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第44話 再び大森林の奥へ(2)



「ラース、そのイェルダって方の話、詳しく聞きたいが、悪いが、俺たちはここに来るまでに体力を使い切ってしまった。よければ、リューカの中で休ませてもらえないだろうか。話は里の中ででも」


「そうだなアステル。私も、この者がイェルダではないことは、よく見ればわかるのに・・・・。失礼したファラリスとやら。お二人とも、リューカの里に案内しよう」




 アステルとファラリスは、ラースに続いてリューカの里に向けて進んだ。前回と違うのは、里を目前にしてドリュアスの長老の許可を受けることなく、最初から、長老の館へ向かうことになった。ファラリスは、吊り橋で巨大樹の枝を渡りながら、その壮大な光景に呆気に取られていた。


——異世界人の俺も圧倒されたんだが、この世界の人間のファラリスでも同じ反応だな。


 アステルは、ファラリスの表情でそう思った。


 夕食の準備が忙しいのか、今回はアステルたちを好奇の目で見つめるドリュアス族たちは少なく、途中で子供たちに会うことも無かった。


 だが、館へ向かう途中、一人のドリュアス族の女が、突然声をかけて来た。


「イェルダ、イェルダじゃないのかい!?」


 ファラリスが何か言う前に、ラースがファラリスを手で制し


「ヤーナ、この者はイェルダではない。ファラリスといって、アステルの連れの人間だ」

「そ、そんな、そんなはずはないよ。この娘からは確かにイェルダの——」

「その娘には、色々と事情があるようだな」


 ヤーナと呼ばれたドリュアス族の女が更に言葉を重ねようとしたとき、背後から男の声がした。声のした方を皆が見ると、人間ならばまだ初老を迎えたぐらいの外見の男が姿を現した。だが、この男は、実際は200歳を越える長寿を生きている。ドリュアス族の長老ベルワイドだ。


「アステル、どうやら魔物の混乱を鎮めて来たようだな。そして、再びこの里を訪れたのは、後ろの娘のことだな・・・・」

「ベルワイドさん、あなたの知識と、ラースの力を借りたくて、またこの里に来てしまいました」

「うむ。詳しくは我が家にて聞こう。ヤーナ、お前も来るがよい」





 ドリュアス族の長老屋敷には、あの日と同じく他の4人の長老衆が座って待ち構えていた。アステルは、後に続いて入室したファラリスを紹介した。緊張した面持ちのファラリスを見て、長老衆が唸り声をあげる。


「・・・・そんなに、似ていますか、そのイェルダという方に。その方はおそらく——」


 ファラリスは、きっとそのイェルダというドリュアス族の女が、自分の母親に違いないと判断し、自らベンドアに聞かされた己の出自の秘密を打ち明けることにした。





 ファラリスの話が、ベンドアによってシグリーズと名前を与えられたイェルダ

の最後に至ると、長老衆もラースもヤーナも沈痛な表情を浮かべ、ヤーナは堪らず「そんな!」と悲痛な声を上げた。


 話が終わった時、話し終えたファラリスを含め、その場の全員が重苦しい雰囲気に包まれていた。アステルは、この話は何回聞いても不愉快にしかならないと、苛立たしい気持ちになっていた。


「・・・・何とも痛ましい話じゃな。あの日、イェルダが傷ついた人間の若者をこの里に連れて来た時のこと、ここにいる者は、全員がよう覚えておる・・・・」

「我らは、古き掟のもと森の外とは関わり合いを持たぬ。それ故、人間の男をリューカの里に入れることには反対した者が多かった。それを、イェルダが何度も強く頼み込むので、仕方なく治療をする間とだけ限って認めたのであったな」


 ベルワイドや他の長老衆が当時を思い出しながら語った。そして、ベルワイドや長老衆の視線は、先ほどからずっと怒りの表情を浮かべたラースに向けられた。


「ラース、お前は、人間の男を里に入れることを一番強固に反対しておったな」

「・・・・あの男は、・・・・あの男は最初からイェルダを欲しがっていました。その欲望が見えたので、私は、災いの種になると思い、反対したのです! イェルダはあの男に騙されたんだ。そして、里を捨てて人間の男と出ていった。こうなることは、分かっていた!」


 アステルは、短い付き合いだが、ラースがこんなにも怒りの表情を浮かべ激しく興奮しているのを見たことが無かった。だから、もしかしたらラースはイェルダと親密な関係だったのかもしれないと直感的に思ったのだった。


「・・・・ラース、まさにお前の恐れたとおりになったな。しかし、そうだとしてもイェルダが連れてきた男は、その娘さん、いやファラリスの父親でもあるんだぞ」


 ラースは、その言葉にハッとなり、怒りを鎮めていった。そしてファラリスを向くと「申し訳ない。お前の父親を悪く言うことになった」と頭を下げた。


「そんな、謝らないでいただきたい。私にとってもポリメラという男は、父親らしいということは分かったが、それ以外まるで知らないのだ。それより、聞かせていただけないだろうか、ラース殿そしてヤーナ殿、あなた方と母との関係を」


 ファラリスは、しっかりと二人を見つめて語り掛けた。




 ラースの話は、アステルにとって直感の正しさを証明するものになった。ラースはイェルダと仲の良い幼馴染で、周囲も仲の良い二人がいずれ結ばれるだろうと予想していた。ラースもまたリューカでも1番美しい娘だったイェルダを密かに想っていた。それが、ポリメラという人間の男が現れたことで一変した。


 元々、外の世界に憧れを持っていたイェルダが、容姿端麗で知性溢れる青年だったポリメラに心を奪われたのは、ある意味仕方がない運命だったのかもしれない。

 

 一方、ヤーナは少しだけ予想を裏切られた。ヤーナはイェルダの母親の妹だった。イェルダの父親は、ドリュアス族の中では珍しい『戦士』のような存在で、母親は『風魔法』の使い手だった。二人は、白い大樹(リューカデンドロン)を森の魔物から守るために戦い、ある日、強力な魔物との戦いで命を落とした。残されたイェルダの生活の面倒を見たのがヤーナだった。


 イェルダがリューカを去る日、ヤーナは必死に思い止まるように説得した。それが、心残りだったとヤーナは話すのだった。


「二人の話を聞いてると、本当にイェルダとファラリスは似ているんだろうな」


 アステルは、感想を口にした。するとラースは


「顔は本当によく似ている。背格好もな。だが、髪の色や目の色は違う」


 と言い、ヤーナも同意するように深くうなずいた。イェルダはやや緑がかった金髪で、瞳も神秘的なヘーゼルアイだったという。ヤーナは、ふと大切なことを思い出したといった表情を浮かべ、ベルワイドへ向きを変えて言った。


「ベルワイド様、このファラリスという娘から私や姉と同じ、魔力の流れを感じます。イェルダには無かったのに・・・・。きっとこの娘は、良い術師に成れます。どうか、私にこの娘に風の魔法を授けることをお許しください」

「——!? わ、私に魔法の素養が? 城では術師たちがその素養がないと言っていたが・・・・」


 ファラリスは、突然のヤーナの発言に困惑する。ヤーナの願いを聞いたベルワイドは、頷きながら、


「なるほど、我にもこの娘から風の力を感じるな。・・・・ファラリスよ、そなたが自らに魔法の素養がないと思っているのは無理がないこと。魔法は、認識の力。できるという認識が無ければ何も生まれん。もちろん、身に備わった魔力が弱ければ、そもそも何もできんがな」


 この話を聞きながら、アステルは妙に納得することがあった。自分は何も分からずに高度な回復魔法が使えた。しかし、魔法を使っているときこれが()()()()()()()などとは考えなかった。できて当然という無意識が起こした奇跡だった。アステルは、少しだけこの魔神の体を使いこなす秘訣を知ったような気持ちになった。


「もし、私に魔法が操れるのなら、それはアステルとの旅、これからの戦いにも大きく力になると思う。ヤーナ殿、私からも是非ご教授願いたい」


 ヤーナは少しだけ微笑みながら、頷くと


「ファラリス、やはりあなたは、イェルダの娘ですね。好奇心がとても強い。分かりました。あまり長くはここに居ることはできぬでしょうし、風の魔法の手ほどきをさせて頂きます。後は、自分で旅の途中、研鑽を重ねるほかないでしょう・・・・それと、あなたは()()()()()()()をするのですね」

 

 と言った。ファラリスは、気恥ずかしそうに髪を触りながら


「い、いや、この話かたは、よく言われるのだが、騎士たちと過ごす時間が長くて、その・・・・」


 と口ごもったが、ヤーナはまた微笑むと、「変なことを言ったみたいね」といって気にしないように言うのだった。



 こうして、ファラリスは短い時間だが、風魔法の特訓を受けることになった。アステルは、その間を使って自分の体の秘密に迫るつもりでいた。




 ————————————————————————————————


 次回は、本当に久しぶりに、他の転移者たちが登場します。特訓を終えた転移者たちの活躍? に、こうご期待。


ここ数話は、PVも安定していて、大きく跳ねることが無くなりました。読者が付いて来ているか不安でしょうがありません。


 毎日投稿は、読まれているという実感がモチベーションを維持する上で本当に重要だとつくづく思います。ブックマークボタンと評価を押して下さった方、本当にありがとうございます。続きを書くように背中を押して下さる方は、どうかブックマーク と ★★★★★ をよろしくお願いします。

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