第43話 再び大森林の奥へ(1)
第3章は、幕間(4)の約2週間前から始まります。分かりにくいかもしれないので補足として書きました。
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アステルはテレムセンを出た後、ファラリスを伴って北を目指した。またも大森林地帯を目指したのである。
アステルが大森林地帯を目指したのには、理由があった。王都を目指すのなら、公路を西へ進み、旧ジョベル伯領目指すのが最短ルートだが、逃亡したザビールによって神谷惣治のことはサーゲイルなりに既に伝わっているだろう。ならば、公路を堂々と辿るのは、相手にこちらの存在を知らせることに繋がる。
コソコソと隠れるように遠回りするのは不本意だが、堂々と正面から挑むには、あまりにも敵は強大で、相手に戦力の集中を許してしまう。そしてそれは、無関係な者を巻き込んで要らぬ被害をまき散らすことにもなる。
アステルの狙いは、あくまでも相手のスキを突いた奇襲だった。奇襲を狙うなら、こちらの居場所は敵に知られてはいけない。そのために、敢えて危険な大森林地帯を北上するのだ。
出発する前にアステルは、ファラリスにこの考えを伝えた。ファラリスは、
「同感だ。公路を進むのも、大森林地帯を進むのも、どちらも危険だが、無関係な者を巻き込む危険性は極力避けなければならん。ならば、どちらを選ぶかは決まっている。・・・・それに——」
そう言って、ファラリスは何かを決意したような表情をする。
「私の中に、大森林の奥に住むというドリュアス族の血が流れているのなら、是非一度かの者たちに会ってみたいのだ」
こうして、二人の旅の最初の目的地は、大森林の奥にそびえ立つ、白い大樹となった。
出発して最初の夜、二人はテレムセン北方の丘陵地帯にて野営をすることにした。日暮れ前に周囲が見渡せる小高い丘の上で荷を下ろし、天幕を張る。ここまで来る途中、通った林で集めた小枝を薪にして焚火を行う。簡単に火を灯すことができる棒状の魔道具があるのだ。
——まるでライターだ。必要は発明の母ってやつはどの世界でも同じか。
アステルは、野営慣れしたファラリスがテキパキと作業を進めていくのを感心しながら見つめた。ファラリスは、その視線に直ぐに気づく。
「何をそんなに物珍しそうに見ているのだ。お前も、これまで旅をしてきたのだろう」
「いや、《《元》》お姫様の仕事ぶりが凄く手際良いので見とれてね」
「ばか者、私は軍人だぞ。見習い騎士の頃から、野営は数え切れぬほどやってきた。二人だけの野営準備など、何でもない」
「・・・・そうらしいな。ところで、寝袋は一つでいいんじゃないか」
「——!? ば、ば、ばか者! そういうのは、ま、まだ早、早い!」
ファラリスは一気に耳まで真っ赤に染まる。あたふたしてさっきまでの凛々しさがどこかへ・・・・。アステルは笑みを浮かべながら
「いや、野営するなら、一人づつ見張りをするだろ。冷えるから寝袋は一つにして、それを交代で使えばって思ったんだけどな」
「——!? な、なら、最初からそう言えばいいのに! お前は、少し意地が悪いぞ!」
予想通りの反応を示すファラリスを愛おしく思いながらも、こうやって揶揄う俺は、言われる通り、やはり意地が悪いのかもしれないと思うアステルだった。
アステルとファラリスは、二日かけて北上し、大森林地帯を眼前に見る所まで来た。大森林地帯は、以前の魔物大氾濫が起きた時と違い、此処からでも既に魔物のものと思しき禍々しい気配が漂っていた。
先日のテレムセン軍との戦いで敗れ、北へ追い返された魔物や、新たに森の奥から湧き出た魔物が潜んでいるのだろう。アステルとファラリスは、もう一度携行品や食料を確認し、気持ちを入れ直して森へ足を踏み入れるのだった。
森に踏み入って程なく、アステルは3体の強烈な敵意を持った気配を読み取る。次の瞬間、木々の間から矢がアステル目掛けて飛んでくる。アステルは、その矢を見切ると素早く身を逸らして矢を躱す。
直後、「グギャギャギャ!」という悍ましい叫び声が複数響き渡り、三方向からカーキ色の肌の150センチ程の怪人が姿を現した。
「アステル、気を付けろ! ゴブリンだ」
アステルにとって初めて目の当たりにする、ファンタジーの定番の魔物だった。しかし、アステルは既に亜種オーガを瞬殺している。ゴブリンはアステルにとって敵ではなかった。
3体のうち、もっとも距離が近いゴブリンに飛ぶような速度で接近すると、ゴブリンが手にした錆びた剣を構える間を与えず、アステルの手刀が首を刎ね飛ばす。そのまま10マール(地球の距離で10メートル)程の距離を加速し、弓矢を手にしたゴブリンが矢をつがえたまま弓矢ごと切り裂かれる。
残った最後の1体は、ファラリスが繰り出した流れるような斬撃を頸部に受け、声もなく地面に倒れた。
この間わずか十秒程のできごとだった。
ファラリスは、相変わらずのアステルの技の冴えに惚れ惚れとしつつも、この大森林を進むことの厳しさを予感するのだった。
大森林はやはり魔の森と呼ばれるのに相応しい魔物の領域だった。ゴブリン、魔猪、魔狼が4、5体の小さな群れで何度も襲撃をかけてきた。
それを、アステルとファラリスは次々に打ち倒していく。アステルの探知能力は、魔物の奇襲を未然に防ぎ、ファラリスが魔物の特徴を捉えた戦術を素早く提案していく。こうして戦いを続ける中で、二人の連携は確実に上達していった。
アステルが大森林を魔物大氾濫を追って南下した時は、同じ場所を通り抜けるのに一昼夜の時間を要した。しかし、今回は朝から森の中を進んで日が暮れかけても、まだ半分も来ていなかった。
——拙いな・・・・。ファラリスの疲労が限界に近い。今夜は、俺が気合いを入れて見張るしかないようだ。
この魔物の巣窟の中で野営をするのは極めて危険だが、仕方なく野営の準備を始める。昨晩までの、雰囲気と違い、二人とも冗談も無駄口も一切なく、ピリピリとした緊張感が漂う。いつでも移動できるように、天幕は張らず、焚火もしない。二人で簡単な食事を済ませると、
「ファラリス、今日は俺が先に見張りをするから、お前は先に休むんだ」
そう言って、ファラリスを先に休ませる。寝袋に包まれたファラリスだが、緊張感から中々寝付けないでいた。無理はない。ここは魔物の海の中なのだ。アステルは、ファラリスの手を握り、美しい金髪を優しくなでる。
「・・・・気持ちが安らぐな・・・・。こんな恐ろしい場所なのに・・・・。お前が一緒なら・・・・私は・・・・」
「・・・・早く寝ろ・・・・」アステルは囁く。ファラリスはコクンとなずくと、やがて疲れから深い眠りに落ちていった。
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二人が、魔の森を抜け、白い大樹に到着したのは、翌日の日暮れ近くだった。遠くにリューカの巨大な姿が見えた時、二人は積重なった疲労が吹き飛ぶような感動を味わった。
すると、多数の警戒感を持った気配が周囲の木々からアステルたちを取り囲む。アステルが始めてドリュアス族のテリトリーに足を踏み入れたあの時と同じ気配だ。
「アステルではないか! 良く、戻ってきたな」
ラースの声が、薄暗い森の中に響き渡る。ラースとは、まだ森の出口で分かれてから十日余りしかたっていなかったが、その声はとても懐かしくアステルの心に響くのだった。
程なくドリュアスの青年ラースが、木々の間から姿を現した。
「ラース! また、お前たちドリュアス族の力を借りたくて戻ってきた」
「アステル、どうやらお前はスタンピードを鎮めることができたようだな。うん? その女は・・・・」
ラースは、アステルの後ろで成り行きを見守っていたファラリスに気が付く。するとラースの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「——!? イ、イェルダ!! イェルダではないか!」
「・・・・失礼だが、人違いだ。私はそのような名前ではない。私の名前はファラリス。このアステルと旅をするものだ」
こう返事をしたファラリスだったが、ここへ来る途中、何度も頭の中で考えてきたことが、さっそく起こったのだと緊張感を強めた。
——これから会うドリュアス族の中に、もしかしたら自分の容姿から、母の存在に辿り着く者がいるかもしれない・・・・。
ここ数話は、PVも安定していて、大きく跳ねることが無くなりました。読者が付いて来ているか不安でしょうがありません。
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