最後の言葉はそれだった。ミンシオはアステルによってドロップキックのようにして蹴り飛ばされ、シルバーシャークの方へ飛ばされる。


 その時、シルバーシャークは、剣風撃ソニックブームで迎え撃とうと海賊刀カトラスを振るっていたのだ。

 次の瞬間、ミンシオの首は驚愕の表情を浮かべたまま宙を舞っていた。


「おのれ!——」


 アステルは、ミンシオを切り裂いたシルバーシャークが、次なる攻撃を始める前に突風のように距離を詰め、その海賊刀カトラスを握る腕ごと、手刀ガリュウケンで斬り飛ばした。


 シルバーシャークは、呻き声をあげながら走竜バラウルからズルリと滑るように落ちた。

 主を失って混乱した2頭の走竜が逃げ去っていく。

 

「ひっ、ひぃー」


 それにつられるように、後ろで戦況を見ていたレリックも逃走を始める。

 それを無視して、アステルはシルバーシャークにとどめを刺そうとする。


「………み、見事だ……」

「話すことなんてないが、見事な三者の連携攻撃ジェットストリーム・アタックだったぜ——」

——ドッゴォン!!


 アステルが、最後までセリフを吐く前に、先ほどアステルが駆け抜けた絶壁の上で爆発が起こり、ゴォーと轟音を立てて大小の岩が雪崩のごとく崩れ落ちてきた。


——やっぱり、このタイミングだったな!


 ()()()()()()()()()アステルは、岩や土砂の波が押し寄せるより早く吊り橋の上にたどり着く。


 爆発の轟音と崖の崩落は次々に起こり、シルバーシャークや赤い走竜亜種、そして逃げ遅れたレリックを飲み込み、崖下へ落ちていく。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

巻き込まれたレリックの無念の声が谷底に吸い込まれていった。


 一方、吊り橋に難を逃れたアステルはファラリスと抱き合う


「アステル! お前という奴は!」

「悪いが、ファラリス、安心するのはまだ早い! この吊り橋も当然狙われてるぜ!」


 その直後、ブワッと音を響かせ、火炎の弾丸があられのように迫り吊り橋に降り注いだ。

 

 火炎弾フレイムバレットに見舞われた吊り橋は、あっという間に延焼し、焼け落ちるのだった。





 

 これまでの一部始終を、崖の上から悠々眺める二人の影があった。


 しかし、吊り橋が燃えながら谷底へと消えていく光景を見る二人の表情は対照的だ。

 一人は、たった今自分が引き起こした惨状を笑いながら見ていた。

 そしてもう一人は、大口を開けて


「もったいねぇー!!」

 

 と叫びながら、無念の表情を浮かべていた。


 二つの影の正体は、ザビールとケードだった……。





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