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第50話 テザ(2)




 ファラリスは、このテザの街に数回訪れたことがあった。しかし、何れもバーラム侯爵家の者として訪れており、宿は貴族街にある屋敷を借りて宿泊していた。


 要は、一般の旅人が宿泊する宿に全く心当たりがなかった。そこで、アステルとファラリスの二人は、先ずはこのテザでの宿泊先を探すことにした。


 この街でしばらくは過ごす予定なので、信頼のおけるあるじで、できれば風呂のある宿が良かった。


 宿を探すにしても、店で買い物をするにしても、外套のフードを昼間から目深く被っている者など、怪しまれて当然だ。この目立つ外見をどうにかしないわけにはいかなかった。


 アステルは、()()()()()()、目元を残して鼻から下の半分は、布をマスク代わりにして覆うことにした。


 これですこしは顔に注目されるのを防ぐことができる。しかし、反面そのアンバーカラーの美しい瞳が余計に強調されてしまった。


 いわゆる『マスク美人』度が激増したのだ。


「お前は、女の私から見てもズルいと思える容姿だ・・・・」


 ファラリスはアステルの顔に見惚れながら顔を赤らめるのだった。


 そして、ファラリスが持っていた光神ミスラ教の光を模ったペンダントを首から下げた。光神ミスラ教の巡礼者を装ったのである。


 ファラリスも同じくマスクで顔を隠し、光神ミスラ教の光を模ったペンダントを首から下げた。二人の関係は、ファラリスが主人、アステルが従者として振る舞うことになった。





 宿屋は、西門付近にある『自由な白馬亭』に決めた。アステルが、道すがら本物の(・・・)巡礼者に、巡礼者が良く利用する宿屋の中で条件に合うものを聞いて選んだのだ。


 西門の近くにしたのは、もしもこのテザを脱出することになった場合、王都の方向へ逃れたいという考えもあった。


『自由な白馬亭』のあるじは、サルタンといって、自身も熱心な光神ミスラ教徒で、巡礼者に親切な男だった。


 サルタンは、巡礼者には優しく良心的な価格で応じたが、巡礼者を騙る者には厳しい男で、巡礼中の宿泊希望者には必ず、光神ミスラ教の経典の一節から問答をするのだった。


 これに答えられない者は巡礼者とは認めず、一般客として一切価格交渉に応じないことで知られていた。


 この点は、問題なかった。ファラリスも立派な光神ミスラ教徒で、サルタンが出す問答をスラスラと答えるのだった。


 ファラリスの返答の見事さに感心したサルタンは、同じの料金で奥のとっておきの部屋を貸すと応じてくれ、これは有難く好意を受けることにした。


 困ったのは、従者として振る舞っていたアステルも強制的に同じ部屋にされてしまったことだ。


 アステルは、声を上げようとしたが、ファラリスが、手で制して


「主殿、ご配慮に感謝いたします。私もこの従者と離れるわけにはいきませんので」


 とやや口調を変えて感謝の言葉を述べた。



 サルタンは、上機嫌で二人を奥の大きな部屋を案内し、鍵を渡すと風呂の使い方などを説明して出ていった。


 部屋には大きなベッドが一つしかなかった・・・・。


「・・・・どうするんだファラリス」

「わ、私に聞かれてもこまる! ベッドが一つしかないなどあの主は言ってなかったではないか」


 ファラリスは耳まで真っ赤にしてアタフタする。


「主と従者が同じ部屋の場合、従者はどうするんだ」

「床に——!?」

「・・・・あのサルタンという奴はそう考えたんだろうな」

「わ、私が床に寝る! それで問題ないだろう」

「そういうと思ったぜ。バカ言うなよ。何のために部屋を取ったんだ、それじゃ疲れが取れないぜ」

「じゃ、じゃあ、ど、ど、どうするというのだ!」


 ファラリスの涙目だ。


「一緒に寝るしかないだろ。ファラリス、お前がこの部屋を選んだんだ。覚悟を決めろよ」

 

「——!? よ、よし! そっちがその気なら私に依存はない。だ、だが、そういうのはまず、お互い・・・・であって・・・・そういうことは、・・・・キチンと・・・・順番を守って、その・・・・」


 ファラリスの声は途中から消え入りそうになった。


 アステルも、流石に揶揄からかいすぎたと反省し、ファラリスを抱き寄せ「ゴメン」といった。


「・・・・私を揶揄ったのか」

「・・・・ああ。でも、これからも一緒に過ごすんだ。どっちかが床で寝るなんてのはナシだ。どうしても嫌ってのなら無理は言わないけど」

「嫌なわけない!・・・・お前はまたズルい。・・・・私の気持ちはもう気付いているだろ」


 今度は、アステルが顔を上気させる番だった。ファラリスの表情がたまらなく愛おしく見えた。アステルは、喉が急速に乾いていった。ゴクッと無理やり唾を飲み込む。


「あ、ああ」返事の声が少しかすれた。


「それなら、ハッキリと言って欲しい。お前の気持ちを・・・・。そうしてくれたら、私はいつでも・・・・」


 こんな展開になるとは思っても見なかった。

 アステルもかなり焦った。

 だが、湧き上がるこの気持ちに嘘はない。


「・・・・好きだ。多分初めて会った時からな・・・・」


 ファラリスの目から涙が溢れた。


「私も、お前のことを愛している。初めて会った時から、ずっとだ」


 ファラリスがそう言って静かに目を閉じた。

 アステルは震える手でファラリスを優しく抱き寄せてキスをした。

 そのまま、二人はベッドにしずかに腰を下ろした。





 ■■■■■■■■





 アステルは目を覚ました。


 ——全く見覚えのない天井だ・・・・。

 当たり前か。昨日、初めて泊まった宿屋だからな。


 順番を守ることは大切だ。

 俺は、昨日ファラリスから教えられた。


 俺は、大概のことでは動揺しない自信があった。

 だけど、昨日でその自信が打ち砕かれた・・・・。


 神谷惣治だった頃を含めて、初めての経験は、男としては素晴らしいものだった。

 だが、とても上手くエスコートできたとはいえない。


 ファラリスが痛いのを我慢して、健気に受け入れてくれていたのが良く分かった。

 下手くそすぎて自己嫌悪に陥りそうだった。

 もう一回、昨夜をやり直したい・・・・。


 アステルは、そんなことを考えていた。隣を見るのが怖かった。


「起きたか。なら、そろそろ着替えて、食事に行かなければな。今日は色々とすることが多いだろう」


 ファラリスは、恥ずかしそうに微笑みながら言った。


「私は、悪いがもう一度(・・・・)風呂を使わせてもらう。その間に着替えて準備しておけよ」


 ファラリスはシーツをひったくって体に纏い、風呂へ歩いていった。

 

 なんだか、昨日までの、アタフタした感じが綺麗に消えていて、自信に満ちていた。まるで、何か一晩でグッと成長したような・・・・。


——これって、普通は逆なんじゃないのか・・・・。


 アステルは、また自己嫌悪に陥りそうになった。





 朝食の会場でも、二人の会話がぎこちなかった。アステルは照れしまい中々ファラリスと顔を合わせられないのだ。

 

 一度部屋に戻ったアステルは、気合を入れ直す。このまま、フワフワした気分で街に出て、どんな危険が待っているか分からなかった。

 

 ここは、敵地なのだ。アステルは自分にもう一度言い聞かせた。


「ファラリス、この部屋を一歩外に出たら、何が起こるか分からないつもりでいよう」

「むろんだ。私も今、それを言おうと思っていたところだ」





——このテザでの目的は二つ。国王と他の転移者たちの情報を得ること。

そして、もう一つは、俺たち転移者が召喚される際、召喚を行う大きな力の対価として、生贄いけにえが大量に用意された。

そのことを調べることだ。


 このテザの街の近くに、俺たちが召喚された『フェズ大神殿』があるという。ならば、生贄はその近くで集められた可能性が高い。


——現代社会だって完璧な情報統制なんてできないんだ。何かあったのなら、この世界なら必ず噂話で広がっているはずだ。


 そう考えたアステルは、情報収集中心で、一日を過ごすことにした。


「情報集めなら、商人ギルドが最適だろうが、何の後ろ盾もない我々が乗り込んでいっても間違いなく相手にされない。それなら、地道に噂話を拾っていくしかないだろう」

「何か、当てがあるみたいだな。ファラリス」

「うむ。いつもお前ばかりに活躍されては私の立場が無いからな。この街には、そういうことを生業なりわいにしている者がいる」

「・・・・情報屋か。誰か、心当たりがあるのか」

「この街の中心部にあるバラメーダ広場に、軍を退役したあと情報屋に転じた者がいるはず」

「なるほど、軍人上がりか。それでな」

「問題は、どうやって接触するかなのだ。こういったことは、私はいつもカーバインに任せていたから。カーバインは、こういう情報収集にとても長けていてな」

「・・・・立派な副官殿だったてわけか」

「か、勘違いするなよ! 別にお前と比較したわけではない。お前は、もっと頼りになるというか・・・・」


——情けない。チョッと嫉妬したのを気付かれちまった。イカンイカン。男の嫉妬は醜いぜ。


 アステルは、昨晩から、どうもファラリスに主導権を取られている気がして、落ち着かないのだった。


「とにかく、そのバラメーダ広場って所に行ってみるしかないな。案内できるか」

「私は、この街に何度か訪れたことがあると言ったな。大丈夫だ、任せてくれ」


 こうして二人は、バラメーダ広場を訪れることになった。



 バラメーダ広場は、テザの中央に円形に広がり、そこを起点に五本の道が放射状に延びている。丁度、五芒星のそれぞれの頂点の方向へ道が伸びているのだ。


 そのうち南の二本の道が、街を東西に貫く公路に繋がっていた。アステルたちは、このうちの一本の道を斜めに北上するようにして、広場にたどり着いた。


 十数万を数える都会の広場だけあって、バラメーダ広場には多くの露店が立ち並び、天幕テントも多く建てられ、立派なバザーの会場になっている。


 ここには、イドリース王国中、いや、大陸中から集められた珍しい文物が集められ、並べられていた。


 そんな中、やはり冬が近づいてきているからか、毛皮の衣類や保存食など、冬支度をするための品物が目についた。


「アステル、あれを見ろ」

「——!! あれは、昨日の奴隷商人たち。確かゴドル商会といったか」

「うむ。間違いないだろう。お前が助けた娘もああして繋がれている。」

「ちっ、他にもお仲間がいたようだな。馬車が5台にもなって奴隷の数もかなり増えている」

「話したと思うが、奴隷の市が立つのだろう。女や子供の奴隷は冬を前に売られると聞いたことがある」


 秋の収穫時期が終わり、税を収める時期が過ぎている。この時、支払いができなかった者や、口減らしをするために家族によって奴隷に売られる者が出るのだった。


「テレムセンじゃ奴隷市なんて聞かなかったぜ。なぜだ」

「テレムセンは、豊かな領地だ。侯爵閣下も、領民の慰撫に努めておられた。人口が減れば、軍事力も低下するからな」

「ベンドアは、お前の献策を良く聞いてくれていたってわけだな」

「・・・・このフェズ侯爵領は、決して貧しい領地ではないはず。だが、この規模の奴隷市を白昼堂々と開かせるとは、()()()()()()()()()()ようだ」


 アステルは、『あれだけの生贄を差し出して、たったの7人とは・・・・』という言葉をナスルの忌まわしい記憶と共に思い起こすのだった。



 

  ————————————————————————————————

 次回は、少し時間をかけて投稿したいと思います。

・・・・趣味で書き始めたとはいえ、作者のモチベーションが、そろそろ限界を迎えつつあります。もし、応援するから、続きを頑張って書けよ! て、思ってくれるなら、ブックマークのボタンを押して下さい。

さらに、願わくば下の評価の☆を★★★★★をよろしくお願いします!

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