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第48話 新たなる力


 

 ラスナバス平原の戦いが繰り広げられていた頃、アステルとファラリスは、ラースに導かれて大森林地帯を西へ進んでいた。


 アステルとファラリスは、白い大樹(リューカデンドロン)で2週間を過ごし、昨日、ラースを道案内に次の目的地へ向けて出発したのだった。


 

 この2週間の間、ファラリスは、ヤーナから風魔法について特訓を受けた。短い期間だったが、ファラリスは、アステルの力になろうと必死で努力し、低位階の風魔法を習得することができた。


 そもそも、魔法の習得には『天職』の影響が非常に大きい。この世界では、魔法を習得できない者が大多数だ。


 人口の1割を超える程度しかいない魔法使いの中で、大半が『白魔術師』と『黒魔術師』で、この中で、わずかに特殊な召喚術を操れる者がいる。


 魔術師はどんなに努力しても中位階の魔法を扱うことが限界で、それも多用など絶対にできない。備わっている魔力の総量が足りないからだ。


 ごく少数のレアな天職を持つ、先天的な才能に恵まれた者が高位階の魔法を操り、中位階の魔法を多用することが可能だった。この差は圧倒的だった。


 ファラリスの得た天職『軍司令ウォーロード』は、極めて稀少な天職だったが、本来は戦士系の天職に分類される。魔法の習得が容易になる恩恵は無かった。

 

 しかし、ファラリスは、2週間という限られた時間の中で、眠っていた才能を呼び覚まし、低位階とはいえ魔法を使えるまでになったのである。


「アステルよ、このまま進めば、テザの方向に出る。こちらで間違いないのか」

「・・・・そうだ! とはハッキリいえないが、おそらく間違ってない」


 ラースに問い掛けられたアステルだが、返事は曖昧だ。これに対してファラリスもいぶかしむ。


「なんとも、不安な答えだな。お前の記憶が頼りなのだぞ」

「そうはいっても、あの時俺は、森を抜け出ようと進むことに必死で、もう一度戻るなんて考えてもみなかったからな。ただ、出発前に話したように俺なりの推論があってのことだ。それに、昨日野営した川の近くは確かに覚えているんだ。適当な方角を言ってるんじゃないぜ。」


 ラースは頷きながらアステルの方を振り返って、

「お前は確か、フェズ大神殿から連れてこられたのだったな」

 

と話を広げると、アステルの表情が曇る。

「・・・・あまり思い出したくもないがな・・・・」


 アステルは、リューカで2週間過ごす中で、自分が異界から召喚された転移者であることや、この世界にやって来てからのことを話していた。


 ファラリスは、「お前の身に起こったこと、全てを理解したと簡単にいうことはできない。・・・・だが、私はお前を信じる。お前がどこから来たかなんて私には関係ない」と言ってくれた。アステルはそれが嬉しかった。


 一方、ラースは、「お前が、男だと!? い、いや嘘は言っていないようだ・・・・。そ、そんなことが、あるのか・・・・」 

 

 とかなり打ちひしがれたようすだった。






「見ろ! 森の切れ目に出たぞ」


 ラースの声に、アステルの記憶が強く刺激される。


——そうだ、ここはあの場所だ。この場所は、俺がこの体に転生した場所だ・・・・。


 現れた場所は、深い森の中に、そこだけ円形に切り取られたように開けていた。円の中心には瓦礫の山が残されており、周囲にも様々なものが散乱していた。


「・・・・アステル、どうやらここがお前から聞いた場所のようだな」


 ファラリスは、アステルを心配するような顔をした。


——ちっ、自分からここへ来たのに、嫌な気分になるぜ。あのナスル(クソ野郎)のことを思い出しちまった。・・・・しかし、ファラリスを心配させるわけにはいかないな。


「大丈夫。問題ないぜ。それより二人に見てもらいたいんだ。あの瓦礫の山に、何か手掛かりがあるかもしれない。俺には分からないことでも、何か二人なら気付くことがあるかもしれない」


 ラースは、バラバラに砕けた尖塔オベリスクの残骸を一つ一つ丁寧に見ながら、


「これは神代文字だな。残念だが、神代文字は今は失われた言葉で、誰も読めん。長老方でも解読はおそらく不可能だ。だが、この白い塗料で地面に書かれた魔法陣のようなものは、ところどころ読める。これは古代語だ」


「どう違うのか私には、どちらも全く読めんから、分からない」


 ファラリスには、神代文字も古代文字もどちらも読めない文字だった。


「分かる部分だけでもいい。教えてくれ」


 アステルは、元の体を取り戻すためのヒントを求めて淡い期待を寄せる。


「うーん・・・・。“悪魔の位階”、“契約主”、“汝の意志することを行え、それが法の全てとなろう”・・・・さっぱり意味がわからんな」


 アステルは、契約主という言葉で、咄嗟にあの時の()()()()()()()()()()()ナスルの顔を思い出してしまった。


「アステル、その契約主というのが、お前をその姿に変えたという・・・・」

 ラースは、探るように聞いた。やはり、少し気まずいのだろう。


「ああ、思い出したくもない最低の下種の外道だったぜ! キッチリ、落とし前はつけてやったがな! ここへ来たとき、すぐに遺体を探したが、とっくに魔物の胃袋の中のようだ。まったく何も残っていなかったぜ、まあ、丁度いい葬り方だがな」


 ファラリスは、アステルを後ろから抱きしめた。こんなにも、怒りをむき出しにしたアステルの姿を見たことが無かったからだ。


 背中に感じる柔らかな感触と、耳元で囁かれる「大丈夫だ」という慈愛に満ちた声が、知らずに滾らせていた怒りを急速に沈めてくれた。


「・・・・ありがとうな、ファラリス。ちょっとばかり、ムキになってたようだ。情けないぜ、自分からここへ連れてきておいて・・・・ラース、スマなかった。お前を怒鳴るつもりじゃなかったんだ」


「いいんだ。いいんだアステル。こっちこそ、嫌なことを聞いた。悪かった」



 この後アステルは、この円形の広場で野営を提案した。二人は、早くここを去ろうと言ってくれたが、ここなら、魔物の襲撃にも対処しやすい。絶好の野営地であることは確かだったので、アステルは敢えて強く主張した。


 この場所から、今の気分で去っていくことは、あのナスル(クソ野郎)に負けたような気持ちになるからだった。


 その晩、焚火の炎を見つめながら、アステルは独り考えていた。


——あの時、怒りに任せてナスル(クソ野郎)を切り刻んだのは、ちと早まったか・・・・。いや、奴も神谷惣治《俺》の意識が残るはずがないとビビッてた。やはり、召喚術の失敗、予想外の事態ってやつだろう。覆水盆に返らずか。仕方ない、別の道を探すしかないようだ。





■■■■■■■■


 



 次の日、朝早くから西へ向かって進む。秋が深まり、肌寒さを感じる。森の中は季節が一歩先へと進んでいた。


——!! 


「ファラリス! ラース! 強力な気配を感じるぜ。そうとうに凶悪な魔物だ」


 三人は素早く戦闘態勢を整え、身構える。


ブゥモモモォォオオオー!! アゥアゥアァァア・・・・


 森の中に不気味な叫び声が木霊する。


——なんだ!? こんなすげぇ気配は初めてだ。


 森の中に漂う朝霧を突いて、ドスン、ドスンとアニメで使われる効果音そっくりな足音をさせて、それは現れた。


 まず、その巨大さに圧倒される。体長は4メートルはある。皮膚は灰色がかったカーキ色で、全体にでっぷりと太っている。手足の太さは象を連想させる。頭は禿げているが、全身にまばらに剛毛があって醜さを増している。目の色が邪悪なほど赤く光っていた。


 一般に、トロールと呼ばれる魔物だった。


 しかし、それはただのトロールでは無かった。右手には、巨大なこん棒を持っていたが、左手には錫杖のようなものを握っている。


 アステルには、その錫杖のようなものに見覚えがあった。それは、あの日ナスル・ウーラが、召喚術を行ったときに握っていたものだった・・・・。


 近づいてくるトロールの顔を凝視する。まず、邪悪に光る真っ赤な眼光が目につく。そして、——!?


「なっ!」 アステルの背筋に冷たいものが走る。

「どうした、アステル!」


 ファラリスがアステルの異変に素早く気付く。


「・・・・や、奴の顔は、あのナスル(クソ野郎)の顔だ!」

「なに!?」 今度は、ファラリスがゾクリとする番だった。


 ム゛ンゥゥゥオゥゥーン!!


 圧倒的な威圧感に金縛りにあいそうになる。


——くそっ、あのバケモノに気圧されてたまるか!


「ファラリス! ラース! 気を付けろ、ただのトロールじゃない。用心しろ!」

「言われるまでもない。こんな恐ろしい魔物、今まで見たことがない」


 ラースは、そう言うと素早く距離をとり、クロスボウを構える。


 ファラリスも後方へと下がり風魔法の詠唱を始める。


 アステルは、トロールの側面へと移動し、攻撃のスキをうかがった。


 トロールが、唸り声を上げてこん棒を振り下ろす。素早い! 巨大な身体からは想像できない鋭い一撃だ。


 ズゥゥゥン!! という重い音をたてて土が四方に飛び散る。アステルはそれを間一髪で躱すと、トロールの右手を切り裂こうと手刀ガリュウケンを繰り出す。


 パキィィーン! という乾いた金属音と同時に、強い黄色の蛍光色の発光が壁となってアステルの手刀ガリュウケンからトロールの右手を守った。


「そんな、 防御壁プロテクションか!? トロールが魔法を唱えれるはずがない!」

 思わず詠唱を中断し、ファラリスは目の前で起きた現象に驚愕する。


 トロールは左手の錫杖を顔の前で掲げていた。素早く距離をとったアステルは、それでやはりと思い当たる。


「ラース! 無暗に撃つなよ。このままじゃ飛び道具はこいつには効かない。それより、狙いを顔に向けつつ動き回ってくれ。俺が撃てと言ったら必ず当てろ!」

「了解」と短く返事をするとラースは木々の間をスルスルと動き回る。


「ファラリス! 風魔法だ。一緒に練習したアレをやってくれ」


 ファラリスは、無言で頷くと、素早く詠唱を開始する。その間、アステルは、トロールの振り回すこん棒を避けながら、右に左にと飛び回り、無駄だと知りつつ隙をついては手刀ガリュウケンを浴びせる。


 その度にパキィィーン! という乾いた金属音が木霊するのだった。そして、アステルが待ったものが訪れる。トロールが左手に持った錫杖に()()()()()()()のエネルギーが高まりつつあった。


グゥォォー! という叫び声と共に錫杖が振り下ろされる。

「今だ、ファラリス!」


風障壁ウインドウォール!」


 超高圧の空気壁がアステルの前の創られる。刹那、振り下ろされたトロルの錫杖から爆炎が巻き起こった。中位の炎熱魔法、爆炎魔法フラゴルだ。


 ドゴン! という爆音と強烈な火炎が ()()()()()()()()!!

 風障壁ウインドウォールが爆炎を跳ね返したのである。


 ギャアァァァー!! トロールの悲鳴が響き渡る。


「ラース、撃てぇぇ!!」 アステルは、すかさず命じた。ラースのクロスボウから放たれた矢が、ドシュッと音を立ててトロールの右目に命中した。トロールは右目を押さえてのた打ち回る。


 アステルは、トロールの肩に飛び乗ると、手刀ガリュウケンを繰り出した。

シュッ!と空気を短く切り裂く音が聞こえ、トロールの太い首は、長く一緒だった巨体と永遠の別れとなった。


 倒れたトロールに近づきながら、ファラリスは当然の疑問を口にする。


「アステル、このトロール・・・・おそらく亜種だろうが、なぜ爆炎魔法フラゴルを使うと知っていた。それもなぜ、あのタイミングだと分かった。教えて欲しいものだな」


 ラースもアステルに近づいてきて、これに強く同意する。


「そうだな、おそらくだが、こいつはあのナスル(クソ野郎)の遺体を喰った。そして、クソ野郎の能力を取り込んだ。証拠は何もないがな。だがこいつが持っていたこの輪っかの飾りが沢山ついた杖、これに見覚えがあった。間違いなく、ナスル(クソ野郎)の持ち物だったからな。それで、俺はピンと来たのさ。止めはこいつの胸糞悪い顔だぜ。」


「・・・・そうか。それで、この亜種が爆炎魔法フラゴルを使うと予測したのか。だが、だとしてもなぜあの時だと分かったのだ」


「それはな・・・・うん、言っても分からないだろうから説明はナシだ」

「なんだと! ば、馬鹿にしているのか」


ファラリスは勘違いしてプンスカした。


「違う違う!そうじゃない。ほら、良く言うだろ!『考えるな、感じろ!』って。感じたのさ」

「な、なんだ、その言葉は。知らないぞ! やっぱり馬鹿にしているだろう!」


 この後、しばらくこのやり取りが続いたのだが、ラースは苦笑いしながら見つめるのだった。





 次回は、少し時間をかけて投稿したいと思います。


・・・・趣味で書き始めたとはいえ、作者のモチベーションが、そろそろ限界を迎えつつあります。もし、応援するから、続きを頑張って書けよ! て、思ってくれるなら、ブックマークのボタンを押して下さい。

さらに、願わくば下の評価の☆を★★★★★をよろしくお願いします!

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