第47話 転移者の力
金本の裏切りで、ブレナムを失ったとはいえ、まだ戦力が致命的に減少したわけではない。原野碧が前線に出て戦闘支援役を担えば、攻撃力の低下を防御力の向上でカバーできる。これがアダムの出した答えだった。
そして、アダムは勝利のため、大胆な作戦を考案した。そのために敢えて、次の日を兵士の休養と回復にあて、疲労が溜まった原野や他の白魔術師のために、さらにもう一日を休養にあてた。
食料は残り2日分しかない。作戦の失敗は、兵たちの全滅すら引き起こしかねない状況だった。
ラスナバス平原に着いてから4日目の早朝、再び二つに分割された兵士たちが、東西両方面へと進軍を開始した。
ただし、今回は東西両軍の戦力バランスは大きく偏っていた。
西側から平原迂回しつつ南方を目指す部隊は、兵士50名、アダム『聖騎士』と、葵『大魔道』が率いる。
一方の東側の部隊は、ファン『魔弓士』と碧『白魔道士』に率いられ、200名の兵士が動員された。貴重な白魔術師たちも、こちらに含まれている。残りは、後続の輜重隊となってこの後に続く。
3日前と同じく、東側の部隊は午後を迎えるまでにアルカビル川の線まで進出する。今回は、輪形陣を組む兵士たちを碧が支援魔法の防御壁で防御力を高め、ファンがアタッカーとしての役割を果たした。
盾役の兵士が傷つけば白魔術師が回復魔法で傷を癒しながら、継戦能力を維持する。
アルカビル川に到ると、またしても強敵のナーガが現れるが、碧の防御壁で防御を高めた兵士が、ナーガと距離を取りつつ防戦に努め、遠距離からファンが攻撃することでナーガを仕留めた。
「戦える! ファンさん、私たちは十分戦えるよ!」
「碧、あんたがここまでやるとは正直思ってなかったわ、アタシのいい意味の見込み違いね」
「ファンさん、実は私が一番驚いています」
「あとは、アダムと葵がやってくれるのを待ちましょう!」
東側部隊は、アルカビル川の線から南進せず後方から運び込んだ資材や土嚢を使って堅固な防御陣地を築き始める。兵士の作業を手伝いながら、時折、ファンと碧は平原の西側を祈るような気持ちで見つめるのだった。
同じ頃、アダムに率いられた平原の西側を進む部隊は、快進撃を続けていた。西側部隊は、後方連絡線を無視した。退路を断ったと言い換えてもいい。
アダムは、葵とともに西側から魔物を討伐しながら、強く圧迫し、南東方向へ追い立てていった。兵力を3日前から半分にし、精鋭だけを選抜した。
さらに輜重隊を減らした分、スピードが大きく増した。次々と魔物を屠り、休息時間を惜しんで走るように前進するのだった。
「苦しいか、アオイ。ランプレイは戦術の基本だが、ビックゲインを掴むためにはリスクをとるしかない。分かるな」
「アダムさん、僕は大丈夫。ブレナムさんのためにも絶対勝たなきゃ、そして、金本の奴を追うんだ!」
「アオイ、今は余計なことは考えるな。チームプレイは無心で自分の役割に徹することで機能する」
葵は返事の代わりに強く頷くと、荒い呼吸を整えながら、必死に前へ進むのだった。
アダムに率いられた西側部隊は、夕暮れが迫る中、遂に目的の平原の南端、アルカビル川に到達した。そこで僅かな時間、食事を兼ねた休憩を取った後、今度は川を右手に見つつ北東方向へと進軍を開始する。
すでにあたりには夜の帳が下り、漆黒に塗りつぶされていたが、葵が唱えた光源魔法が頭上に浮かぶと、魔法の強烈な光が、周囲を昼間のように照らす。
10体を越すナマズ顔の半魚人とナーガが、川から次々に現れ襲いかかってくるが、アダムの剛剣がそれらを苦も無く切り裂く。葵は氷刃を多用してアダムの側面支援に徹する。
暗闇の中を、アダムたちの部隊に追い立てられ、半狂乱となった魔物たちの集団が奇声を発しながら北東方向へ逃亡をはかっているのが分かった。葵は、光源魔法を操り、蠢く影を照らす。
数百もの魔物たちが地均しのように平原を埋め尽くして移動していた。
程なく、その魔物の集団は、東側の部隊が築いた防御陣地にぶつかった。
魔物たちは、土嚢や木柵によって築かれた強固な防御陣地の厚い壁によって行く手を遮られおしくらまんじゅうになる。
そこへ、背後からアダムと葵が兵を引き連れて接近した。
「アオイ! いまこそアレをぶっ放せ! 残ったバケモノはその後で、俺が始末する!」
「アイアイサー! 行くぞ! 雷撃!!」
闇を切り裂き、眩い閃光が走る。ほぼ同時に、ドォォン!!という耳をつんざく轟音が夜の平原を揺らす。
バチバチッ! という青白いスパークが後に続いた。
葵が再び光源魔法を唱え、辺りを照らすと、数百体はいた魔物の群れは約半分が雷撃によって焼け焦げ、無残に壊滅していた。
しかし、落雷の中心から遠かった魔物や、ナーガ数十体は未だ健在だった。
アダムは、残った半数の魔物の群れに止めを刺すべく、素早く切り込みをかけた。あたりに散乱する魔物の死骸を吹き飛ばしながら長剣を乱舞させ、手近な魔物から容赦なく叩き切っていく。それはまるで竜巻のような恐るべき破壊力だった。
アダムが作り出す死の狂乱の中、生き残った数十体の魔物が、草原の中央方向へと必死で逃れていく。
アダムは、長剣を真っ直ぐ突き上げるように掲げる。全身から真紅のオーラが立ちのぼり筋肉は大きく膨張する。掲げた長剣へエネルギーが爆発的に注がれていった。
限界点まで高めたエネルギーを長剣ごと一気に振り下ろす。巨大なエネルギーの奔流が逃げる魔物の群れを背後から襲い、魔物は全て蒸発するように消えるのだった。
無言で長剣を突き上げるアダムに、兵士たちが「ウォォォォー!!」と怒号のような歓呼の声を上げる。
その声はいつの間にか「アダム! アダム!」の大合唱になって夜の平原にいつまでもの木霊すのだった。
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