第42話 幕間(4)
「どういうことですか!! いったい、なぜ報告がないのです!」
サーゲイル・ロードは自室にて、バン! と机を叩き、独り大声をあげる。1カ月前、失踪したナスル・ウーラと神谷惣治を追跡するため、配下の中でも信頼できるアイヴァーたち3名を派遣した。
当初は、頻繁に報告を上げてきた3名だったが、2週間前から、ピタリと報告が来なくなった。最後の報告は、調査のため訪れた東方のテレムセンの宿からで、内容は、『姫将軍』ファラリスと行動を共にする謎の美女を調査対象にするというものだった。
通信宝玉は、王国内でも僅かしか存在しない希少性の極めて高い魔道具だが、サーゲイルは惜しまずにアイヴァーに持たせた。それを、何度も呼び出すが、全く反応が無いのだ。
2週間前、何かがあったことは確かだが、確認する手段がない。テレムセンに向けて、3日前、新たな追跡者を派遣したが、その者に渡す通信宝玉はもうないのだ。よって王都に帰還して報告を受けるまでは、かなりの時間が必要になる。
サーゲイルを苛立たせるのには他にも理由があった。失踪した神谷惣治、『女教皇』の橘莉紗を除いた5名の転移者たちは、王都での訓練を終え、いよいよ実戦へと投入されることになった。
問題は、その投入先だった。『ラスナバス平原』の平定に使用されることになったのだ。
『ラスナバス平原』 この地は、遥か東方から続く公路が王都より南方へ進路を変え、これが平原の中央を縦に貫き、南海へと続く交易ルートとなっていたが、2年前から突如現れた魔物が増殖を始め、現在では、強力な護衛無くして一般人の通行は不可能な魔境と化してしまっている。
当然、何度か討伐軍が送られたが、被害を増やすばかりで、まるで成果を挙げていない。
このラスナバス平原の更に南方に、都市国家アンダルスが存在する。アンダルスは南海に面した海洋都市国家で、貿易によって富を蓄え国防の充実にも余念がない。イドリースは海への出口とアンダルスの蓄えた富を狙って過去、何度も遠征軍を送ったが、その都度、手痛い敗北を喫してきた。
イドリース国王ファーガスは、ラスナバス平原より魔物を駆除し、アンダルスに再度侵攻する計画を企てているらしかった。
——魔物の種族も数も不明なまま、まだまだ経験不足の貴重な転移者たちをぶつけて、なぜ使い潰すような真似をするのです!?
サーゲイルは、この無計画な討伐軍から橘莉紗を外すのに苦労した。そのために、橘莉紗の訓練がまだ不十分である。体調がすぐれない。など、つかなくていい嘘を重ねる羽目になった。
これに対して国王ファーガスは、サーゲイルに向けて冷たく言い放った。「今回のラスナバス平定が不首尾に終わった場合、お前をラスナバスに送る」と。
異界の転移者を用いて、イドリースの武力を一気に増強する。この計画の責任者として、サーゲイルの立場は宮廷内で大きく上昇した。しかし、今回の結果次第では、その王からの信頼を一挙に失う。それを避けるためにも転移者たちのサポートは万全にしておきたい。配下のアイヴァーたちの戦力は重要であったのだ。
ラスナバス出発を3日後に控え、サーゲイルの苛立ちは強くなる一方であった。
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橘莉紗は苦悩していた。
原因はさっきまで一緒にいた原野碧から切り出された話だった。
「莉紗、私たちは3日後に出発するけど、・・・・莉紗は一緒に行けないの」
「どういうこと!? 出発って、碧、どこに行くの? 私たちって、他の人たちも一緒に行くのね。私は何も知らされてない!」
「そうなの、サーゲイル様は、莉紗には秘密にしていたんだね」
原野碧は、思った通りという表情をしたが、その中に悔しさを滲ませた。
「碧、教えて。碧たちはどこへ行くことになったの?」
「・・・・莉紗、無理しなくってもいいよ。莉紗は、特別だから。特別だからサーゲイル様から大切にされているの、私たちは分かってるから」
莉紗は、碧が何かを勘違いしてると分かり、慌てた。
「碧、やめて! ・・・・何をいってるか分からないよ。サーゲイルは、私をこの別館に閉じ込めて、めったに外にも出してくれないの。碧とも、この3日間会わせてもらえなかったの!」
「・・・・莉紗、サーゲイル様のことを悪く言うのやめて。自分が特別な存在だからって自惚れないでよ」
「——!? 違う! 碧・・・・」
碧の強い言葉に莉紗は声を失う。これまで、碧がこんなに強い口調で非難めいた言葉を吐いたことを莉紗は見たことが無かったからだ。
「来るんじゃなかった。・・・・莉紗、私はみんなと行くね。結果を出さないと、私たちのせいでサーゲイル様が困るんだって・・・・。私も準備が大変だから、しばらくここには来ないから」
最後は、目を合わせることもなく原野碧は部屋から出ていった。残された橘莉紗は茫然とするのだった・・・・。
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初めての投稿作品で、緊張しながらも、ポイントが増えていくのが嬉しくて、毎晩仕事が終わってから遅くまで書いています。こういう表現は良くないかもしれませんが、今は「脱なろう底辺作家」を目指すことが、モチベーションとなっています。




